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アニミ物語  作者: カボバ
1月編
167/276

3





「えっ、起きたんですか。」


2人を残して学生は帰路についた翌日。




「うんそうだよ。もう少し早く目覚めてれば他の子達とまとめて帰れたのにね。」


作業のお目付役として来たのはアダンだった。



後から来たアダンが教えてくれたのは今朝タモンが目を覚ましたと言うこと。




「とりあえず今日は1日中検査だろうね。」


「まぁ、そうなりますよね、」



1週間近く寝た状態だった。


それだけで身体が平気なわけがない。





「言っておくけど、君もこれが終わったら帰る前に医者のところに行くからね。」


「えー…。」



「何がえーだ。その体の状態とその前の状態、それに今身体に起こってること。君たちは2人ともティー自体が特殊だから鈍くなってるのかもしれないけど、どれひとつとっても本来なら身体が拒否して正すべき症状だ。」



日に何度も行う吐き気を伴った作業。


ティーとの対話を試みて約3日の絶食と生理的欲求の消失。




そしてそれまで身体とは別にあったはずのティーがそうで無くなってしまっている状況。



その全てがアダンに言わせれば異常そのもの。


できることなら身体に負担のかかる作業だってすぐにやめさせて別の方法を探すべきではないのかと意見したそうだし、それが待てないならせめて体調面に問題がないか確認するべきだとも言ったそうだ。




(ただ私自身が吐き気は伴うものの今のところ自分の足で毎日行き帰りできているし、食事も睡眠も問題あの後普通にできてしまったせいで意見保留になったんだけど…。)


あれだけできなかったことに悩んだ飲食も、あの時の拒否はなんだったのかと思えるほどあっさり自分の中では解決した。




数日ぶりの食事をした時に部屋の人形が喜び踊り出した時はとてもびっくりした。




「それで、この作業は後どれくらいで終わる見込みなんだい?」


アダンの言葉はもはや諦めがたっぷり含まれたため息のような声だった。




「早ければ今日中、遅くとも明日の午前中には出し切るだろうって言われました。」


残量の感覚が相変わらず自身ではわからないが、被害状況やら何やら理解の追いつかないところで大人たちがいろいろと計算をしてくれた結果の答えだ。



もちろん今のペースを崩さず、体調面に大きな変化が現れなかったらという前提は付いた。




そしてその瞬間はいきなり来た。


もう陽も傾き始め今日はこれが最後かと大きく深呼吸をしてから、何度も繰り返した動作をなぞるように慎重に動く。


響き渡る轟音がほんの少し小さく感じ、さらには予定よりも随分と短かった。




「…終わったみたいです。」


手のひらを見てもう1度差し出した状態で出そうとしても広がり始めた影はすぐに弾けるように霧散した。


それがティーなりの出し切った合図と受け取って間違えないだろう。




アダンが騎士の1人にこれが最後だと言う話をしに行っている間、他のものを出してみる。




(今まで何気なく色々入れたり出したりしてたけど、中では混ざらないようにしてるんだよね…?)


オレンジのバラを取り出して指先でちょっと回しながら観察する。



もらったあの日のままひらくことも枯れることもない。




結局容量の限界も行動の限界もよくわからないままだ。



「話は終わったよ。」


戻ってきたアダンが声をかけるまで気付かないほどボーとしていたようだ。



「それは大切なものかい?」


手に持っていたバラを指差して問われる。




「そう言うわけではないですけど、思い出の1つです。」


言いながらバラを影の中に入れる。




「確かこの時危ない綱渡りはやめろって言われたんですよね。」


ふと思い出した。




「それ言ったのアズハでしょ?」


「わかります?」



「そりゃあわかるさ、君の周りでそんなこと言いそうなのはあの子くらいだ。」


他の人たちならもっときつい言葉で止めるか、またはもっとやれと焚き付けてくるだろうことは容易に想像できる。




「そう言ってくれる人も大切にしなさいね。」



ないがしろにしているつもりは一切ないのだがと言いたかったが、帰ってくる言葉にさらに返す言葉が見つかりそうにないので適当に同意しておく。






医者のところに行くと言っても、今の身体の状態では検査や医療行為のようなことはほとんどできない。


問診と経過観察のための1泊入院がせいぜいできることだった。




(異常なしというべきか保留というべきか…。)


医者も釈然としない様子だったが、だからと言って何ができるわけでもない。



それから事後処理のため何かあるかもしれないとさらに数日屋敷に滞在して、明日学園に向けて出発するとなったのはオベロやエイタたちが出発してから1週間が過ぎたころだった。




往路は療養という名目上、夜にはどこかに宿泊するのんびりとした旅だった。


しかし帰路は入学の時と同じように時間優先。




(生活するのに問題ない設備と食料とお世話係を乗せて1週間かぁ。)


屋敷を出る日。


部屋から出て歩く後ろをいつまでも人形がついてくると思ったら、そのまま移動車に乗り込んだ。



口頭で確認すれば、送り届けるまでお世話をしてくれるようだ。




(いったい誰が、いつの間に命令を書き足したんだろう…。)


人形自身に意思があるのかはわからないが、表情はなくともしぐさに滲み出て楽しそうにあれやこれやとやってくれる人形を見ていて嫌な気持ちにはならない。



動く車内で食べて寝てもう何度も読んだ本を読んでいたらあっという間の到着。




やっと帰って来れた、と思う程度にはもうここが自分が今いるべき場所だと心の底から思えているのだろう。





 

一度投稿したのですが、修正などなどがあったので上げ直しました

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