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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
117/276

7




(いろんなことがありすぎた…。)


ベッドに寝転びながら天井を見つめ今日のできごとを振り返る。



(現状維持か療養か。それとも新天地か…。)


とりあえず現状維持は無しだと思っている。


何も解決もしなければ進歩もしない選択肢を今取る必要はない。




(そうなると…。)






「すみません、一緒には行けません。」


日曜日の朝、迎えにきてくれたスオウに玄関先でそう言う。


スオウのティーは片手に乗るほどの小ささまでになっていて、玄関を開けた途端飛びついてきた時は思わず悲鳴をあげそうになった。



「そう…。」


声は少し残念そうだったが、表情は納得しているように見える。




「それじゃあ、君と次に会うのは年末だね。」


「えっと、それまでお元気で。」


「うん、ありがとう。君もそれまでに元気になっててね。」


そう言ってスオウは足早に去って行った。



1度家の中に戻って朝食を取り、さぁ今日は何をしようかと考えているとまた来客を告げるベルが鳴った。




「ミリア、おはよう。」


「姉さん、おはようございます。」


「さっそくだけどミリア、出かける準備するわよ。」


「出かけるってどこへ?」


姉さんはここ最近見なかったとても楽しそうな表情で手を引いてくる。



「そりゃあ、もちろん外へよ。」


「…外?」


「先輩に聞いたんじゃなかったの?年末のイベントに療養も兼ねて早めに出発するって。」


「なんで姉さんがその話を?」


姉さんは事情こそよく知っているが、トランプではない。



「私も一緒に行くからよ。と言っても同行するだけで参加はしないんだけどね。」


さぁ、詳しくは中で話しましょう。と言って家の中に押し込まれた。



「つまり、姉さんも療養が必要と判断されたから1度ご実家で療養すると言う程で、私と一緒に行くってことですね。」


「そうよ。どちらかといえば後者の方が本目的みたいだけど。」


悩んでいることなど早々に見通されていたのだろう。


最後のひと推しとして信頼できる人と一緒に行くと言うことだろう。




「1度15の街まで一緒に行って、そのあと私は両親のいる街まで戻ってそこでしばらく滞在。そのあと年明けに合わせて学園に戻る予定よ。」


姉さんの両親は姉さんが入学するのと一緒にこちらに引っ越してきて、こちらで新たに店をやっていると言う話は聞いていた。




「冬祭りでは会えなかったけど、父さんたちもミリアのことすごく心配して会いたがってたわ。」


生まれ育った街でも人気のお菓子屋だった姉さんの両親の店は、こちらでも学園のイベントの際などは出張してくるほど人気の店らしい。



「もしかして、行かない予定だった?」


「いいえ、療養にはクラスメイトからも勧められたので行くつもりでした。」


ほぼ自分の中では決めきっていたこと。




「私が同行者でびっくりしてる。」


「正直…。」


行くと決めたら1人で送り出されるものだとばかり考えていた。



「先輩はたぶん、今ミリアをできれば1人にしたくないのよ。」


「でも、それって…。」


矛盾していないかという言葉は素直には出てこなかった。




「あんなことが目の前であったあとだもの。もう学園内ですら心落ち着ける場所じゃなくなってる。だから療養してもらいたい。でも、1人になって全てを敵と見るようにはなってほしくない。」


良くも悪くも1人になるということは話し相手が居らず考えを1人で煮詰めてしまいやすい。




「いつでも話してほしいけど、話せなくても絶対にそばに居るわ。」


それにね、と姉さんが続ける。



「私だって療養が必要なのよ。自己判断じゃなくて、先生から直接そう言われたわ。」


姉さんだってこの10日間、色々な人に話を聞かれ調べられそして身近な人にそのことを話せず過ごしただろう。


姉さんと同級生で花姫の双子はおおよそ何があったか想像はできるだろうが、他のクラスメイトや同級生は断片的な噂と大人たちから伝えられるごくわずかな情報から想像するしかない。


そうすれば根も葉もない事を言い出す人もいれば、直接何があったのか聞きにくる人もいたはずだ。



そうした場合でも否定も肯定もできず黙っていることしかできない。


何があったかなど言えないと言うより言ってはいけない事態だったのだから。




「人の噂が次の話題に変わるまで、みんなの熱意が冷めるまで静養するように言われたわ。」


それは気遣いでもなんでもなく、必死に消火しようとしている火が再び燃え上がるのを恐れてのことだろう。




「今から久しぶりに街に行って色々買い物しましょう。それから、明日は先生から休んでる間の課題とかどうするのか聞いて火曜日は準備。水曜日に出発よ。」


そう言って姉さんは彼女に一言断った後、街へ行くため外に引っ張り出した。


なんの買い物かと思えば、大した用事や必要なものはなくただ最近忙しくて出かける隙がなかったお互いのための息抜きのような時間だった。




8時の街はすっかり冬の準備を終えていて、目に入る色は淡く鼻に感じる匂いは濃くなっていた。


目につく店に入り季節の商品を見て、疲れれば露天で温かいドリンクと甘いものを買いベンチに座って休憩する。


たったそれだけのことがとても平和に感じられる。





「そういえば、聞きたいことがあるんですけど。」


「何?」


3度目の休憩はランチタイムを少し過ぎた頃にランチも兼ねて入った店だった。


そこでデザートをつつきながらふと疑問に思った事を聞く。




「外から学内に手紙って出せますか?」


「どうかしら、たぶん問題ないと思うけど。」


何かあったの?と聞かれたのでかいつまんで話した。




「それは心配よね。15の街だと普通の郵便になるんでしょうけどその手紙のやり取りをどうすればいいかは明日ノオギ先生にでも詳しく聞いてみるといいわ。」


手紙を外部に出すには先生を経由しなければいけないルールがあるが、それが今回も適応された場合多少面倒なことになりそうだと考えるのは姉さんも同じようだ。



結局、特に目的のない買い物は日暮前まで続きその後は家まで送ってくれた。





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