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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
130/276

20





「最初に聞いておきたいのですが、『歪み』『封印』『戦争』についてはどこまでご存知ですか?」


「最初の2つはわかります。」


しかし3つ目の言葉はこれまで今の知識で関係のありそうな事に覚えがない。



「わかりました。ではその2つに限って私たち家族の話をします。」


そこでハウニは1度大きく息を吐く。



「私のティーはイヌです。」


そう言って左の袖を捲ると入れ墨のような黒いペンで描いたようなイヌが腕にあった。


これが封印されたティーの姿という事だろう。




「私の夫、ミルの父親は盾のティーであり壁の外の街の警備隊です。」


学園を卒業してすぐにこのホテルに就職したその年はちょうど東の街が今年と同じように担当の年だった。


働きはじめではあったが、人手はいくらあっても足りないということでホテル内だけでなくホテルの外や壁の外の仕事までやっていた。


そんなある日出会ってありきたりな言葉で言うならその瞬間恋に落ちた。



「はじめは手紙のやり取りでした。」


外に出るにも中に入るにも手間と時間がかかり、それでいて確実に会える保証はない。


歩けば1時間とかからない距離の間での文通はせいぜい1週間に1往復が精一杯だった。



「1年に約40通の手紙と1回の面会。若い男女にはそれが精一杯でした。」


しかしそれで十分と感じることもあれば、そうでない時もあった。


何か方法はないかと探した結果、外から中へは限りなく方法が無いが中から外へ行く方法があった。



そのためにやらなければならないことは山積みで途方もなかった。




「苦労したのは手続きよりもティーの説得です。」


たとえ全ての手続きが順調に完了してもティーを納得させられなければ封印の執行は行われない。


手続きも大詰めに入った時ですらまだ説得をできておらず、そのタイミングでの面会。


2人で説得する中でティーが牙を出し納得できないことを表す。



「頭を下げ涙を流しながら自身の盾を私のティーに構えて誓いました。」


何があっても必ず君の代わりに護る。



その言葉を聞いて牙をおさめやがて納得して封印に応じてくれました。



「外に出た私はすぐに彼と結婚し少し離れた街へと2人で移り住みました。」


誰か自分達のことを知っている人物が身近に居れば、好奇心という名の視線にさらされるのはわかりきっていた。


だから誰も知らない地で新たに始めようと決心し、住む場所と理解ある職を見つけることができた。




「私の話が長くなってしまいました。」


不意に照れくさそうな顔になったハウニは早口でそう言って一息ついてから話を続ける。


やがて子供が産まれ、育っていく中でどうも他の子とは様子が違うことに気づいて病院に相談した時のことだった。



どこも悪くないが症状が出る、それは短期的なものならありきたりな話だが長く続く場合は明らかに異常なことだった。


症状を和らげる治療や薬はあるが、それで完治は難しく身体への負担が大きい。


医者からは早めに大きな街の病院で検査するか、壁の内側にツテがあるならそちらへの診察治療を検討した方がいいと言われた。




「躊躇しました。こちらに戻るということは私たちのことを知っている人に会うかもしれない。」


それでも、たった1人の娘が日に日に弱っていく。



自分達のことなど二の次で15の街まで戻り、まずは壁の外の街で病院を受診した。


医者はすぐに事情を察して壁の中に知り合いはいるかと聞いた。


つまりここでも解決はできないと同意だ。



「手続きさえすれば私とミルは中に入ることができたんです。」


しかし父親はそうはいかなかった。



壁の外で待つと決意した時はしばらくすればまた家族で暮らすことができるはず。


お互いにそう考えていた。


頼る親族が居ない中でお互いに前の職場の上司を頼り、とりあえずの暮らしを始めた。




「その時はあくまで一時的なものだと思ってティーを封印したままにしておいたんです。」


夫婦という関係になったおかげで以前よりも面会だけなら簡単になった。


そして病院を受診してこれまでとは違う検査もたくさん行った。




「そしてそこで言われたのは将来、ミルはティーを受け取ることはできても歪むかもしれないということでした。」


ティーが歪むかもしれない。


あくまで可能性の話ではあるが、未来視や占いのティーが出した限りなく濃厚な予測だ。


なぜそうなるのか、なぜ正しく預かれないのか。


その理由まではわからない。



今、身体に出ている症状はその前兆の可能性がある。


どうやってか軌道を修正したい人ならざる者の意思が、身体に強く苦しいダメージを負わせている。




「医者は間違えなく神に愛されている証拠だと言いました。」


しかし強すぎる力に体が耐えられていない。


今の状態ではティーを受け取るまで生きれるかも怪しいかもしれない。



なんとかできないのかと医者に問えば、可能性の話をしてくれた。


壁は中と外の人の流れを分けるだけでなく、中と外で目に見えないものすらも断絶している。


より神に近い土地に留まることで体内と外側とのバランスが取れる可能性がある。




だから壁の外には出さないことで少なくとも体調面は改善できるかもしれない。


あくまで可能性の話だが、非公開の医療記録にもそういった実例がある。



「確かに壁の内側に入った日からミルが大きく体調を崩すことはなかったんです。」


だからこそ医者の言葉には信じるだけの価値があった。


そこでどうするかと問われた。



父親と離れて暮らすか、子供を養子に出して夫婦は今まで通りに暮らすか。


あまりにも残酷な選択を迫られた。




「たくさん考えて、たくさん夫婦で話あって…。何度目かの面会の時でした。」


父親は2人が幸せなら自分は2度と会えなくてもいいと言った。


しかし1つわがままわを言うなら、ミルはいつまでも2人の子で居てほしい。



そうであるならこれから先、同じ屋根の下で暮らせなくてもいい。




その言葉を聞いて最初に反応したのは、もう何年も聞いていなかったハウニのティーの声だった。



そして封印された腕に痛みがはしる。


封印から無理に出てこようとしたティーに引き裂かれた腕。



皮膚を裂き血を被ったティーは事態の異常さに部屋の外から人が駆けつけてくるまでの間に、夫の喉に噛みつきその爪で顔に大きな傷を付けた。




「ティーにとって夫の決断は封印を承諾した際に誓ったことに対する、裏切りだと受け取ったんです。」


必ず護ると誓ったのに、娘のために2度と会えなくてもいい。



それは親としては正しい答えでも、ティーにとっては自分の主人を護るという約束を反故にされたとしか受け取らなかった。


どんなに説明してもきっとティーは納得しなかっただろう。



「そうして私のティーは2度と封印から出てこようとはしなくなりました。」


封印されていても、自分にだけは感じられたティーの存在。


夢の中で一緒に走り回ることも、ふとした時に感じたティーの息づかいも。



その日から全て消えてしまった。




医者と封印を担当してくれた人によれば、ティーは受け入れられない現実から逃げるために眠ってしまっているのだと教えられた。


封印されていても意識がつかめれば解除しようがあるが、今の状態ではそれも難しい。




「いつかこの子が私たちを許してくれるその日まで待つことにしました。」


他に選択肢がなかったとも言える。



 

条件が2つか3つかでめちゃくちゃ内容が変わるお話

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