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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
148/276

38




空を同時に4つ、それが幻想だったのか本当だったのかわからないが目的が見えなかった。




「「思い出つくり。」」


タモンとユイトが同時に言った。




「卒業前に何か大きなことをやらかしたかった。それで自分たちの行動がいつまでも語り継がれればそれはそれで面白い。」



「人生最大の大博打すぎませんか?」


一歩間違えば犯罪者なのではと思ってしまわずにはいられなかった。




「当時、処罰派と栄誉派でものすごくもめてたのだけは憶えてる。」


タモンをもってしてそれだけいうのだから相当だったのだろうと察する。







「俺は明日の準備とかまだ済ませてないことが多いから帰るけど、2人はどうする?」


食事も終わり店を出た後、そう言われてユイトと顔を見合わせる。




「どうします?」


「僕たちも帰ろうか。どうせ明日は早いから兄貴が来てもそう長居しないだろうし。」


明日は早朝、日の出前の時間から動き出さなければならない。




そうなると必然的に今日の行動にまで影響が出てくる。



「それじゃあ、2人ともまた明日。」


そう言ってタモンは去っていった。





「…僕たちも帰ろう。」


深いため息の後、ユイトが言った。



「良ければですけど…。」


言っていいのか迷いがあったせいか一度言葉が止まる。




「少し街を見てから帰りませんか?」


「街を?」


ユイトが聞き返したことによって後悔が押し寄せてきたが、ここまできたら言ってしまえと勇気も湧いてきた。



「ご存知の通りの事情で今日までほとんどホテル周辺で過ごしてきたんです。危ないかもしれないことはわかってるんですけど…、ユイトさんがよければ…。」


湧いたはずの勇気はあっという間に後悔に押し流されて、最後の方はモゴモゴと伝わったかどうかもわからないほど小さくなっていた。




「…いいよ、行こうか。」


そう言ってユイトはホテルとは反対方向に歩き出した。



「何かあったら俺のティーだってミリアを守ってくれるだろうし、トランプがほぼ全員揃ってる街でわざわざ問題起こすほど相手も馬鹿じゃないでしょ。」


「ありがとうございます。」



ここ数日にしては珍しく青空を覗かせている冬の短い昼。


適当に歩き回ったり、露店を覗いてみたり。


ほんの少しの買い食いを挟みながら、結局陽がだいぶ傾いてからホテルに戻ってきた。



ずいぶんと体が冷えていたせいかホテルの中の暖かさが急激に身体を温め顔がぽっぽっと熱くなるのが感じられた。




「それじゃあ、ミリアまた明日。時間に遅れないようにね。」


「今日はありがとうございました、また明日。」


一緒にエレベーターに乗り7階で先に降りて、ドアが閉まるまでの短い時間に挨拶を交わす。




(楽しかったなぁ…。)


不安も心配もなく楽しめたのはずいぶんと久しぶりな気がする。


きっと気のせいではないのだろうけど、ささいな幸せの時間に心から感謝をする。







翌朝ずいぶんと早い時間に起きた。


目が覚めてしまったからではなく、起きる必要があったからその緊張感で寝起きでもぼんやりする時間はなかった。


すでに準備をして待機していたハウニに短めの挨拶をして用意してくれた朝食を食べる。



それから身支度を済ませ、箱に入った状態で届いていた衣装を着る手伝いをしてもらう。




「もうすぐですね。」


ハウニが時計を確認しながら言う。


衣装を着て迎えがくるのを待つ。




それぞれ事前に知らせがあった時間になると護衛2人が迎えにきてくれて、2人に連れられてホテルを出て次の目的地まで行く。


ハウニ曰くその道中にすらも一目見ようと多くの人が集まっている。



しかしこの日のために集められ結成された警備隊が道を作ってくれているので何かある心配はまずないだろうとのことだった。




「そろそろ…。」


ハウニが衣装の入っていた箱の中から更に1つ箱を取り出す。


箱を開け取り出してみればずいぶんと豪華な装飾のついた、頭からすっぽりかぶる雌鹿の面が出てきた。



「ハウニさん…。」


面を持ちあとはかぶるだけと言うところで手を止め声をかける。




「今日までありがとうございました。」


他の人よりずいぶん長い間滞在し、ミルのことも含めいろいろとわがままも聞いてもらった。


最後に感謝くらい伝えないと心残りになる。




「こちらこそ、ミルの友達になってくれてありがとうございます。」



ちょうどそのタイミングでエレベーターの開く音が聞こえた。


頭上からすっぽりと面をかぶれば、最後にハウニが整えてくれる。




(意外とはっきり見える…。)


面とは不自由なものだとかぶるまで思っていたが、案外視界は悪くない。



エレベーター内、手前に2人立っているこちらも鎧を着込み顔を隠した護衛。


その2人の間を通り奥で立ち止まって振り返る。




ドアが閉まる瞬間までハウニは深く頭を下げた状態で見送ってくれた。




やがてエレベーターは1階に到着し先に1人降り、それに続くように降りる。



背後からついてくるもう1人の護衛の気配を感じながらホテルのメインエントランスを通りすぎ外に出た。


数少ない露出している指先に外気の冷たさを感じるよりも速く、歓声とも喧騒ともとれる音が耳に届いた。




(面は見られないためってのもあるけど、見ないためってのもあるんだろうなぁ…。)


耳に届く声は若い人のものも年寄りのものも男女関係なく聞こえる。


そしてその視線を一身に受けていても気にしない程度には役割を果たしてくれている。



「あの人ティーをつれてないよ。」


ホテルを出てすぐにはっきりとした親子の会話が聞こえてきた。



「きっと寒がりさんだからお洋服の中から出てこないのかもね。」


「えー、見たかったのに。」


心の中で小さな子供に謝りながらゆっくりと歩き進む。




ホテルを出て通りに出たところですぐ左に曲がり、ふと視線を感じて左の方に顔を向ける。






 


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