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世継榾。
それが今回こんなに遠くの街まできた最大の目的だった。
「ミリア様、お客様です。」
その日の夕方、ハウニにそう言われて1階に行くとスオウが待っていた。
「無事の到着、ご苦労様です。」
「ありがとう。」
スオウは厚手の上着を脱ぎ服についていた雪を払う。
「少しは元気になったようだね。」
「ありがとうございます。」
今度はこちらがお礼を言う。
「それで今日は、君を食事に誘いにきた。」
「食事ですか?」
急なお誘いに聞き返す。
「そう。冬の狩が終わって、他のみんなは明日帰るからその前に最後の食事会。できれば君をそこで紹介したい。」
招待状を贈ったのにいつまでも現れない後輩をみんな気にしてるのだと言う。
「君に冬の狩を断られてから、最後の食事会には必ず連れてこいと念を押された。」
なるほど、苦労が垣間見える。
「わかりました。お邪魔でないなら、参加させてもらいます。」
「ありがとう、すごく助かるよ。」
それから1度部屋に戻って上着を着て、マフラーを巻く。
もう1度1階で合流した後、隣の複合商店に行く通路の途中にある扉から外に出るとスオウのティーが屋根の下で待っていた。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
大きくなった状態で待っていたティーが扉が開く音に反応して振り返ったので挨拶をすると、顔を近づけてきて腹部に鼻を擦り付けられた。
これはどういう意思表示なのだろうと戸惑いながらスオウの方を見る。
「わかったから、落ち着け。」
スオウが呆れたような声でそういうとティーの額を押して離した。
ホッとしたのも束の間、スオウに持ち上げられティーの背中に乗せられその上から大きな上着を被せられた。
「君がこの雪の中で外を歩いたらいなくなりそうで不安なんだ。」
スオウの言葉に同意するようにティーが唸る。
「オベロさんのティーみたいに乗り心地は良くないけど、そのまま運ばれてやってくれ。」
ティーが歩き出したため背中にしがみつく。
張り付くように背に乗っているが、日も暮れ出した時間で外を歩いている人がほとんど居なくて良かったと心の底から思った。
しばらく歩くと段差を登る感覚がした。
それから扉の開く音、そしてガヤガヤと騒がしい人の声。
「隊長、ちゃんと連れてきましたー?」
扉が閉まる音と共にかけられる声。
そして立ち止まったかと思うと被っていた上着を剥がされる。
恐る恐る上体を起こしあたりを見回すと、集まる視線とそれまでの喧騒が急に静まり返る。
「初めまして、新しい狩人。私たちはあなたを歓迎するわ。」
1番近くに座っていた体格のいい女性がそう言いながらティーから降ろしてくれる。
途端にワッと歓声が上がる。
「さぁ、女子のテーブルはこっちよ。」
降ろしてくれた女性がそのまま手を引いてくれる。
(先輩より大きい…。)
今の自分からは見上げるほど大きな女性は、一般的な室内扉ならギリギリ通るかどうかと言う程背が高かった。
そうして連れてこられたテーブルにはすでに3人の女子生徒が座っていた。
「初めまして、良ければお名前聞かせてくれるかしら?」
「初めまして、ミリアです。」
1番左端に座っていた女子生徒に促され自己紹介をする。
そして促されるように席に座ると、ここまで案内してくれた女性も隣に座る。
そこからいろいろ質問される時間が始まった。
最初こそ簡単な質問と回答が続いたが、やがて誰かが冬祭りの話題を持ち出した。
「ユリ殿にいた子だよね。今年の新しい花姫でしょ?」
「ユリ殿ってあの話題になってたところだよね。私行ったよ。」
「あれ全部ティーで作ってたとかどうやってたの?」
なんかこの感じが懐かしくすら思えてくる。
「皆さんに協力してもらって、作り上げたものです。」
「それで言ったら花姫が1人消えたって噂本当?」
その言葉に一瞬息が詰まる。
「何それ?」
あくまで言い出した女子生徒のみが知る噂のようだ。
「なんか冬祭りの少し前から授業にほとんど出てなかったんだけど、祭りが終わったらパッタリと姿を見なくなっちゃったんだって。」
「それって今はやりのなんか特殊な感染症で入院してるんじゃなくて?」
あの事件以前から行方不明や動向のおかしい生徒が数名、祭りの少し前から行方不明になっていた生徒が数名。
その全てが祭りの最終日ホズミのティーが行方不明になると同時に意識を失い倒れ、また昏睡の状態で見つかった。
学園側は突発的な感染症だとして生徒たちは入院治療を行い完治次第戻ってくると説明されている。
「そうなのかなぁ…。」
どうなの?と言う目線が向けられるが、学園側が隠すと決めた真実を話すわけにはいかない。




