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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
127/276

17






その後昼食をとり、またいくつかの館内説明を口頭で受ける。



(ほとんどのことがこの建物内で完結して、買い物に行くのも専用通路かぁ…。)


今の季節は雪も降るためあまりお勧めしないと言われたが屋上に外に出れる庭園があり、ホテル隣にある複合商店には1階の通路から直接行くことができるらしい。



何かあったらいつでも呼んでくださいと言いハウニが部屋から出ていくと、満腹感とちょっとした疲れだろうか眠気が襲ってきた。


奥の部屋まで行き窓に1番近いクッションに座る。



思ったよりも沈まず、しかし徐々に座っているのか寝ているのかわからない体制になっていく。


窓の外を見れば明るいのでまだ晴れているものだと思っていた空から雪が静かに降っていた。





そう言えばと思い出し兄からの手紙を取り出す。


受け取ってすぐに読まなかったまままだ開けてもいない。



勇気を持って開けてみれば、なんてことはない心配する兄からの手紙。


兄もまさか自分たちの護衛対象の1人に妹がいるとは思ってもいなかっただろう。



そして姉さんからの話も納得できることばかりではなかったはずだ。


それでも目を逸らさなかった兄が出した答えを受け止める。




(さて返事はなんて書こうかな…。)


そんなことを考えている間にまぶたが重くなる。


次に目が覚めたのは夕飯を準備して呼びにきたハウニの声が耳に届いた時だった。



せっかくの降雪も外が真っ暗になってしまっていたせいであまりよく見えなくなったのは残念だったが、ここでの生活はまだ始まったばかり。


またの機会にと心の中で言い訳して呼ぶ声の方へ向かった。




場所を変えようが1人の食事というのは味気ないものだ。


滞在2日目の朝にして1人きりという環境に飽きがきてしまった。



朝食を食べてそのまま部屋には帰らず、1階に向かい専用通路を通って隣の建物へ。




複合商店というだけあって平日の午前中でもそこそこの賑わいがあった。


見慣れた端末から幾らかの現金を出し、適当な店で飲み物やお菓子を購入する。



服飾の店などはほぼ素通りだったが、それ以外にも面白い店はたくさんある。


食材などにはできるだけ手を出さないようにしようと思いながら、一通り見て回ったあと元の通路から戻ることにした。



来るときは素通りだったが、戻る時は昨日教えてもらった手順を守って扉を開錠する。




(…泣き声?)


商店の賑やかな声は扉を閉めてしまえば急に遠退き静寂を感じた瞬間、非日常的な声を耳が拾った。




「どこから聞こえるかわかる?」


口に出してティーに問えば、目に見える範囲全てに影が広がりすぐに戻ってくる。




「ありがとう。」


余計な情報は削ぎ落とし、何かがいる方向だけを伝えてくれたティーにお礼を言って声のする方に歩き出す。


専用通路からホテルの建物に入ってすぐ横スタッフルームと書かれた扉のある短い廊下の前で女の子が1人うずくまって泣いている。





その泣き声は迷子や不安感からくるものというよりは、風邪をひいた時のような呼吸の苦しそうな浅い嗚咽のように聞こえる。



「大丈夫?」


うずくまっている女の子の横まで行きしゃがみこんで声をかける。


チラリとこちらを見た顔が真っ赤だ。




(ホテル利用者の子かな?でもこっちの方は簡単には入れないって説明あったしなぁ…。)


ポケットから小さなカードを取り出す。


ほんの少し厚みのあるそれの真ん中の少し膨らみがある部分を押せばカチッと音がした。




「ジュースあるけど飲む?」


そう声をかけると、1度こちらを見て少し考えてからうなずく。


先ほど買った小さめの紙パックジュースにストローをさしてわたすと、両手で持って飲み始めた。



飲んでいる間に涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃな顔も拭いてあげる。




(思い出すなぁ…。)


ティーを預かる前に住んでいた街で自分より年上も年下も一緒になって遊んでいた頃の頃のことを思い出す。


これだけ泣いてるとなんで泣いてるかの理由聞くのは難しいので、まずはとにかく他のことで機嫌のバランスとって落ち着いてもらう。



(でも、見た感じ感情だけで泣いてた感じじゃないんだよなぁ…。)


拭き終わってもう1度しっかり顔を見れば泣いていた目元だけでなく顔が全体的に真っ赤に見える。


熱かと思いそっと額に手を当てるが、小さい子特有の少し高めの体温だった。




不思議そうな顔してこちらを見てきたので、お菓子も食べる?と聞くと首を横に振った。



そうしているとすぐにパタパタと足音が聞こえてくる。



「ミル!何してるの!?」


やってきたハウニは驚愕の声で隣の女の子を呼ぶ。



「ママ!」


そう言ってミルと呼ばれた女の子はハウニのところへ駆け寄っていく。




「ミリア様、申し訳ございません。託児室に預けていたのですがいつの間にかいなくなっていたみたいで。」


服を引っ張るミルを手で制しながらハウニが頭を下げる。



「私のことはいいので、その子を早く安心させてください。今は少し落ち着いてるみたいですけど、さっきまで息苦しそうにしていたので。」


その言葉を聞くとハウニはすぐにミルの額と喉元に手を当て何かを確認したあとミルを抱え上げた。



「失礼します。」


そう言って一礼し足早に行ってしまった。



別にスタッフがハウニ1人というわけではないので昼食を2階でとり部屋に戻らずカフェスペースで温かい飲み物を飲みながら外の景色を楽しんだ。




 

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