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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
149/276

39




(確かあのあたりは…。)


ホテルの中からも見ている人影が見えた歩くスピードを緩めず2階の方に目を向ける。




まだ日の出前。


空は薄く明るくなってきてはいたが、ホテルの中は逆光でわかり辛い。


でもしっかりとそこにハウニに連れられて窓ガラスに貼り付くようにして外を見ているミルが見えた。




(手を振るのは…、やめておこう。)


誰かが気がついてあの親子に話を聞きに行ったり、それが原因でその気はなくても危害を加えられる可能性を考えれば手は上がらなかった。



その代わり少し首を横に向ける程度だったのを1度前に戻し、今度はしっかりと首だけ横を見る。



飾りがシャラシャラと音をたてたのがわかる。


そして横を向いたまま首を左右に3回、振子のように揺らしすぐにまた前を向く。




(またいつの日か会うことができたら…。)


その時は今の動きの意味を教えてあげよう。



そう決意して護衛の背中を追い、喧騒の中を歩いていく。





やがて壁の向こうと唯一繋がっている建物の前に辿り着き止まる。



(当たり前だけど私が最年少で、1番最後の到着っと。)




ここで立ち止まっているのはここからは乗り物に乗って順番に進むため。


その順番はまずトランプの数字が大きい人たちから先に行き、最後に白紙が年齢順。



(確か私の前はエレメンタリー1年生で世界樹の人だったっけ…。)




ゆっくり首を動かし辺りを見回せば、同じように護衛2人に挟まれるようにして立っている牡鹿の面を被った同じくらいの身長の人が目についた。




(そして、その前はエイタさんか。)


肩にのせたフクロウがいち早くこちらの視線に気づいたようで顔だけこちらを向く。



頭のいい子だからしないとは思うが、こちらに飛んでこないかと少しハラハラしたところで順番がきたため先に進んで行った。




それからしばらく待って前の人も行ってしまいやっと順番が回って来た。



(神輿というには仰々しい…。)


たった1人が乗るための輿。


1人が座るのに十分な大きさの椅子がありその四方を囲う壁。



窓が大きく作られ中にいる人物の顔は見えるだろう。


そして飾りのような屋根が付けられている。


進行方向に向かって左側の壁が開くようで、中に入るために簡易的な木箱の階段を前に居た護衛が素早く用意してくれる。



謎なのは輿の前と後ろにいるスーツのような服を着た全身真っ黒の2メートルほどある人形だ。


その素材はどう見ても布でありその大きさと太い腕の割に細く短い足が、中に人が入っているわけではないということを表している。





服の装飾と頭上に気をつけながら乗り込み座ると、それを確認した護衛が扉を閉める。


すると今までピクリとも動かなかった人形が前後から輿を持ちあげゆっくりと歩き出した。



ここまで来る時よりは少し速く、しかし走るよりは全然遅い。


そのまま建物の中に入り、壁に続く扉をくぐる。




真っ暗な壁の中の通路に入った途端、左右からカチカチっと石と金属を打ち付けるような音が聞こえた。


するとすぐに左右に灯りが灯る。



どうやら輿を運ぶのは人形の役割で護衛は左右について歩くようだ。




(自分で歩かなくていいけど、これはこれで緊張が続く…。)


壁を抜けるとまた歓声とも喧騒ともとれる声に迎えられた。


ここは止まらず進んでいく。



着順は事前に観衆にも知らせてあるのだろう、通り過ぎた後ろの方がこれから来るのを待っている人たちの喧騒よりも賑やかだ。


そうやって両サイドに観衆が居る道はすぐに終わり、正面には林が見えてきた。


大きな屋敷を囲む壁の外には人を近づけない林。




林に唯一侵入できる道にはこれまた仰々しい門が設置されていて、最後の通過者を衛士とともにその口を開いて待っていた。


門を通り過ぎてしばらくすれば後ろで門が閉まる音がする。


道がなければ前後左右をあという間に見失いそうになる程、視界が届く先はずっと木。



それもやがて終わりを迎える。


輿に乗って20分ほど、森に入って5分ほど経っただろうか。



正面に木々が無くなり、左右にズイっと伸びる白い壁が見えて来た。


道のままに正面見える門を潜れば庭園突っ切るように石畳の道。



そして建物が現れた。


建物から少し離れた石畳の道の終わりで人形たちは輿を停める。


降りるための階段を用意している間大人しく待ち、やがて扉が開けられる。




立ち上がり下りようとしたところで護衛の1人が手を差し出してきた。


確かに降りる時は不安定感もあるため遠慮なく手を取り輿を降りる。



両足がちゃんと地面に着いたところでもう1人の護衛が扉を閉めた。





もう支えは必要ないので手を引こうとすれば、ほんの少し力を入れて握られる。


手を掴む護衛の方を見る。




顔は当たり前だが伺い見ることはできず、表情から今起こっていることの真意を知ることはできなさそうだ。


そして掴まれている手もまた、こちらは素手だが護衛は皮の手袋をしているため体温などから目的を探るのは難しそうだ。





面と面越しではお互い目が合っているのかすらもわからない。








「ミリア。」


建物の方から名前を呼ぶ声が聞こえた。



建物入り口には背の高い牡鹿の面をした人物、声からタモンだとわかる。


声がかかったことによって掴まれていた手の力が緩まりすぐに引くことができた。




そして何事もなかったように建物の方に向かって歩き、中に入れば勝手に扉が閉まった。





「…知り合いだったか?」


タモンが面を取りながらたずねてくる。



「たぶん、兄です。」


同じく面を取り扉のすぐ横にある窓から外をうかがい見ながら答えた。



輿に着いていくように外に向かって歩く護衛をほんの少しの間だけ見ることができた。




「輿付きの護衛に選ばれるなんて、優秀な騎士なんだな。」


「そうですね、自慢の兄です。」


どんな形であれ、やっと再会することが叶った。




(今日のことを手紙に書くのは少し先にしよう…。)


もうしばらくの間は学園から出す手紙にはチェックが入る。



これまで会えなかった年月と届くまでの日数を考えれば、自分の好きに手紙が出せるようになるまで待っても十分に短い時間と言えるだろう。



そのときはとことん追求してやろうと心に決めた。





この章はどんな話にしようかなぁと考えてるときにふと思いついて煮詰めて本当は5行位で書きたかったシーン

 

逢える機会があるならどんな形でも逢わせてあげたいという心

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