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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
145/276

35




「俺にとってはいつもの光景だが、その光景に紛れるくらい元気になったようでよかった。」


「助けていただいて本当にありがとうございます…。」







その日も朝食後にホテルの隣にある複合商店をブラブラと散歩していた。



(兄さんの手紙も今日が最後か…。)


明日は31日ここを出て火を焚くための屋敷に入る日だ。



これまでのように自由なやり取りはできないだろう。




手紙を回収した後、特にこれといって買うものもなくホテルへと戻ることにした。


誰もいない通路を通り扉を開ける。



すると思ったよりも扉は勢いよく開いた。


ドンっとぶつかる感覚。




「…ミリア!」


あっ今転ぶなと意外と冷静な頭で考えていると聞き慣れた声が聞こえた。


尻もちをつくくらいならまぁいいかと思っていたらそのまま影の中に吸い込まれるように落ちていく。


とっさに伸ばした腕が掴まれる感覚。



そのまま掴んだ相手と一緒に影の中に落ちていく。




「ユイトさん、大丈夫ですか?」


真っ暗な影の中で一緒に落ちてきて隣で倒れている相手に声をかける。



「うん、大丈夫…。」


そのとき頭上からバタバタと人が早足で歩く音が聞こえた。



「いつものお兄さんイベントですか?」


「そう…。」


兄がやってきてユイトが逃げ隠れる。





その流れをお兄さんイベントと名付けて事情説明やらなんやらをいつの間にか簡略化した。



「隣に行ったと思ってくれましたかね?」


「どうだろう。そうだといいんだけど。」


もう少しだけ待ってから影の外に出た。




そのままホテル側に入りエレベーターの前まで来た。



「どうします?また私の部屋に来ます?」


ユイトは少し考える。



いつでも来ていいといってはおいたのだが、歳下のせいか異性ということのせいかユイトはこうやって渋る。


どうしたものかと考えていると先ほど入ってきた方の扉が開く音がした。


2人で驚いて顔を見合わせる。



あいにくまだエレベーターは来ない。


それならとフロントの方へ続く廊下を2人でかけ出した。



短い廊下を出れば常にスタッフと利用客の誰かしらがいる空間に出る。


特に用事もなければわざわざそちらの方に向かうとは考えないだろうと思い人混みの中に逃げることにした。




短い廊下が終わるところで一応後ろを振り返る。


後ろにいるはずのユイトの確認とその後ろに人がいないかを確認するため。






しかしそれがいけなかった。



ドンっと勢いのままに強くぶつかる。


今日2度目の衝撃。



そして間髪入れず今度は強く引かれた腕。



「そのまま中に入ってろ、2人ともだ。」


聞き覚えのある声に見上げる間もなく影に押し込まれすぐ後ろからユイトも入ってきた。



「今の声って…。」


「シッ…。」


入ってすぐに外から声が聞こえてきた。




誰かと話している声だということはわかる。


しかし何を話しているのかというところはいまいちはっきり聞こえてこないのは、少し息が上がっているからなのかもしれない。



そうして話もしばらくすれば終わったようで聞こえなくなった。




「出てきていいぞ。」


声がかけられるまでユイトと中で待っていた。


話が終わってからすぐに声がかからなかったのは、ホテルから別の場所に移動しているためだったようだ。



ユイトと手を繋いだまま出れば、そこはお客さんの居ないカウンターとテーブルが2つあるだけの喫茶店のような店だった。


影を出てすぐに振り返る。






また巻き込まれてるのかと言わんばかりの発言だったので、挨拶の代わりにお礼を言えばタモンはなんとも言えない顔をした。



「ユイトもいい加減折り合いをつけろ。」


「わかってます…。」





にゃーーーーん。


そんな話をしていると店の奥から長い鳴き声が聞こえてきた



「いらっしゃいませ。あなたが後輩を連れてくるなんて、4年でそんなに成長したのかしら?」


続けて聞こえてきたのは女性の声。





「緊急事態でもなければ、絶対に連れてきたりしないですよ。」


「まぁ、ひどい言い方。」





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