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アニミ物語  作者: カボバ
1月編
181/276

17





足を止めた島は小さな公園のような場所。


島だけど地面は芝だし花壇もあれば中央には木も植っている。




しかしチナリはそのどれも見ておらず、端の方までいくと対岸を見る。



その視線の先にはめいっぱいの建物がのった小さな島。


しかしその島に続く橋はどこからも延びていない。




「あそこに私たちの長がいるわ。」


「あそこへはどうやって?」



至極真っ当な疑問を口にすれば、チナリはふふっと笑った。



「どんな方法でもたどり着ければいいのよ。」


つまり手段は選ばない。




少し考えて空を見上げる。


いつもよりも空がずいぶんと遠くなっているし、いつの間にかどんよりと雲が埋め尽くしていた。




島の端に立って水面を見てみる。


水の流れは速く、底はうかがえないほど深いようだ。





「もうずいぶん姿を見てないのよ、居るのはわかるんだけどね。」


「食事とかはどうしてるんです?」



「あそこにも一通りの生活はできるようになってるし、ブラウニーズが出入りしてるわ。彼女たちは私たちとは理が違うから、道がなかろうが何があろうが使命を忠実に実行してるの。」



きっと家で帰りを待っている彼女も今日から住まいをどこかのクラブハウスに移すと言えば、着いてきて何不自由ない生活を送れるようにしてくれるだろう。




「私はここを渡る手伝いはできないの。」


チナリが困ったように言えば、ティーが相槌のように水面を跳ねる。




(まぁ、地面がないとかは私にとって関係ないけど…。)


さんさんと陽が出ていたら少し難しかったかもしれないが、今なら問題ないだろう。




「それじゃあ行ってきます。」


ためらうこともなく一歩を踏み出す。




あげた足に少し遅れて延びた影は水面を掴むような動きをし、足の裏が着地する所に正確に滑り込む。



安定しない足場にぐらぐらと体が揺れたが、問題なく対岸まで渡れそうだ。



影を踏んでいるはずなのに足の裏には流れる水の感触が伝わってくる。


しかし沈まず足裏を撫でる感覚に、くすぐったさを感じて頬が緩む。







なんとか声を出すことなく対岸までたどり着けた。



この島は人1人が歩けるだけの余白を残して、建物がどっかりとのっている。


建物は普通の家のような窓もあるのだが、ずいぶんと高い位置にあるので簡単には覗けそうにない。





(とりあえず玄関を探すか…。)


ここに住んでいるというならあるはずの出入り口を探すことにした。



たどり着いた場所から左右を確認して、なんとなく右側から回ってみる。





小さな身長では中を伺い見ることができない窓の位置を確認しながら進む。



本当にこの島はどこにもつながる橋がない。





結果的に最初の選択を反対方向に進めば角ひとつ曲がるだけで済んだところを、余計にふたつ曲がって数段の階段を左右に備えた玄関までたどり着いた。






まずはノックしてみる。


中からは何も聞こえない。




少し考えてもう1度ノックしてみることにした。



「ユイトさん、ミリアです。」


今度は声をかけながらノックする。





すると少し間が空いてバタバタと中で走る音が聞こえた。


しかしその音は目の前の扉よりも少し離れた位置で止まった。





「ミリアです。ユイトさん、お久しぶりです。」


またノックしながら声をかける。




リズムの安定しない足音が近づいてくる。


今度は扉の近くで足音が止まった。




「ユイトさん、ミリアです。少し遅くなりましたけど、無事に帰ってこれたので挨拶に来ました。」



扉の向こうからは何も聞こえない。


でも離れる音もしなかったので、まだそこにいるのだろうと思い話し続ける。





「ちょっといろんなことがあったせいでみんなより少し遅れて帰ってくることになったけど、私ちゃんと帰ってこれましたよ。」



結局何を話すかと言うのを考えていなかったと今更後悔する。




「すごく調子がいいんです。プロモーションっていうのも初めて参加して、みんながびっくりしてる顔がとっても面白かったんですよ。」




話している間も小さくノックを続けていたが、その手を下ろして小さく深呼吸する。





「でも私、ちょっと面白い状態になって…。そのことを誰かに相談したいのにどうしてこんなところに1人でいるんですか?」



口から出た言葉はずいぶんとこじつけというか八つ当たりのような言葉になってしまった。





もう1度腕を上げてノックする。


先ほどまでは扉に拳を裏返してノックしていたため軽い音がしていたが、今度は握った方を押し付けるようにノックしたため重い音がした。





「先輩は帰ってきても引き続き治療が必要みたいで毎日気軽に話せないし、姉さんには事情は話せても解決まで頼れないんです。」


ゴンっと鈍い音をたてるノックを止め、扉に押しつけた拳をよりいっそう強く握る。






「…今までみたいに2人で一緒に話せませんか?」




ユイトと話す時は2人だけの時がずいぶんと多い。




初めて話したのは移動中の影の中。


雨の日の夕方に閉じられたユリ殿。


時間を持て余したティータイムに、知らない街での散歩。


みんなが集まる庭で誰にも見つからない秘密の場所。




ユイトが自分のことを話すより、こちらの話を聞いてもらったことのほうがずいぶんと多かった。

そして今もまたユイトは何も話さず、でも離れるわけでも突き放すわけでもなくこちらの話を聞いてくれているのだろう。






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