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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
161/276

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(さて、ここはどこなんだろう。)



見渡す限りの暗闇。


それはこの数ヶ月で見慣れたものになっていた。





(天井が無い、それに壁も無い…。)


どんな影の中でもいつもは果てを見つける事ができた。



そこに壁がある事がわかったし、あるべき天井に手を伸ばせばどう言うわけか触れる事ができた。




なのに今はどうだろう。


足元は今まさに立っているから地面があるのだろう。



しかしそれ以外が見当たらない。




(今は体が崩れそうにもない…。)


手を見て触り、パンっと叩いてもみた。


ちゃんと崩れずに手としてそこにある。




当たり前のことだが、その当たり前を約1日ぶりに実感した。



(歩くか…。)


何もしないで何か好転するとも思えず、まずは簡単な行動に移すことにした。


とりあえず今向いている方向に歩き始めた。




周囲の静寂は残念なことに足音すらたてさせてくれない。






しばらく歩けば何かが見えてくる。



見えると言っても黒一色の世界でなぜかそこにあると認識できるそれは背丈よりもう1人分ほどの高さまでの壁だった。



(これなんだっけ?)


どこかでみた事があると思いつつ、まっすぐ進むことは不可能になったため壁に沿って歩く。




そう大した時間進まずに壁は終わり門が見える。



見覚えはあるが朧げだったはずだ。


それはバラ殿の入り口だった。





中途半端に開いた門から中に入り少し進めば道の上部に架けられたアーチが見える。




(確かここでバラ姫様と問答をして、その時もらったバラはどうしたんだっけ…。)


考えながらアーチの下に入ると、ここで初めて自分以外に色のあるものを見つけた。





(そういえば、どうやって飾ろうか考えてたけど結局影の中に入れたままだったんだっけ。)



あの時と同じ場所。


ひとつだけ流れに逆らって地面スレスレに咲こうとしているオレンジ色のバラが一輪。




地面に膝をついて掬い上げるように手に取れば、確かにあの時のバラで間違えないようだ。



持って行ったところで必要になるかもわからないため、今はそのままにしておくことにした。




建物の中に入るのは避けることにした。


横の道を行けば奥の庭に辿り着くのかと思えば、道も建物も途中で消えてしまった。




振り返ってももうそこにバラ殿のような場所は無くなっている。


そこから、街のような場所を過ぎて今度は唐突に扉が現れた。




ドアノブを回し開けてみれば、自分のティールームだった。


椅子もテーブルも棚も、そこにあるのはわかる。




(部屋を出るなら、今入ってきた扉から出るのが正解。だけど、ここでは…。)


ベランダに出る扉はまた中途半端に開いている。


扉を押し開け外に出る。



そして振り返ればまた何も無くなっていた。




それからまたしばらく歩けば今度は上へ登る階段。



それは自宅の2階にある部屋に直接出入りするための階段だ。


手すりを掴んで階段を上がればまた扉。





開けるとそこにはキラキラと輝く花が床1面を埋め尽くしていた。


形のいいものを彼女が飾り、お眼鏡にかなわなかったものを何かに使えるかもと影の中に入れていた。



1度目は遠慮気味にお願いして分けてもらったが、2度目は彼女が遠慮など必要ないと言わんばかりに強引に押し付けてきたことを思い出す。




結局1つの大輪と加工に差し出したいくつか、それから手間の心付けとしてわたしたもの以外はそのままにしていた。



部屋を出ても今度は消えずに簡易的なキッチンと反対には寝室の扉。




しかしそこには行く必要がないと直感的に感じ、廊下を進んで階段を降りる。



階段を降りてすぐに目についたのはいつも食事をとるダイニングテーブル。



そこには大小2枚の皿が置かれていた。




(これはいつ入れたんだっけ…?)


そのうち時間を見つけて入れたものを整理しなければ、などと考えていたら扉の開く音のようなものを感じた。


玄関とは反対の方向。




キッチンの横から聞こえた気がしてそこに向かった。


1度だけ入ったパントリーの扉がほんの少しだけ開いていた。



中に入って奥へと進む。


毛布とブランケットが床に無造作に置かれている。



剥ぎ取られてすぐにダイニングの方に出たので後ろを気にしていなかった。


てっきり彼女が片付けたものだと思っていたが、無意識かティーの意思かで中に入れていたようだ。






さてこの部屋は正真正銘行き止まりだ。



(可能性があるとするなら…。)


ブランケットと毛布を掴んで頭からすっぽり被る。




ふとあの時なぜティーに撃退ではなく、自分を守って欲しいと願ったのかを考えた。



(あまりにも自分勝手だけど、ティーに人を傷付けてほしくなかったのかな…。)


なぜそう思ったのかと聞かれれば明確な理由はない。



強いて言うなら避けれるなら避けたかった。


その程度なのかもしれない。




そんなことを考えながら目を閉じる。


数秒後目を開ければ今いた部屋の光景も消え、毛布とブランケットも消えていた。





立ち上がってまた歩き始める。





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