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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
119/276

9






宿では事前に学園から話が通っているようで、わたされた札を出せばその日の部屋と夕食が提供される。


そして準備された朝食と昼食を持ってまた出発する。



そんな生活を3日。




「あぁ、着いたみたいね。」


昼食を終えてしばらくした後車内からでもわかるほど賑やかな街のはずれに車両は停まった。



そうして準備をしてから降りてみれば、ここはずいぶんと大きな街のようだ。




「さぁ、行きましょう。」


姉さんに手を引かれて街を歩く。


雰囲気は8時の街のマーケットに近いだろうか。


露店で食べ物や食材を売る店が多くあり、時より露店と露店の間には食事のできる店の入り口が見える。



客を呼ぶ声などで活気にあふれていて、話し声からこの街ではないところから買いに来た人もいることがわかる。


姉さんはこの街を歩き慣れているようで人の多い通りをスイスイと進んでいく。




やがて露店は少なくなり、代わりにショーウィンドウの輝く通りに入った。



「ここよ。」


服や宝石の店が並ぶ中の一軒。


ショーウィンドウにはまだ何も置かれていないケーキスタンドがあるだけだ。




「ただいまー!!」


扉を開け中に入る。


店内はまだ灯りがついておらず薄暗い。



姉さんが声をあげると、数瞬の後奥からバタバタと音が聞こえてきた。


店の奥から出てきたのは、長い髪を三つ編みにしてまとめたスラリと背の高いエプロンをつけた女性だ。




「あらー、ミリアちゃん!」


1度立ち止まりこちらを見たかと思うと感嘆の声をあげて足早にこちらにきて屈んで両肩を掴まれた。



「こんなに大きくなって、本当に久しぶりね!何年振りかしら、元気にしてた!?」


「お、お久しぶりです。」


興奮しているのがよく伝わるそのテンションのままに揺さぶられながらされた質問にとりあえずで答えることができただけ正解だろう。




「母さん、あなたの息子も帰ってきてるわよ…。」


姉さんが困ったような呆れたような声で言う。



「アズハもおかえり。何があったかは学園からおおよそ聞いてるけど、そのことについてこの後2人でゆっくりお話ししましょうね。」


顔が笑っていても声が明るくても、奥底にある怒りが滲み出ている。



(すっごい親子…。)


見た目とかいろんなことを抜きにしてこれほど親子らしい親子も珍しい。




「いつまでも店で話してないで、母屋の方に入ってもらったらどうだい?」


そうこうしていると店の奥からまた1人出てくる。



「パパちょうどよかったわ、ミリアちゃんを先に母屋に案内してくれる?」


私はアズハと少しお話しがあるからというと、姉さんの肩が揺れるのを感じた。



「わかった。ミリアちゃんおいで、お茶を用意しよう。それから、アズハおかえり。」


そう言って手招きする人物は一言で言えば大きな熊のような人物だ。




背は高く恰幅もいいため今入ってきた扉すらも少し窮屈に見えてしまう。


切り揃え整えられたヒゲに、この暗い室内でもサングラスをかけている。



「姉さん、ファイト。」


小声でそう伝え繋いでいた手を離し、奥へと呼んでくれた人物の後ろをついていく。




店の奥の道から厨房の横を通り抜け、3段の階段を上がると大きな机が中央に置かれたリビング。


座っててと言われ奥のキッチンでやかんを火にかける様子を見守る。



「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


湯気の上がるマグカップを置かれる。


両手で持ってみれば、先ほどまで繋いでいた方の手はそうでもないがあいていた方の手は冷え切っていたのかじんわりと温かさが伝わってくる。




「本当、おおきくなったね。何年振りかな?」


「3年ぶりです。」


「そう、もうそんなに経つんだね。ご両親は元気?」


「はい。と言ってもティーを受け取ってからすぐこっちにきたのでそれ以来会ってないですけど。」


「そうだよね、ごめんね。」



見た目は森で会ったら助からないタイプの熊なのに、心も言葉も優しい。



「でも。入学してすぐに両親と兄に手紙を送ったのでそろそろ届いてると思います。」


「そう、それはご両親もひと安心だね。」





会話が途切れたのでお茶を飲もうと両手を伸ばしマグを持ち上げると、ポトっと音がした。



ジーとこちらを見つめる大きな目。


艶々の皮膚は周囲の明かりを反射し赤やオレンジにキラキラと輝いている。



「はじめまして、こんにちは。」


大きな目が一度ぱちりと瞬きする。


マグを置き両手ですくい上げてみると、表面はひんやりと冷たいが皮膚の奥に温かいものを感じる。




「平気なんだね。」


「可愛らしいですね。」


「女の子はこういう子が嫌いなもんだとばかり思ってたよ。」


「私はいいと思いますよ。」


手のひらの上でゴロゴロと転がったり親指を咥えてみたりしているティーを見ながら正直に言う。




「同じ爬虫類系?でもっと見た目こわくて力強いけど、とっても心優しいティーも知ってますし。」


あれを爬虫類と呼んでいいのかわからなかったが、その点はとりあえず保留だ。



「そう、それはいい出会いをしたんだね。」


そう言って机を指で2回叩くと手のひらの上で遊んでいたティーが飛び降りて机の上を走り戻っていく。




「アズハから聞いているかもしれないが私のティー、石炭を食べて火を噴くサラマンダーだ。」


そう言って主の手にのったティーは舌を出す代わりに細い火を出してみせた。




 

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