表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
122/276

12




「それじゃあ、君は何を見たの?」


話がこちらを向いた。




小さく深呼吸をする。



「あの時と同じ人に話しかけられました。」


とりあえずひと言絞り出した言葉に聞いていた2人が固まる。



何があったか覚えている限り話をした。


と言っても時間にしてほんの数分の事でその大半は思考がぼんやりとしていたため大した情報は無い。





「使われたのはホズミのティーの能力だった?」


「たぶんそうだと思うんですけど、強い匂いは感じなかったので違うかもしれません。」


うーんとクロルが考える。



「なんでそれならすぐに言わないの!あの場ですぐに警備に言えば追いかけることくらいできたかもしれないのに。」


「それは難しいと思う。場所を変えたのはいい判断だ。」


姉さんの言葉に言い返す前にクロルが言った。





「私のティーは捕まえることに自信があるつもりだったんですけど…。」


「無理だろうね。」


はっきりと否定された。



「わざわざ人の多いここで接触してきたってことは相当自信があったはずだ。むやみやたらに捕まえて、君までティーを失ったらどうする。」


「そのことで聞きたいんだけど、相手のティーってなんなの?」


姉さんが初歩的な疑問を言う。




「まだわかっていない。でも心当たりはある。」


「心当たり?」


いまいちはっきりしない解答に思わず聞き返す。




「ただそれを君たちに言う権利を私は持っていない。」


「権利というと?」


わからないことがさらに積み重なってしまった。




「公然の秘密とでも言おうか。そのことを知るには君たちはまだ幼すぎるし、今それを知る権利があっても公に話してはならないという約束がある。何を知っていて心当たりがあるとしても君たち若い世代に伝える権限を私は持っていない。」


そこまで言ってクロルはひとつ大きなため息を吐いた。




「回りくどい言い方したけど、教えられないってだけ。でも君たちは当事者だし、2人とも直接会ってるわけだから遠くないうちに知ることになると思う。その役割は私じゃない。」



「…わかりました。」


知れるものなら知っておきたかったが、何か深い事情があることだけはわかった。


しかしそうなるとこの後の旅に不安が出る。




「私からアドバイスできることがあるとしたら、道を逸れず指定された旅路を完遂しなさい。それが君たちを守ることにつながる。」


「ありがとうございます。」


「この後も良い旅を。ミリアはまたあちらで会おう。」


その言葉が聞こえたと思うといつの間にか扉の前に立っていた。





先ほど姉さんが挨拶のために開けたはずの扉は閉まっている。



「行きましょう。」


それだけ言うと姉さんは歩き出した。



(理解はするけど納得はしてない…。)


姉さんの声から感じられたのはそういった感情だった。





再び建物の正面まで戻るといくらか静かになっているとはいえまだまだ人は多く、そのいくらかはいわゆる野次馬だと言うことがわかる。




「どう思う?」


建物から足早に離れ、いくつかのブロックを過ぎた。


適当なベンチに座ると、姉さんがやっとひと言吐き出した。



「どうって?」


「私たちはなんのために動かされてるのかしらね?」


表向きの目的は療養だ。


でもそれなら学園内でも良かったはず、それをわざわざ外に出すのは簡単なことではない。



姉さんのように近場に縁者がいるならまだしも、そう言うわけでもない。




「公然の秘密ってなんなんでしょうね?」


それが知れれば今持っている大方の疑問は解決できる気がする。



でもそれを知る術はない。




「今は気にしちゃダメですね。」


結論はそうなってしまう。



「これ以上悩みの種を増やすべきじゃないですよ。私たちの旅の目的は休むことです。」


そうは言ったものの納得はできない。それは2人の総意だ。





「それじゃあ、気を取り直していきましょう!」


いくつかのお店を覗き、屋台街でいろいろな匂いと音を浴びる。


そうしているうちに陽は傾き、姉さんの気は進まないが1度店に戻る。




「ミリアちゃんも泊まっていっていいのよ。」


「そうだ、うちには住み込みの従業員はいないから部屋は余っているぞ。」


姉さんは元々の家に滞在する予定だ。



「せっかくの家族水入らずを邪魔できませんので。」


もう何度目だろうか引き留める言葉をやんわりと、しかし隙なく断る。



道を逸れず指定された旅路というのがどこまでかわからないが、変に予定していたルートを変えるのは良くないという結論に至った。


それがたとえ疑うことのない好意からだったしても、不安の多い今は流されないほうがいいだろう。




教えてもらった通り宿までたどり着き、今日は1人で受付を済ませる。



(みんなに手紙でも書くか…。)


移動中も何度か宿を通して学園に手紙を出す。



旅路がちゃんと進行していることを知らせるためだが、その時にクラスメイトへの手紙を入れておけば届けてくれると約束してもらった。




(とは言ってもなぁ…。)


何を書けばいいだろうかと悩む。


旅は順調と書くべきか、今日あったこと書くべきか。




(約束はしてくれたけど、他の手紙と同じ扱いなら…。)


もし他の手紙と同じ扱いなら先生たちが1度読むことになる。



(良くて黒塗り、悪ければ破棄…。)


せっかく出した手紙も握り潰されてしまえば元も子もない。



(ここは安心と安全第一ね…。)


そう考えながら、自分でも驚くほどに見本的な手紙が完成した。




(伝えるのは今じゃなくていいや…。)


手紙と書類は明日の朝一で宿の人にお願いしようとその日は早く寝ることにした。


服の袖口からはいつからついていたのか灰のようなものがこぼれ落ち床を汚す。


翌日はそのほとんどを部屋の中で過ごした。





食事の時以外は部屋に居て、たまに賑やかな通りを窓から眺めて過ごした。


食堂に置いてある過去の客が置いていった本を数冊借りて来てのんびりとした時間を過ごせばあっという間に1日が終わる。



あまりにも贅沢な時間の使い方ととるか、非常に退屈な時間ととるか。



(少なくとも私は前者かな…。)


そうしてあっという間に1日が終わった。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ