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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
157/276

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部屋に戻り、出迎えてくれた人形にショールを渡してリビングの方へ入る。


震える足になんとかいう事を聞かせてソファーまで辿り着いた。




座ったのか倒れたのか。


大きな音を立ててソファーに背を預ければ窓の外、遠くに炎が見える。




人形が片手にティーカップ、もう片方にブランケットを持って動いている。



「今はどっちもいらない。部屋の明かりを消してくれる?」


絞り出すような言葉に人形はすぐに従ってくれた。





外の炎の灯りが部屋に薄い影を作る。


しかしソファーの周りには色の濃く不規則に動く影があった。




(足先が…、指先が溶けて行くみたい…。)



何度となく影の中に手や足、時にはその身全てを入れた。


しかし今回はそれとは違う。




指先が大河に落とされた色水のように、足先が息を吹きかけられた朝霧のように。


散って消えていこうとしている。



影と同一になった指先がハッと思い出したように形をとり戻してはまたゆっくりと散ってしまう。




(指を擦り合わせた時、一瞬触れなかった…。)


ユイトに声をかけられ声を出す前にほんの少しの暖を求めて無意識で行った。




しかしその瞬間指の1本が、あるはずの手に触れずするりと抜けてしまった。





左手を右手に重ねる。


なんの問題もなく重なったと思った瞬間、右手は小さな黒い霧を巻き上げながら左手を貫通させてしまった。



このまま全身が影になって散ってしまったらどうなるのだろうか。


そう想像をしてしまえば、思考は一気に恐怖に支配される。



今はまだ大丈夫な全身を抱え込むようにして力を入れれば自分自身の存在を感じられるが、ほんの一瞬でも気を抜けばすぐに崩れて腕があらぬところに入り込んだり足が半分ほど消えてしまう。


恐怖からくる緊張と想像力にどんどん体力が持っていかれる。



たまに目を開け顔を上げれば遠くに炎の灯りが見える。


なぜかそれがとても憎く感じてしまう。




正確には違う感情なのかもしれないが、お腹の奥底でズンッと重く居座るその感情は間違えなく不快だ。



しかしその感情は的外れなものだということも頭では理解している。


恨む理由などありはしない。



あの明るさがなければ、今自分の周りに居座るティーとそれ以外の暗闇の境界すらわからない。





こういう時、物や動物だったらどんなに良かっただろうかと考えてしまう。


そうであればこの不快感の理由も、今起こっている状況ももっとはっきり見えただろう。



しかしそれができないから今までお願いという方法でティーに動いてもらっていた。




結局理解はできていなかったことを知る。



思考はぐるぐると答えのない問答を繰り返す。


そうしているうちにうつらうつらと眠りに落ちかけては、身体の崩れる感覚にハッと意識が戻る。






何度繰り返したかわからない。



それでも真っ暗だった空が段々と白み始め、そこからさらに夜の闇をどこかへ押し込んでしまうほど長い時間が過ぎた。


乱暴に扉を叩く音が聞こえすぐに人形がリビングの扉から出ていった。




まぶたが重い。


そのまま眠ってしまえば次に起きた時まだここに座っている自分が居るのだろうか。





「ミリア。」


聞き覚えのある声に目を開ける。



「先輩、どうかしましたか?」


意識を集中し立ち上がり、部屋に入ってきたタモンの方を向く。



たったそれだけの動作でも緊張と恐怖から心臓が早鐘を打ち、身体のいたるところがカッカッと熱くなるのを感じる。




「どうしたも何も…、大丈夫か?」


言葉が途中で切れたのは、考えた末にそれでも言葉を選んでいる場合ではないと悟ったためだろう。



「ユイトが俺に助けを求めてきた。」


昨日何も説明せず別れたことがよくなかったのだろう。




「あとで、ちゃんと謝らないとですね…。」


「そうじゃない。」



タモンが手を伸ばし肩に触れる。


しかし手の重さを感じたと思ったらすぐに消えた。



その部分だけが霧散するように形を崩し真っ黒になり手を通してしまう。


タモンがすぐに手を引いたため1つ深呼吸するうちに肩は元に戻った。




「昨日の夜からティーの様子がおかしいんです…。」


「その状態もあくまでミリアのティーなんだな?」


「他に理由が考えられないので、そうだと思います。」


きっかけがあったからこそ断言できる。



「何か必要なものはあるか?」


「・・・・。」



何かいるかと聞かれ長い時間の葛藤を思い出す。




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