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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
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「できれば、今のこの状態をやめたくないんです。」


正直つらい。




そしてこの状態をやめてしまうことはきっと、ひと言ティーにお願いすれば簡単に叶うだろう。





「耳が痛くなるくらいの静寂の中で、何かが聞こえたきがしたんです。」


それは果たして聞こえたと言ってしまっていいのだろうか。




もしかしたら自分が知らない感覚が拾ったのを、どう言い表していいか考えた結果聞こえたとなったのかもしれない。



「きっと私にしか聞こえないし、今を逃したら次があるかわかりません。」






意思疎通の方法が全然違うところを通っているティーと初めて接触し、その小さな交点から必死に何かを伝えようとしてくれている。




「だから、もう少しだけ何もせず待ってくれませんか?」



終わらせることと同じく手助けを頼むのも簡単だろう。




しかし、それが正解なのかわからない。




「いくつか聞いていいか?」


「はい。」



「昨日の夜からずっと寝てないだろ?」


「そうですね。うとうとしたり正直意識がはっきりしてない時間はあったと思うので、寝てたかもしれませんけど…。」


「その間、食事や水分補給それからトイレなんかは行ったか?」


そう聞かれて改めて思い返せばお腹も空かないし喉も乾かない。




タモンが来るまでソファーから立ち上がりすらしなかった。



あれだけ緊張状態が続いていたのに汗をかいたという記憶もない。




(まるで影の中にいる時みたいだ…。)


そう考えながら首を振る。



「今、状態的には少し楽か?」


言われてみれば確かに、立ち上がることもできるし集中していなくても身体の形が保てている。


時計など意識していなかったから1番つらかったのがどのタイミングかというのはわからない。



それでもほんの少しの気の緩みで瓦解してしまいそうな危うさを全身の皮膚から紙1枚離れた場所に感じている瞬間もあった。




「確かに楽ですね。」


その返答にタモンが少し考える。




「また後で様子を見に来る。」


タモンはそう言って部屋を出るため踵を返した。



「ありがとうございます。」




「俺も、似たような症状に心当たりがある。」


「参考までにその時はどうしましたか?」



話をして少し気持ちに余裕ができた。




「俺の場合は何日も耐え続けた。いろんな人に迷惑かけながら、誰にも助けを求められなかったし誰も助ける方法がなかった。」


「それじゃあ、私は助けてくれる先輩が居て幸せですね。」


なんでそんな表現になったのか、わからない。




タモンは何も言わずに部屋を出て行き、その向こうの扉が閉まる音まで聞こえた。


再びソファーに座る。



今は遠くに見える炎に対して何も感じない。




(日が高いからかな…。)


今、思い出した。



1番つらかったのは、月明かりもなく外の炎だけが光源として部屋の中に影を作っていた時だ。








 

「どうでした?」


タモンが部屋を出れば扉のすぐ横で待っていたユイトが声をかける。



「大丈夫だった。まだ会話はできたし、俺と話してる間何かしてくる様子もなかった。」


「じゃあ…。」



「今行くのはやめろ。俺が無事だったからって、お前も大丈夫とは限らない。」


むしろそっちの方が危ないとでも言いたいような口調だ。




「ユイトは先代やミヤトからきいてるだろ?俺が、俺のティーが昔何をしたか。今のミリアはそれに近い状態だ。」


それだけを聞いて、ユイトは次に言おうとしていた言葉を飲み込む。




ユイトが人よりも早くティーを理解したことで継ぐことになった責任。


継ぐためにたくさんのことを継承もされた。


どんな些細な話も過去の出来事も未来に障壁とならないように。



そのことが今ユイトにとって数少ない後輩に助ける手を差し伸べることを拒ませている。





「日が暮れてから様子を見にくる、ユイトも戻って休め。」


「わかりました…。」


言葉をかけ去っていくタモンを見て下唇を噛み締めながら言うユイト。




(結局、何もしてあげられない…。発現の瞬間、僕が近くにいたのに…。)



話には聞いていた。


入学する数年前に起こった出来事。



それが今ミリアを中心に起こっている。


結局知識があっても行動に移せなかったという事実が、ユイトをゆっくりと締め上げていく。





やがて、ここにいても何もできることはないと自身の部屋に戻っていく。



ユイトのティーが出てきて扉の方を気にしたがすぐに主人の後を追った。








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