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「でも、何がそんなに違うんだろう?」
エイタの疑問はもっともだ。
「それは俺たちがあれやこれや考えてもたぶん答えが出ないな。」
「アドバイスを求めるなら同種がいいんだろうけど。」
同種とはつまり異形型のことだろう。
「先輩も2、3日の内には到着するんですよね。」
それからならまだ多少は時間に余裕があるだろう。
「タモンはアズハのところに寄ってから来るって。他の人たちより出発も遅かったし、ギリギリの到着になるんじゃないかな。」
「そうですか…。」
1番身近な当てが外れてしまった。
「まぁ、一先ずはあと数日の事です。これまで通りホテル内で1日過ごせばいいんですから。」
これまでと違って人が増える。
今むやみに確実に1人になるホテルの部屋まで襲ってくるほど相手も考えなしではないだろう。
「それに、友達もできたんですよ。」
そうやって無理に話題を変えれば察しのいい3人はこれ以上の話は無理にしない。
翌朝兄への手紙を出したその足で部屋には戻らず託児室の隣にある部屋を訪ねた。
「…お姉さん?」
「そうだよ。気分はどう?」
ベッドの上で寝ていたミルが重たそうなまぶたを開けてこちらを確認した。
この部屋はホテルスタッフ用の宿直室の1つだが、ハウニとミル親子が寝泊まりする部屋として使われている。
もちろん2人には帰る家があるが、ミルが体調を崩した時にすぐに医者に連れて行けると言う理由で特別に借りることができているのだそうだ。
(それだけ職場の理解があるって言うことがいいことなのか、そこまでするほど深刻ってことなのか…。)
「今日はね、少しご飯食べれたんだよ。」
「そっか。じゃあ、もうすぐ元気になるね。」
「うん。」
真っ赤な顔はまだまだ熱が下がっていないことの証拠だが、少しでも食欲があるなら良くはなってきてるのだろう。
「夢の中でね、いっぱい人が歩いてたの。」
「人が?」
急にミルが話し出した。
「うん。ミルより大きい人がみんな歩いて行っちゃうの。」
後ろからやってきて追い越して歩いていく。
「でね、ミルも歩こうとするのに動けないの。」
みんなが歩いて行くんだからどんなに素晴らしい場所があるのかと期待するのに進むことができない。
「それでどうしてって思って下を見たら、ミルの足が無いの。」
今まで必死に動かそうとしていたのは何だったのかそんなこともわからないままどんどん周りから人がいなくなる。
「置いていかないでって言っても誰も振り返ってくれなかったけど、頑張って目を開けたらお姉さんがいた。」
ちょうど今し方、見ていた夢の話だったようだ。
「そっか、その夢は怖かった?」
「うーん…、よくわからない。」
それはそうかと思っていると、でもとミルが続ける。
「たぶん初めて見た夢じゃない気がする。」
「何度も同じ夢を見るの?」
「うん。毎日じゃないけど時々見る気がする。」
いつも同じようにいっぱいの人が歩いている夢を見る。
「でもね、前は手を伸ばそうと思ったら手がなかったの。」
当たり前のようにあるはずのものが使おうと意識した瞬間ないことに気がつく。
「その前は声を出そうと思ったら口が無かったの。」
あるはずの場所にあるべきものがないと毎回自覚したところで目が覚めていた。
「だから次はきっとみんなを追いかけられると思うんだ。」
「そうだといいね。」
そんな話をしているとハウニが入ってきた。
「下に車を用意したから今日も病院に行きましょう。」
「はーい。」
ミルは話している間にすっかり目が覚めたのか、ハウニの言葉に返事をするとベッドから起き上がり出発前にトイレに行くと言ってフラフラとした足取りで部屋を出ていく。
「変な話を聞かせてしまって申し訳ありません。」
ミルが扉を閉めると同時にハウニが頭を下げる。
「あの夢の話はよくするんですか?」
好奇心から聞いてみた。
「時々です。特に体調を崩した時に見るみたいで熱で苦しいはずなのに一生懸命話そうとするのでどうしてかと聞いたら、誰かに話さなきゃいけない気がしたと言うんです。」
今回はたまたまその相手がこちらだったと言うことか。
それからミルが戻ってきたので、またねと挨拶をして部屋を出た。
(またの約束ももう何回もできないなぁ…。)
自分の部屋に戻り1番奥の部屋で外を眺めながらそんなことを考える。
今日はここ数日にしては珍しく雲ひとつ無い青空だ。
室内にいる分には日差しは暖かく眠気を誘う。
「さえぎらないでくださいね…。」
ウトウトとまぶたが重くなり出したころ視界の端で動く影が見えたので、せっかくの日差しを隠してしまわれないように先に言葉にする。




