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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
123/276

13



「姉さん、疲れてる?」


翌朝宿までやって来た姉さんは、見るからに疲れていた。




「大丈夫よ、ミリア。早く出発しましょうか。」


そう言いながらさっさと乗り込んでしまったので、追いかけるように乗り込めばすぐに扉が閉まり出発する。





「これ、父さんが旅の間に食べなさいって。ここに置いておくからミリアも好きに食べてね。」


そう言って手に持っていた荷物の中から大きな紙袋を出し中身を机の上に出した。


たくさんの焼き菓子は輝いて見えるほど色とりどりに装飾されていて、その中には昔食べた思い出のあるものもいくつかあった。



懐かしさに思わず手を伸ばし、そのうちの1つを手に取る。





「ミリアはそれが好きだったわよね、父さんがそう言ってた。」


真っ白な雪が積もったような見た目のクッキーは、口に入れれば香ばしいナッツの味わいと共にホロホロと崩れる。



「とっても懐かしいです。」


一等特別な日でもなく、でもたまにしか口にしなかったそのお菓子は最近思い出さなかった生まれ育った街を思い起こさせ両親の顔もはっきりと思い浮かんでしまった。


キュッと胸が締め付けられるような感覚に手に持ったクッキーを見つめる。




「家族に会いたい…。」


それは言うつもりは無かったが漏れ出た言葉だった。



「ん、何か言った?」


たまたまなのか車外の音で姉さんには聞こえていなかったようだ。





「雨が降って来ましたね。」


窓の外をみるとポツポツと窓をうちつける雨粒が見えた。




「あら、本当ね。この雨ももう時期雪に変わるんでしょうね。」


「そうなんですね…。」


姉さん曰く、今年は少し雪の降り始めが遅いらしい。




そんな話を聞きながら街を出た窓の外の景色をぼんやり見つめる。


何もなければ平和だと言うが、何もなさすぎるのもある意味で平和とは対極にある気がする。



翌日から本当に雪が降り始め、楽しみだった窓の外の景色も真っ白なものになってしまった。





次の土曜日に泊まった宿であらかじめ学園から届いていた荷物を受け取る。



「姉さん、ちょっと良いですか?」


各々の荷物を持っておやすみを言ってから別れた10数分後に姉さんの部屋の扉をノックした。




「どうしたの?」


「兄から手紙が来ました。」


明日の朝こちらから送る予定のものとうまく入れ替えられるように送られた荷物を開けるとクラスメイトからの手紙も同封されていた。


今夜全て読んで全部に返信書けるかなぁなどと思っていたら、ひとつだけ妙な封筒があった。



その封筒は1度開封された形跡があり、宛名の横に確認済みの印が捺してある。



「内容は?」


「会うことはできないかと。」


出した手紙と同じように形式的な挨拶の後、入学のお祝いの言葉。



そして、年末にかけて会うことは叶わないだろうかと言う内容が続いていた。



「どうしましょう…。」


「どうしましょうって言ってもねぇ。」


そう言いながら姉さんは手紙を取りながすように読んだ。



「奇妙な縁というか幸運というか…。」


「兄も月末にかけて15の街に居るみたいなんですよ。」


手紙には選抜で選ばれたため15の街の警備隊として滞在すること、



休みの日があるので移動は大変だろうが1日でも会えないだろうかと言うことが書かれていた。



「よし、ミリアちょっと話しましょうか。部屋の鍵はちゃんと閉めてきた?」


うなずくと姉さんも部屋の鍵を閉めてつい先ほど夕食を食べた食堂に行くことにした。



宿の利用者が少ないのかそれともここでは酒などの提供はないため利用者が少ないのか今他に人はいない。


人が来たことで顔を覗かせた店主に姉さんが少し話をするために使いたい事を伝えると、温かい飲み物を2つ出してくれてごゆっくりと言い残し行ってしまった。




「まず、どれから話すべきかしら…。」


適当な席に座り姉さんは考える。



「ミリアのお兄さん、タクヤに会うのは難しいと思うわ。」


「やっぱりそうですよね。」


「その言い方だと予想はしてた?」


その通りだった。



「そうじゃなければ何のために親から離されて学園に入学したのかって話になりますからね。」


「そうよ。学園の学生であるうちはよほど特別なことがないと15の壁から外には出られない。そして外からもよほどのことがないと入ってこれない。」


そのための壁だ。



「ティーが動物だったり不思議な力を持つ特別な物だったりって、学園に来るまでずっと知らなかったでしょ?私たちは隠されてるのよ、護られてるって言ってもいいかもね。」


そうなるとひとつ疑問が出てくる。



「姉さんの両親はどうだったんですか?」


出身がどこかはこの際置いておくにしても、学園の出身者だ。


大人になれば何かしら条件付きだったとしても出ることができるのだろうか。




「あの2人はね、自分たちが結婚して私を産むためにティーを封印したのよ。」


「封印…。」



「そう。封印にもいろんな形があるらしいけど、2人は入れ墨みたいに皮膚に縫い付けられてたんですって。私が学園に入学しなきゃ一生そのままにする気だったそうよ…。」


「それって一生意思疎通できない状態になるってことですよね?」


意思のあるティーにとってそれはどうだったのだろうと、うまく言葉にできない。




「もちろんティーを説得するのが最大の難関よ。それが原因でティーが歪むケースもあるらしいから。」


もし自分なら相手を納得させることができるだろうかと考えるだけで辛くなる。




「父さんと母さんは最終的に2人が幸せならって納得してくれたそうよ。」


2人にそんな苦労があったのかと心の中で感心する。




「でもなんで封印してまで壁の外の街に出たんですか?」


結婚も出産もなんならお店だって壁の中でもできたはずだ。



「2人はね、2人とも家系の中に動物のティーが居なかったの。」


どちらも両親とは違うティーとして生まれた。




「そうなるとその2人から生まれてくる子が必ずしも壁の中で大人まで育つことのできるティーを預かれるかわからない。私たちが学園に来たように壁の外に送り出すためのシステムはあるらしいけど、2人はそういう未来の可能性に耐えられなかったそうよ。」


素朴な疑問として調べたことがある。


壁の中出身で、しかしティーが適正ではなかった場合。


その場合子供は壁の外の街に送られる。


ティーの適性を考慮されティーを活かすために最も適切な街に送られその街で養子縁組などの手続きをするようになっていて、子供たちのほとんどがその後2度と産みの親と会うことはない。



姉さんの親はその可能性が人よりもほんの少し濃く身近に感じてしまったため、色々と考えた結果結論を出したのだろう。




 

15年以上も前にヨーロッパに旅行した時に食べた名前もわからないお菓子。

無印良品のブールドネージュが近いけど、あれをもっと粗雑にしたようなお菓子。

口に入れたはずなのに1割くらい絶対にこぼして、友達と笑いながら食べたあの日の思い出が混ざりました。

たまに無印で買って食べるとあの時の騒がしい音とオイリーな煙草の匂いが思い出される。

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