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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
128/276

18





「ミリア様。」


後ろから声をかけられる。



「ミルさんは大丈夫でしたか?」


申し訳なさそうな顔をしたハウニが立っていたので、声をかけながら手で座るようにうながす。



「ミルは幸い大事には至らず症状も落ち着きました。」


少し迷ったハウニが正面のソファーに浅く腰かけてから話す。




「それはよかったです。でも、なぜ1階に?」


「私を探しにきていたみたいです。ゲートは通れないからいつの間にか開け方を覚えたバックヤードの方から入ってきたみたいで…。」


一部のスタッフと利用者しか入れないと聞いていたが、方法を知っていれば入る方法はあるのかと納得する。




「私は普段スタッフ用の託児室に勤務していて必要になったらこちらに勤める形態で雇用されてます。勤め出してから初めてこちらの勤務であの子に十分な説明ができていませんでした。」


トランプがそうそう頻繁に利用しているわけではないのだろう。


だからこそ説明不足も起きてしまった訳かと納得する。




「ミルさんは何か病気とかですか?」


街によってルールは変わるが見た感じ2つか3つしか年は変わらないだろう。


これほど大きな街ならその年齢の子どもは学校かそれに近い場所で勉強している場合がほとんどだ。


わざわざ職場の託児室に預ける理由が気になった。




「そうです。生まれつき呼吸器官が弱くて…。」


それだけ言って1度言葉を詰まらせる。



「ただ病院では原因がわからなくて治療のしようもないもので、学校へ行かせることもできずに家庭学習をさせています。」


学校で発作のような症状が起こっても原因がわからなかったら対処も遅れてしまう可能性がある。


行かせたい行かせたくないではなく行かせる選択肢がなかったのだろうと想像できた。




「申し訳ございません余計な話まで…。」


そう言って頭を下げるハウニ。



「もしよければですが…。」


そう前置きをしてハウニにひとつ提案をする。


いつも一緒にいた身近な人が急に会えなくなることの辛さはよくわかっている。



彼女はもっと幼い、言葉で何度説明されても心が納得できないだろう。


提案を聞いてハウニは最初断ろうとしたが、あれやこれやと理由をつけるのは慣れている。



最後には許可が取れるか確認してきますと言って立ち上がり、もう一度深々と頭を下げて去っていった。




(ずっと1人でいるのもすぐに飽きるだろうし、これは幸運でいいのかな…。)


再び深く座り背もたれに体重をかけると、身体中から影が伸び上がり宙を漂う。



まるで自分も居ると言っているようだ。




「じゃあ、明日からはあの子と半分こね。」


そう言って1番手近な影を撫でると、納得したのか元に戻って行った。




翌日、2階で朝食を食べた後、部屋には戻らず3階の図書館へ向かった。


課題のやり取りも移動中の問題を解くものから、自分で考えて言葉で回答するものが多くなった。



(まぁ、動く車内で頭抱えて考えてたら酔いかねないしね…。)


そういうタイミングなのか体調を気遣ってなのかわからないが、ここなら落ち着いて取り組むこともできるし数をこなす課題よりこちらの方が好きな傾向がある。



「お姉さん!」


元気な声と共に入ってきたのは昨日の女の子ミルだ。



「おはよう。もう大丈夫?」


「うん!」


ミルの顔色はよく、肩には小さなトートバック首からは紐を通した札を1枚かけていた。




「午前中の時間だけでもミルさんと一緒に過ごすことはできますか?」


名目はなんでもいいけど、話し相手とか遊び相手でどうだろうかと話をつけた。


また母親を探して部屋を抜け出して大騒ぎになる可能性より、小さな提案から娯楽にしてしまうことにした。




「お姉さんもお勉強?」


「そうだよ。」


「ミルも!!」


そう言ってバックの中からノートと鉛筆と本を取り出すが、静かにできるのはせいぜい20分ほど。


少しそわそわし出したと思ったら、横に来て袖をひくまで30分。



「どんな本が好き?」


「えっと、図鑑!」


さほど多くない本棚の間を歩きながら目的の本を探す。


ここの本棚は整理されているとはいえずかろうじてシリーズが同じものは同じ棚にあるが、ジャンルはぐちゃぐちゃだ。




(アレかな…。)


やっと見つけた子供向けの図鑑はミルが手を伸ばしても決して届かない高さにあり、背伸びして届くかなと考えなくてはいけないくらいに上の方にあった。




「ちょっと離れててね。」


念の為ミルにそう言うとパタパタと足音を立てながら離れた。


それを確認してから本棚の上の段に向けて手を伸ばす。



しかし目的の棚には全く届かない。


手のひらや指の先から影が伸びてもう1本分腕が伸びると今度は目的の棚に届いた。



図鑑を引き出し、影がゆっくりと戻ってくる。そして本来の手にわたすと消えてしまった。



「はい、これは植物図鑑かな?」


表紙の絵を確認しながらミルにわたすと、ミルは目を大きく見開いて驚いていた。




 

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