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アニミ物語  作者: カボバ
1月編
183/276

19






「これが、ミリアが言ってた面白いこと?」


「笑ってください。」



「ごめん、そこまではさすがにできない。」




仲直り宣言をしたあと、見計らったかのように雨が降り出したのでそのまま建物の中に招かれた。



建物の周りを1周したときに結構広いと思っていたが、建物の中央には大きな庭があった。


庭には大きな木と小さな池があり、姿を見ないと思っていたユイトのティーはその小さな池でやっと降り出した雨を堪能していた。




(家というよりは庭を見るための通路みたい…。)


その通路に生活に必要なものが綺麗に配置されている。



だから壁から生えたテーブルに2人で座るには横並びで座るしかないし、突然の来客に走り回るブラウニーズはヒラリヒラリと独特の走り方をしている。



寝室や水回りであろう場所はさすがに窓がないが、その他の部屋は中庭に面して窓があるため様子を見ることができる。






「いつからこの状態?」


「あの夜からですね。」


「ってことはもう3週間はこの状態ってわけ?」


「そうですね…。」


「不便なこともいっぱいあるんじゃない?」


「不便もなんか最近は折り合いが付くようになってきました。」


「ならいいかとはならないからね。」



ユイトのティーがこちらに気づいて室内に入ろうとしたが、濡れたまま入ることをユイトが止めたためどうしようかと少し悩む仕草をしたが池へ戻って行った。




ユイトは何度触ろうとしても崩れてその都度もとに戻るこちらの手を観察している。



「タモンさんはなんて?」


「別に異常なことではなくて、むしろ成長してる。とのことでした。」


その返答にユイトは唸り声を上げる。




「なら僕が何かいうのは余計なお世話だ…。」


「それはそうなんですけどね。」



手を振ったり叩いたりしてもちょっと気を緩めれば崩れるところを見せながら話す。




「話せる人には話して、ひとつでも多く意見が欲しかったんですよね。」


わからないことが多いからこそ、足し算のように答えや答えに至るまでの過程はひとつではない。



その方法をまだほとんど知らない手探りの状態だからこそ、先を歩く人たちの意見はひとつでも多く欲しかった。




「ユイトさんはティーと喧嘩とかしなさそうですよね。」


「そんなことないよ。」


ユイトは庭の池を指差しながら言う。




「ああ見えてめちゃくちゃ噛むし、どうして原理か知らないけど力も強いんだ。何か伝えたいことがあると襟とか袖を引っ張ってその勢いで転ぶこともしょっちゅうだし、そのくせこっちの言うことはちっとも聞かない…。」


さっきだって、ミリアがいるから言うこと聞いただけだよきっと。と言うとため息をひとつ吐いた。



「確かに何考えてるかわからないのも困るけど、行動や声でそれを知らせてくれたって理解できないことの方が多い。言葉を理解して会話できるティーもいるけど、言葉が通じたからって解決できる問題でもないんだ。」



テルマのような言葉を交わすことができるティーは多種多様に居て学生の間でもカウンセリングの真似事のようなことをするし、将来はそういった就職を目指す人も多い。



だからと言ってテルマがティーに噛まれないかと言ったら、そう言うわけではない。




言葉が通じるからこそ他の人よりティーとの折り合いをつけるのは苦労するだろうし、意見の食い違いがよりわかりやすい。





「ミリアのそれが成長してる状態なのか何か気に入らなくてへそ曲げてる状態なのかわからないけど、本当に困らないならもうしばらくその状態でいるのはありだと思う。」



初めてこの状態を肯定的に捉える意見をもらった気がする。




「生活に支障がなくて、動物のティーは触れるけど場合によってはそれすらすり抜けるんでしょ。」


ユイトの言葉にうなずく。



「ミリアは自覚してないかもだけど、明らかに危ない人物から標的にされてるんだ。正直学園内だって安全とは言えないわけだし、オンオフの切り替えを曖昧に、どちらかと言えば常にオンの状態にしておくくらいがいいんじゃない?」


触れないと言うことは捉えられないと言うことと同意。



あくまで現状はという頭がつくが、それは最強の自衛になる。




「それもそうですね…。」


足元を見る。



濃い影は勝手に動くことをしないが、勝手に消えることもしない。




「それから、これは僕の勝手な意見なんだけど。」



この言いにくそうなことを言う前の仕草には覚えがあった。




「ティーにもっと言葉をかけてみたほうがいいんじゃないかな?」


「言葉を?」



「そう。正直ミリアみたいなタイプのティーがどうかはわからないけど、ティーとのコミュニケーションって最初は一方的にたくさん投げるくらいの方がいいと思うんだ。それに話してるうちに解決案が出てくることってあると思うし。」


「確かにそれはそうですね。」


一方的なお願いや指示ばかりで、ティー側の意思を感じたり考えたりすることはなかった。


なかったと言うより、現状言葉を介する方法がないと知った時点で諦めていた面がある。






「さてと…。雨も止んだみたいだし、みんなに謝りに行くの付いて来てくれる?まずはチナリのところから。」


「もちろん。」




色々考えてその考えの沼に沈みかけていたが、うまいこと引き戻された。





 

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