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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
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40




鹿の面を抱えたままタモンと館内を歩く。



「白紙は空いてる部屋を割り当てられるが、どこの部屋だ?」


「ダイヤの4です。」


タモンの問いにすぐさま答えた。



「ということは建物も階も違うな。」


案内板と書かれた知らなければ絵画かと思う立派な額縁の前で立ち止まる。



「見ての通り、この館は4つの建物が庭をぐるっと囲むかたちで立ってる。」


そこにあった絵図を見れば、単純に四方に建っているわけではなく面白いかたちをしていることがわかる。




「3部屋並んで階段を挟み、方向を変えて1部屋。これが1階から4階まであって、1階には中庭とその反対に出るための通路で1室分。2階と3階には談話室とか共有スペースとして1室ずつ。残った13部屋がそれぞれ割り当てられてる。」


少し変な形をしているが、難しくない作りで一安心した。




「それぞれの建物は各階渡り廊下で繋がってる。まずは自分の部屋に行ってみろ。」


「わかりました。」


今いるのがクラブの建物1階なので、この案内図によれば時計回りに1つ建物を移動して階段を登らなければならないようだ。




「庭の火を点けるのは日が暮れてからだ。くれぐれもめんどくさいのに捕まらないようにな、ここは大人も子供も面倒なのが多すぎる…。」


そう言ったタモンは一瞬後ろを気にするように首を動かした。



つられてそちらを見たが、人の姿はどこにもないように見えた。




「何かあれば、俺の部屋はこの建物の4階角だ。」


そう言ってタモンは足早に部屋に向かって行ってしまった。




廊下を歩き部屋へと向かう。


今の所誰かに会うことも見かけることもないが、少し周りに警戒しながら部屋を目指す。



最初の建物から隣の建物に移動し、階段を上がって並ぶ部屋の中から目的の部屋を見つける。


カード式の鍵をかざせば解錠音が聞こえ、扉をを押し開ける。





部屋の中の最初は独特の匂いがした。


煙を焚いた熱と脂が長い時間をかけて部屋に使われている木材に独特の光沢と香りを存在させている。



不思議と嫌な匂いではなかったが、重厚な木材で仕上げられた桶や樽の中にでもいるような閉塞感を感じる匂いだ。


今朝ひと足さきにホテルから運び出された荷物は入ってすぐの場所に置かれていた。



荷物はひとまずそのままに、まずはリビングとキッチンのある部屋に入る。


大きな窓のカーテンは締め切られていて、隙間から入ってくる灯りだけでは薄暗い。




薄暗い部屋をうろうろと歩いてみる。


窓に向けて置かれたソファーの周りを周り、ダイニングテーブルの横切ってキッチンスペース。




目的のものを見つけた。



「先ずは換気をして、それからお茶を1杯入れてください。」


キッチンのすぐ横、壁にぴったりと背中をつけるようにして立っていたのはまたしても真っ黒な布製の人形。




声をかければピクッと1度全身を震わせるように動き、それから少し飛び跳ねるような動きをしながら歩き出した。



(基本的には彼女と同じ?なんだろうけど、どことなく人形感が残ってる…。)


歩けば両手はぷらぷらと自由に揺れているし、ひとつ一つの動きに対して動作が大きい。



カーテンのところまで行くとスッと手を横に動かす。それだけでカーテンが消えた。



現れた大きな窓の外はほんの少しのバルコニーになっていてその向こうに庭の木々が見える。


窓を2ヶ所、全開ではなく半分だけ開けるとスッと冷たい風が部屋の中を通り抜けまた違う匂いを運んできた。




それから人形はキッチンへと向かいポットに水を入れコンロに置いた。


布製なことは見てわかるため少しハラハラしたが、火を扱うのも問題ないようだ。




まだ時間はあるようなので、窓の外を見てみる。


四方を建物に囲まれながらもそこには庭というには立派すぎる空間があった。



四方から伸びる石畳の道がたどり着く中央には、石で円を描くように土台が作られその上に傘を閉じてひっくり返したような形で薪が組まれている。




(でも、火を点けるのはまだまだ先と…。)


早朝に出発したため普段ならまだを食べるよりも早い時間だ。


エイタやスオウが大人たちは忙しそうだが、学生は暇だと言っていたのもうなずける。




後ろからチンチンと軽い音が聞こえた。


どうやら、ティースプーンでカップのフチを叩いて、お茶の準備ができたことを知らせてくれたようだ。



ソファーに座れば正面にお茶が差し出される。




「ありがとう。」


その言葉に対して人形は、表情はないが嬉しそうに少し揺れる。




(さてこの後何をしようか…。)


人形はテーブルに3枚のクッキーがのった小さな皿と紙ナプキンを置いて、キッチンの方へ行ってしまった。




(とりあえず着替えて、それからもう一度荷物を出して…。)


正直何をするにしても、何もしなくてもこの衣装は邪魔になる。


お茶を飲み終わったらさっさと着替えてしまおうと決意した。






少し温まった身体はせっかく緊張で忘れていたはずの朝早くに起きたということを思い出したのか、ほんの少しうとうととしてしまい思ったよりも長いティータイムになってしまった。


1度リビングから出れば玄関に置いてあった荷物はいつの間にか人形が寝室に運んでくれていたようで、そのまま廊下の奥の寝室に向かった。



手伝ってもらった服を今度は1人で慎重に脱ぎ、クローゼットの中にしまっていく。


それから少し悩んだが制服に着替えた。





「ちょっと出かけてきます。」


率先してというかこれは自分の仕事と言わんばかりに譲ってくれなかった荷解きの作業をしている人形に声をかけると、ヒラヒラと柔らかそうな手を振った。





 

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