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あけましておめでとうございます(2025.1.1)
これまで旅で使ってきたのは宿といってイメージするままのところが多かったが、今日泊まるのはホテルと言っていいだろう。
立派なエントランスにフロント、複数のスタッフがいつも待機していてやってくる人へすぐに声をかけ案内をしている。
「専用のお部屋とスタッフの準備ができていないのでご案内は明日になります。」
今日は普通の1人部屋で過ごし、明日からは別の部屋を案内される旨を丁寧に説明された。
そして夕食を用意してもらっている間に姉さんが話し出した。
「まずタクヤものすごくびっくりしてたわ、私が来ると思ってなかったでしょうからね。」
そう笑いながら言った姉さんは心底可笑しかったというのが伝わってきた。
「そこから、何で私がきたのかってこととミリアが来れない理由を話したわ。」
「納得してました?」
思い出の中の兄は時より妙に頑固なところがあるため不安だった。
「納得させたわ。ミリアがかなり特殊な立場だっていうことも話した。」
トランプの説明なら現状、姉さんの方が詳しく説明できるだろう。
「タクヤもすぐに気が付いてたわよ。自分たちが護衛する相手に妹も含まれてることを。」
その時、兄はどういった反応をしたのだろうか。
「それから冬祭りでの事件も話したわ。と言っても、話せない事もあるって前置きした上で話せるところまでだけど。」
今回の事件で当事者である姉さんが他の人に話しても大丈夫なことなど、よほど断片的なことだっただろう。
「そして私は帰るけどミリアは療養のためにこっちの15の街に留まってから月末にイベントに合流することも伝えた。」
そこまで話すと姉さんが何やらポケットを探り出し、1通の手紙を取り出した。
「話を聞き終わったあとにタクヤが手紙を書きたいから持っていってくれって言われたわ。」
姉さんから手紙を受け取る。
受け取ってどうしようかと悩んだ。
(今ここであけるべきか、後にするか…。)
ほんの少し悩んだ末、手紙を机の上に置いた。
「後から、ゆっくり読む事にします。」
「そうね私もそれがいいと思うわ。」
それから後は兄がどうだったなどの話を聞きながら運ばれてきた夕食を食べ和やかな時間を過ごした。
「ミリア、悲しそうな顔しないで。また1ヶ月後には会えるのよ。」
翌日姉さんを見送るために街の出入り口まで来た。
ホテルの部屋を出ていつもは2人で乗り込むのだが、今日は自分の荷物を影の中へ。
姉さんはそのまま荷物を積み込んだ。
「姉さん、ここまで来てくれてありがとう。姉さんもちゃんと休んでね。」
言いたかったけど今日まで言えなかったことを伝えた。
「父さんはともかく母さんは休ませてくれるかしらね。」
そう笑いながら姉さんは言う。
「何もせず1人でいるよりもお供として旅してた方がずいぶん気が紛れたわ。」
それが本心なのかどうなのか、判断はできない。
「先輩や他の人たちも月末までにはここに来るはずよ。それまでの時間に心の整理を付けろってのは難しいかもしれないけど、少しでも穏やかに過ごせることを願ってるわ。」
そう言うと姉さんはギュッと抱きしめてくれた。
「姉さん、ありがとう。」
もう1度お礼を言う。
「またすぐに会いましょうね。」
そう言って離れた姉さんは車両に乗る。
扉を閉める前に手を振ってくれたので振り返す。
扉が閉まれば待ってましたと言わんばかりに車両が動き出した。
ほんの少しの間、去っていく車両を見守っていた。
急に肩が寒さに震える感覚がして思いふけることから引き戻される。
(さて戻ろう…。)
1人になって街の喧騒に足を向ける。
まっすぐホテルには戻らず、ほんの少し道を外れ店に寄ってみたりお菓子を買ったりしながら歩いた。
ホテルに戻ったのはもうすぐ昼食という時間。
「ミリア様、お待ちしておりました。」
入ってすぐ、さてもう1度手続きかぁなどと考えながらフロントに向かっていると女性のスタッフに声をかけられた。
「本日よりミリア様を担当させていただきます、コンシェルジュのハウニと申します。」
そう言って1度深々と頭を下げた。
「まずは手続きとそれからお部屋の方に案内させていただきます。」
ハウニはにこやかにそう言うとフロントとは別方向へ向かい歩き始めたため後ろをついて行く。
「当ホテルではトランプの方々が滞在される際にご利用いただいている別棟がございます。」
フロントに比べれば少しこじんまりとしたカウンターを備えた場所に案内される。
促され用意されていた椅子に座ると、ハウニはカウンターの向こう側にまわりこれまでやってきた手続きと変わらず宿泊に関しての確認事項を口頭で説明からの署名作業を行う。
「宿泊のお手続きありがとうございました。それではこれから館内施設の案内をさせていただいて、最後にお部屋のあるフロアへご案内いたします。」




