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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
164/276

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「ミリア!」


アマジが呼び止め、ティーの条件を破らないよう注意し手を伸ばす。



腕を掴んだ。


しかしその手はすぐに何もない空間を握り潰す。




掴んだはずの腕が黒い煙のようなものになって崩れ、そしてさっていく姿は変わりない腕に戻っている。



アマジはそれ以上追えない自分にイラだった。





(絶対におかしいけど、今はそんなこと考えてる場合じゃない。)


まっすぐ走る。




またしてもなぜかわからないが大丈夫と謎の自信で扉を開けずに走り続けた。



何が起こったかなんてわからない。


ぶつかると思った次の瞬間には扉の向こう側を走っていた。



そのまま通路になっている部屋を走り抜け、さらに玄関も走り抜ける。




地響きの音がさらに大きくなった。



そして目の前の光景も信じられないものだ。




見渡す限りの土。


いや土が多いが、木や他にも何か混ざってその塊が押し寄せてきている。



あまりに想像を超えた光景に足が止まる。


しかしすぐさまドンっと背中を押されてまた走る。




(アマジ先生のティーがつくった壁は触れる事ができる…!)




門を出てすぐに土の壁。



そこにアマジのティーがつくりだした壁がある。



両手をピッタリとくっつけるように壁に触れる。


すると見えなかった壁は広がる影でその姿をはっきりとさせた。




左右に。


そして上に。




広がり続ける影はあたりをより暗くしていく。


広げれば広げるほど影に伝わってくる感覚に足が震え、立っているのがやっと。




土の冷たさ、混ざる木々や他の何か尖ったものがその先端をより強く押し付けている。



広げれば広げるほど。


途方もない感覚が襲ってくる。





(まだ、もう少し…。)


広がる影が覆いつくすまでまだもう少し。


そのもう少しが焦ったい。




『せっかちだね。』



自分の口から自分が思ってもいない、言った覚えのない声が出てきた。


その声を聞いた途端何が面白いのかわからないが、声を出して笑いたくなった。



口の端から思わず漏れる声は、歯を食いしばるものでも嗚咽でもなく笑い声。





(さぁ、準備はできた。あとはお願いを口にするだけ…。)


どこかで影が最後の隙間を埋めた。


頭の中で思い描く言葉すらウキウキという感情が伝わってくる。



口から大きく息を吸い、少し時間をかけて吐く。


それを3回繰り返した。



そしてもう一度大きく息を吸った。



(言う言葉はわかってる…。そうだよね…。)





「喰らいつくして!!」






これまで影の中に何かを入れるのは自分のためだった。


でも今目の前にあるものを影に入れるのは、自分の背中のその向こうに居る人たちとこれから旅立つ火を受け取り未来への希望を願う人たちのため。


全身に感じていた押し寄せる感覚は一瞬にして消えた。



そのかわりに間を開けず腹の中を満たすような感覚に襲われる。


あっという間にいっぱいになるのかと思いきや、苦しいし辛いがまだまだ入る。



瓶に注がれてるのではなく風船を膨らませているような。


いつかは限界が来るが、その限界が今は見えてこない。



数秒か、それとももっともっと長い時間か。


わからないが終わりは突然に訪れた。




全てを飲み込み終えた。


見えていないがそう感じた。



影を解けば辺りが一瞬にして明るくなる。


どうやらまだ陽は登っていないが、朝がきたようだ。



白み始める空を見上げれば、まだ瞬く星が見えた。




膝から力が抜け仰向けに倒れる。


背に広がる影がポコポコと押しているが、中に入れる余裕も立ち上がらせる余力もないようだ。



今度こそ襲ってきたのは眠気だ。




足音が聞こえる。


でもその足音は走り寄ってくると言うよりは、一定のリズムでウキウキと踵を高く上げ歩いているように聞こえた。











男は鼻歌を歌いながらほんの数時間前まで確かに森があった場所を歩く。


無惨に潰され押し流された大地をその終着点となった人物に向かって歩き寄る。



地面に仰向けに寝る少女の前まで来ると片膝を付いて頬を軽く叩いた。


目覚める様子のないことに鼻歌は笑い声に変わる。




「さて、どうしようかな…。」


おもむろに首に手をかけようとしたところで、男は後ろに飛び退いた。




「それ以上は触れないでもらおうか。」


槍を横に振り抜いたアマジは息を切らしながら言う。



槍先は残念ながら相手を掠めることもできず、しかし次の一手に備え護るために槍を構えた。




「あぁ、最強の盾をつくりながらその手に持つのは最強の矛。なんとも不愉快で不恰好なティーだ。」


男は今し方自分を襲った相手に対して楽しそうにそう言う。




「今ならその子のティーを食べれると思ったんだけどね。」


男は立ち上がりアマジに背を向け歩き出す。



アマジは何も言わず追おうともしない。



「みんなによろしく伝えておいてくれよ。あの時子供だった子たちと、今の時代の子供たち。」



そう言いながら男の姿は少しずつ消えていき、その声は言葉の端から反響したように聞き取りづらいものになっていく。




「今回は命拾いをしたね。1番の末っ子に感謝することだ…。」


男の姿は完全に消えた。



アマジが睨むその先からは太陽が昇る姿が見え始めていた。







「女の子をいつまでも地面に寝かせておくのはどうなんだい?」


開けたままの門。


その内側から声がかかり、槍を抱えたままの状態で地面に座っていたアマジは振り向く。




「末っ子がちょっとおかしなことになってて…。でもそのおかしさに救われたんですよ、父さん。」


歩き寄ってくるアダンに見せるように寝ている子の手を取ろうとするが、黒く霧散し掴む事ができずそれがおかしいと言わんばかりにアマジは笑いながら言う。



「この光景もそのおかしさの一端かい?」


アダンがあたりを見回しながら言う。



「それについてはまた別です。」


アダンを見るアマジの顔が一瞬にして険しくなる。




「大人たちを集めてもらえますか?至急お話ししたいことがあります。」


「そうだね。でもその前に、この子をどうにかできそうなティーを連れている人を呼んでこよう。」




いつの間にか先ほど掴めなかった手に擦り寄るアダンのティー。


他の人がいるときは興味のないふりをしているくせに、こんな時だけずる賢いやつだとアダンはため息を吐きながら屋敷の方へ戻っていく。




「ほら、父さんが行ってしまうぞ。」


アマジの言葉にハッとしたようにティーが屋敷の方へ走っていくのを見送る。




着ていた上着を脱ぎ寝ている子にかければ、今度は体が崩れる事なかった。



「せっかくの新年だっていうのにな…。」


アマジのその言葉に応える声はなかった。






世継榾編おわり

このまま明日から次章を2話ほど更新予定

(詳しくは活動報告)

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