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アニミ物語  作者: カボバ
1月編
165/276

1






「ミリア、大丈夫?」


「…大丈夫に見えますか?」



弱々しい返答にオベロは返す言葉がなかった。


なぜか彼の味方のはずのティーまでが唸り不快感を現している。




あの朝から2日が過ぎた。


当初の予定では終わればすぐに学園に帰る予定だったが、まだ留め置かれている。




「あとどれくらい?」


ティーを撫でながら戻ってきたエイタが聞いた。



「まだまだですね。底が見えないので、残量もわからないです。」


帰れない理由はいくつもあるが、そのうちの1つが被害状況の確認だ。



あの日、屋敷を襲った土はどこからどうやってきたものなのか、


それを調べるために、その日のうちに屋敷から少し離れた街の外で出してみることになった。



しかし火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、冷静な思考の状態で入れたものを出すと言うのは思った以上に難しかった。




「やってることは、意識して吐いてる感じなんだっけ?」


「言わないでください…。」


本当にその通りなのでできれば意識したくなかった。



入れる時に感じた擬似的で終わりのない嫌な満腹感。


それを出すのだからその感覚は嘔吐感で間違えない。





実際最初に出した時、皆が出したものの方に注目している後ろで嘔吐した。




(といっても3日も飲み食いしていなかったせいで、出てきたのは黄色い液体だけだったけど…。)


喉を焼くような痛みを伴って出てきたのは胃液だった。



すぐに気付いた大人の誰かが声を上げたことでちょっとした大騒ぎになったが、それをさらに超える騒ぎが別の場所でも起こった。





土と木だったものの中に混ざる明らかに自然にはないはずのもの。


切り出され丁寧に形を整えられた木片。



そして無数のガラス片に不揃いな金属片。


その異常さが明らかになったのは、土にまみれた服が出てきた時からだった。





そこからはもはや手の届かないところでの大騒ぎ。



(土や木だと思ってたものが、実は家や建物でしたなんて笑いばなしでも悪趣味すぎる…。)


何が起こっているか調べるために全てを出してほしいと言われ同意した。


正直入れておいて何かの役に立てるとも思えないし、役立てたくもない。





「そろそろ、次をお願いしてもいいですか?」


恐る恐ると言った様子で聞いてきたのは、この調査のためにわざわざ集められた騎士の1人だ。




姿勢を正し大きく深呼吸する。



冷たい空気がまだ痛みの残る喉に刺すような刺激をもたらし、たわんだ意識をピンと張り詰めさせてくれる。


手を前に差し出せば影が広がる。



(そう、決めた合図の通りに…。)


壁のように守るためのものと最初は決めていたが、今は吐き出すための口として少しずつ大きく大きくしていく。




背を超えそれでもどんどんと大きくしていったところで、いっぱい息を吸った。






それを合図に影が広がるその向こうでは轟音が響く。


そうやって吐き出すのも長くは続かない。



その辺り一体を埋め尽くすほど出して影は破けるように消えた。


音が止み、こちらが合図を出すと大人たちが土や木をかき分けて何かないかと探し出す。





(兄さんがいなくて本当によかった…。)


この作業に集められた騎士たちは志願というかたちを取ってはいるが、ある程度の信用と契約を結んだ人たちだ。


儀式慣習的に臨時で招集された学生が入る隙はなかった。




名誉ある仕事ではあるが、決して外部には漏らせない。



そのために人に話そうとすれば舌を焼き、書き記そうとすれば指を潰す。




そういった契約を結んだ人たちだから難しいかもしれないが今この作業の間だけは信用してほしいと言ったのはクロルだった。




あっという間に人を集め体制を整えて調査する環境を作った。



もちろん1人の力というわけではないことはわかっているが、これが大人というものかとどこか他人事のように見ていることしかできなかった。






影が消えると共に襲ってくる疲労感と吐き気。


足元がふらつけば温かい感触が背を押す。




「いつもありがとうございます…。」


硬い毛並みに顔を埋めながら言えば低く唸る声で返事が返ってくる。




「少しは慣れるといいんだがな…。」


大きなクマのティーを撫でながらスオウが言う。




「吐くことに慣れるのはちょっと勘弁してほしいですね…。」


「それもそうか。」


確かにすぐ吐く状態から吐き気がするという程度にはなったが、これが完全に無くなるとなるとそれは体が無意識に伝えている警報を無視することになりかねない。



わざわざストッパーを壊してまでやるほど急ぎではないというのも再三注意された。





「今日はあと一度くらいかな?」


「体力的にもそのくらいで終わってくれると助かります。」



「相変わらず身体は不思議状態?」


そう言いながらエイタが肩に触れようとしたが、その手は肩のある場所崩しスオウのティーに触れる。




「こっちは相変わらず、どうしていいかわからないです…。」


困ったことはもうひとつ。



あの日以来、人に触れられることができなくなった。


相手が手を触れようとすれば崩れるし、こちらから触れようとしても崩れる。


なぜか動物のティーは例外で触れることができるため、意識がなくなった時に運ぶ要員として3人が作業についてきてくれている。



エイタは興味関心でついてきている面が強いが、心許せる相手が近くに1人でも多くいたほうがいいだろうと目こぼししてもらっている。






「タモンがいれば、吐き出す作業だけでももう少し早く進むんだけどね…。」



意識を失った後の話。


ティーが触れられると言うことはすぐに判明したので、運んだ実績のあるスオウが呼ばれ念の為にとオベロもついてきた。


意識が戻るまでとりあえず部屋にと連れて行けば、寝室とは別の部屋で眠ったままのタモンと必死に起こそうとし騒ぐバラ姫様のティーが居た。





予想外の光景に動けなくなる2人。


たまたまそのタイミングで目を覚ましてみた光景はオベロが寝ているタモンを思いっきり引っ叩く瞬間だった。




疲れとか倦怠感とか満腹感とか全て吹っ飛んで意識が覚醒し、2人には事情を説明した。





(結果として1発ですんだのはいいのか悪いのか…。)


寝ていると言う症状は一緒だが、唯一まだ目覚めていない。


外から医師が呼ばれ診察がおこなわれ、能力由来であると言うことはわかった。




聞き取りもおこなわれ状況から、バックアップという能力の特性から人以上に影響を受けてしまったのだろうと言う結論に至った。




 

ヌルっとはじまりました、1月編。

あんまり長くならない予定(未定)

 

3日くらいの絶食だとまだ固形物出る可能性はあるよなぁとは思ったけど、物語らしさ優先。

次回まで更新してその後しばらくお休みの予定です

(再開は3月1日予定)

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