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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
131/276

21






「話はおしまいです。私たちの個人的な話を聞いてくださってありがとうございます。」


そう言ってハウニは頭を下げた。




「聞かせてくれてありがとうございます。」


「あの子は確かにこの数年で見違えるほど元気になってるんです。でも2年後何が起こるか私にもわからない。」


結局今やっていることも症状を緩和するための対処療法だ。


最終的にどうなるかはまだわからない。



「個人的な話まで聞いてもらって大変申し上げにくいのですが、あの子の希望になってください。」


ハウニは言いにくそうにそういうと続けた。



「あの子は私たちのせいでティーを知らずに育って来ました。父親も手紙の中だけの存在で、ほとんど顔も覚えてないと思います。」


今が9歳で最後に会ったのが話から察するに3年は前になる。何度も手紙をもらっていても、思い出の中の顔が消えていくには十分すぎる時間だ。




「何も言いませんが察しているんだと思います。」


親の不安はどんなに頑張って隠しても子供にはわかってしまう。


それが自分に関することなら尚更敏感に感じ取ることができるだろう。



「学校に行かせてあげることも同じ年頃の友達を作ることも、あの子にさせてあげられませんでした。」


会話が妙に幼く感じたのは、会話能力を鍛えるコミュニケーションをとる機会がなかったから。


それでも察しがよかったり妙に感が良いのは大人たちを良く見ているのだろう。



「私にできることは…。」


言いかけて1度飲み込む。



「私が望むのはあの子の友達で居続けてほしい。ただそれだけです。」


それがどれほど簡単なことではあるが、難しいことになるか。




「1度、失礼します。」


そう言うと手早く机の上の飲み物を片付けてハウニは退室した。



結局できることといえば、午前中を一緒に過ごしていろんなお話をする。


こちら側の図書室だけでなく託児室にいく日もあった。



ホテル職員の中で今この時期に子供を預けているのはハウニしかおらず、たくさんのおもちゃや絵本もミル1人では到底遊びきれずに部屋の隅に収納されていた。


午後も一緒にいたいと駄々を捏ねられることもあったが、その時はハウニが上手くなだめてくれた。





(兄さんは、こんなに自分の仕事の事を書いていいのだろうか…。)


兄への手紙はその日には本人の元へ届くようで、出した次の日には指定の場所に手紙が隠されていた。



初めのうちはやはり質問が多かった手紙も、こちらが答えられないことが多くなると学園での様子や友達先輩の話を聞いてくるようになる。


そして、兄の方も今日は何があったとか月末はどんな仕事を任せられそうだとかを書いている。



(一瞬でも目が合うか姿を見れる可能性をあげたいんだろうなぁ…。)


しかし残念ながら、私の方が今は療養ということもあり月末からのことを知らない。


それを知る頃にはきっと兄へ手紙を送る暇はないだろう。



「今日も雪がすごいね。」


勉強に飽きて窓のある場所まで椅子を持って行き外を見たミルが言った。


「きんねんまれにみるだいかんぱ?ってお母さんたちが話してた。」


近年稀に見る大寒波。


難しい文字複数つながる言葉を1度で聞いて覚えていたとは、やっぱり観察力が高いのだろう。



「どういう意味?」


「たぶんとっても寒いから気をつけましょうね。ってことだと思う。」



ミルと一緒に窓の外を見る。


隣の建物はかろうじて見えるが、その向こうにあるはずの建物は白い世界に飲み込まれてしまっている。




「ミル。お姉さんにお客様が来たから、今日はもう託児室に戻りましょう。」


いつの間に後ろに来ていたのかハウニがそう声をかけてきた。



「えー。」


ミルがわかりやすく不満の声をもらす。



「お客様?」


ハウニの言葉に聞き返す。



「お久しぶりです。」


部屋の入り口から聞こえてきた声に反応して顔をそちらに向ける。



「ツユカさん、わざわざここまできてもらってありがとうございます。」


大きなトランクを持ち、フワフワのコートを脇に挟んだツユカが綺麗なお辞儀をした。



「ご依頼とあればどこへでも。とはいえ、学園内にいないのは少しびっくりしましたけど。」


そう言ってツユカは苦笑いをする。


不平不満を口から出さないように膨れているユニに、また明日ねと言ってハウニが連れ出すのを見送る。




ツユカを伴って部屋のフロアまで上がりそのまま部屋の奥にあるプライベートスペースまで案内した。


散らばったクッションは邪魔にならないようにティーにお願いして部屋の隅に積み上げてもらい、その間にツユカは持っていたトランクを開けて準備をする。




「先ほどのお嬢さんは訳ありですか?」


「ほんの少し体が弱いので昼間はここの託児室で過ごしてる子ですよ。」


ツユカの何の気無しの質問に淡々と答える。



「午前中は私の話し相手になってもらってます。」


「そうなんですね。」


それ以上は何も言ってこなかった。




「さて、今回も衣装の丈合わせと行事についての説明を任されてます。」


そう言いながらメジャーを足元から伸ばしたツユカは、また少し身長が伸びましたねと付け足した。



「今回は一体何をさせられるのでしょうか?」


「そう警戒しないでください。今回はそんなに非日常なことでもないと思いますわ。」


どんな面倒ごとが次にやってくるのかと身構えればツユカが笑いながら訂正した。




「新年に街で大きな火を囲む行事はありませんでしたか?」


そう言われて思い出す。





街の中心の広場で1月の中旬ごろ、大きな焚き火が行われていた。


住人たちは各家庭からランプや蝋燭を持ってきてその火を分けてもらい、家に帰ってかまどや暖炉に移す。


そしてその火を囲みながら今年はどんな年にしたいかを願えば、障害少なく目標に向かうことができると教えられた。



「いろんな街で焚かれる火の始まりを見守るのが、今回のお仕事です。」


31日に点けられる火が年を跨ぎ3日に各街へ散って行くまでを見守るのが今回の役割。



「15の街の中でも四方にある大きな街。今年はこの東の街から火が始まります。」


「行事のある日って毎年違ったでしょ?と言われさらに思い出す。


確かに昨年はギリギリ1月の中旬と言ってもいい頃だったが、その前の年はほぼ下旬ではないのかと言うころに行った。




「遠くの街であるほどこの行事も後にずれ込みます。最後の街などは2月中に行えれば早い方というくらいにはこの行事は大雑把で、けれど誰もが知っている行事です。」


話ながらもツユカは手を止めない。



「もうそろそろ他のトランプ方もこの街に到着されるでしょう。そして、31日になったら壁の外にある屋敷に移動します。」


そんな大それた行事をどうやって行うのかという小さな疑問はすぐに解決した。



「私も2度ほどしか見たことないですけど、当日は街中がお祭り騒ぎになりますよ。」


ただ移動するだけだが、壁の内側に住む人々にとっては人ならざる者の意思によって選ばれ君臨する者たちを一目見ようと近くの街からも人が押し寄せ大層な賑わいになるそう。




「火を囲むようにして作られた屋敷で4日間を過ごして、火が散って行くのを見届けて行事は終了です。」


見守ると言っても何か特別なことをするわけでもなく、ただそこに居ればいいということだった。




「以上が、行事についての説明です。私が知ってることもこの程度なので、もしわからないことや疑問に思うことがあれば他のトランプの方に尋ねられてください。」


「ひとつ聞いてもいいですか?」


「何かございました?」


疑問はたくさんあるが、そのほとんどをツユカは答えることができないだろう。



しかしひとつだけはきっと答えを知っているはずだ。



「その行事は一般的になんと呼ばれているんですか?」


「あぁ、それをお伝えし忘れていましたね。」


その言葉には当たり前すぎて忘れていたことすら忘れていたという内情がよく伝わってきた。




「今回の行事を私たちはかつて年越しの夜に家長が囲炉裏の火を絶やさないように見守った風習からとって世継榾と呼んでいます。」




 

海外だと節目に親族の家の暖炉から薪をもらったり火を配ったりする伝統あるんだけど日本ってあんまり聞かないなぁと思ってたら、

季語帳に知らない言葉を見つけてしらべました。

そのくらい薄い知識から派生した物語なので、今でもその文化を守られている方々とは全く違うものになります。

あくまでこの世界の中での『世継榾』であること、ご理解よろしくお願いします。

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