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「それで、今度は何があった?」
「お話がしたいと言う理由でちょっと攫われてました。」
どう言えばいいか言葉を選んだが、帰ってきたのはため息だった。
詳しくというほどではないが補足でオベロも居てティーが護ってくれたことなども話したが、タモンの表情は大して変わらなかった。
「ティーは反応しなかったのか?」
だいたい何か物が飛んできたりすれば気付くよりも先にティーが動く。
「たぶんですけど私に怪我させようとかこのままじゃ怪我するとかでないと反応しないんですよね。」
今回はあくまで4人で行うゲームのターゲットおよび景品だったのだろう。
「それでも、抵抗しようくらいあったろ?」
「人4人を飲み込んでどこか遠くに出すことはできますけど、4階の窓の外とかだったら取り返しのつかないことになるかと思って止めました。」
その辺りは練習不足というより練習のしようがない。
ティーに任せて何かあってからでは遅いのだ。
「学園のクラスメイトならわかるが、ここにいる大人たちは大半がその程度では怪我もしないから次回からはティーに任せろ。」
「次回がないことを願ってください。」
できればないほうがいいに越したことはない。
「それで攫ってきた人たちは?」
「2階の部屋でアダンさんが説教してます。」
「じゃあ、安心だな。あの人子ども関連で怒ると誰も止められないから。」
怒られるとわかっていてなぜやるのかと思ったが、イタズラとはだいたいそういう物だと考えるのをやめた。
「ミリア、できればそのティーをミイロに返してきてほしい。」
「わかりました、部屋はどこですか?」
「ここから中庭に出てまっすぐ正面の建物、スペードの4階クイーンの部屋だ。」
少し遠いが歩いたところでそう大した時間がかかるような場所ではない。
「俺は夕方まで寝る。今度はトラブルに遭いそうだったらすぐ逃げろよ。」
自分も先ほど少しうとうととしていた時間があったので早朝からの移動で今の時間が眠いのはよくわかる。
(昨日ギリギリで到着して朝早起きして移動してきて、心配かけたのがトドメになったかなぁ…。)
部屋に帰ろうとするタモンをティーが呼び止めるように鳴いたが、大きな手で撫でられるとアッサリ一緒に見送ることに納得してくれた。
「さて、行きましょうか。」
一応どこかに行ってしまわないようにティーを両腕で抱え中庭に出る。
忘れていたわけではないが外の寒さに足が止まりティーを持つ腕に力入る。
中には雪の痕跡もないが、季節はしっかり冬。
歩く歩調が気持ち少し速くなる。
「すごいね…。」
道なりにまっすぐ進めば中央に薪が綺麗に積まれた台の前までやってきた。
思わずでた言葉に腕の中のティーも反応する。
まだ陽が高いがあと数時間もすればここに火がつく。
「きっとすごく綺麗なんだろうね。」
そういうとティーはもぞもぞと動いた。
(嫉妬かな?)
それを言ってしまって、へそを曲げられるのは厄介なので再び歩き出す。
「ミリア。」
目的の建物の中に入るとまたしても見知った人物に出会う。
「どうしたの?」
「お届け物です。」
腕に抱いているティーをエイタに見せる。
「あぁ、なるほど。だいたい察した。」
事情を言わなくても通じたようで感謝しかない。
「ついでに7の方々にも会いました。というか、攫われました。」
変にぼかして間違った伝わり方をする前に安心要素を塗り替えておく。
「なんで無事なの?」
「教えてもらっていたので自衛できたのと、色々と助けてもらったので。」
エイタのティーが肩にとまろうと飛んできたが、腕の中にいたティーに威嚇された。
「それで、感想は?」
「世の中にはまだ知らないこともびっくりすることも多くあるんだなぁと思いました。」
どれに対しての感想なのかわからないが、答えるとするならばこのあたりが妥当だろうか。
手を伸ばしてエイタのティーに触れれば、今はそれで満足というように主人の元へ戻って行った。
「事前に知っていたので、なんとか対応もできました、ありがとうございます。」
「俺は何もやってないよ。」
話しているうちに外を歩いて冷え切っていた体はすっかり温かくなり、そうすると色々込み上げてくるものがある。
「それじゃあ、私はこの子を届けて部屋に戻ります。」
「俺はここの隣の部屋だから、何かあったらいつでもおいで。」
「ありがとうございます。」
そう言ってエイタとは別れ4階を目指す。
(誰にも会わないのはいいことなんだろうなぁ。)
まだまだ面識のない人の方が多いため誰かに会うかもしれない緊張感は想像以上に体に悪い。
4階に辿り着きクイーンのプレートがかかる部屋の前まで来る。
4回ノックする。
「あら、あなたが連れてきてくれたの?」
扉を開けたバラ姫様が驚いた顔をしてそう言った。
「せっかく姿を見る機会をいただけたので、お送りさせていただきました。」
そう言ってティーを差し出すとティーはすぐに駆け出し、ひと鳴きしたあと姿を消した。
「よかったら、お茶でもどうかしら?」
「せっかくのお誘いですが、色々あって少し疲れてしまったので部屋で休もうかと思います。」
「大丈夫?」
あくまで純粋に心配してくれているのだろう。
「早起きしたので少し昼寝をすれば大丈夫です。」




