13
それだけ言うと扉の閉まる音がして、それに続くように部屋から離れる足音が聞こえた。
その音が完全に聞こえなくなってやっと視界を塞いでいた手が外された。
「そういえば、先輩は普通に触れますね。」
「最初に言うことがそれか…。」
先ほど感じた違和感の正体。
それは普通に触れることができている点だ。
「目は大丈夫か?」
「何ともないです。さっきまで妙にチカチカしてた感じだったんですけど。」
何度か余計にまばたきしてみたが、先ほどまで感じていた違和感はすっかりなくなっている。
「なら、大丈夫だな。触れるのは俺も似たような存在だからだろ。」
リンカが恐る恐る手を伸ばして触れようとしたが、やはり触ったはずの場所は崩れてしまい残念そうな顔をする。
「動物のティーがおおよそ共通して体の大きさを変えられる能力を持ってるように、俺たちのティーも共通して似たような力が使える。それがミリアは少し早く出ただけだ。」
今の状態が異常というわけではなく、あくまで成長したということらしい。
「そういうのも教えないとな…。」
ティーのことを学ぶためには、似た系統のティーを持つ相手に教えてもらうのが1番だ。
そのための学園だが、今知っている教師も物か動物のどちらか。
つくづく先輩が居てくれてよかったと感じる。
「とりあえず、今の私の状態は異常ではないって認識で大丈夫ですか?」
「むしろ一気に成長して喜ばしい限りだ、成長痛が出ないといいな。」
背が伸びるのと同じ感覚ということでいいのだろう。
「人とティーとの区切りはまた今度練習しよう。今日はもう帰ったほうがいいな、悪いけど外までミリアを送ってもらえるか?」
1人でいる時にまた遭遇したら面倒だとタモンが言うと、リンカはうなずいた。
それからうながされて2人で部屋を出て先を歩くリンカの後をついて行く。
「リンカ、ありがとう。」
建物を出て改めてリンカにお礼を言う。
「どういたしまして。ねえ、ミリア。」
リンカはティーを持ち直す。
「もう、1人でここにきちゃだめだよ。必ず誰かと一緒に来てね。」
「それって…?」
どういうことと聞こうとしたところで言葉が止まる。
リンカが手を伸ばして持っているティーの掌を頭に乗せてきた。
そして撫でるような動きをするようにリンカが動かしたところで思わず吹き出してしまった。
「ダメだよリンカ、ティーにこんなことさせたら。」
頭の上のティーを両手で下ろし、リンカに返す。
「何かしたかったから、ごめんなさい…。」
「怒ってるわけじゃないよ、ありがとうリンカ。」
そういうとリンカの顔がパッと明るくなった。
最近はどんどんリンカもいろんな表情を見せてくれるようになったと感じる。
「それじゃあ、また明日ね。」
「うんまた明日。」
リンカが建物の中に戻るのを見送ってから帰路に着く。
「というわけでとりあえず異常事態ではないということが確定しました。」
「それは進展はしてるけど解決じゃないわね。」
金曜日、いつもの授業が終わり昼食をとりながらひとまずの報告をする。
「闇雲に走り回らなくてすみそうでよかった。」
本当にそれはそうだった。
「今日の午後がプロモーションの最終受付だったよね?」
「朝ユノカ先生に聞いたけど、誰も申し込みしてきてないって。」
「1人か2人くらい起き上がってくるかと思ったんだけどなぁ…。」
「やっぱり悪役だろ。」
ユウガの言葉にムッとする。
「そういう気がしたんだよ、まぁ今回は起き上がるのが間に合わなかったのかな。」
「もしくはへし折られたところに足を取られてゴロゴロ転がり落ちてくか…。」
コウヤが怖いことを付け足したが、実際そういうこともあるという話。
「ちなみにみんな発表内容考えてる?」
コナミの言葉にみんなが1度黙る。
「一応。」
「何となくは。」
すぐにそう答えたのはコウヤとテルマだった。
「まぁ、何とかなるかなぁ。」
「正直今最大の悩み…。」
続けて答えたのはユウガとミチカ。
「最初の試験だから何やっても基本的にプラス評価とは言われたけど、内容自由は難しいよね。」
言い出したコナミも悩んでいるようだ。




