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アニミ物語  作者: カボバ
世継榾編
112/276

2





狭い馬車のような見た目の移動する部屋で伝えられたのは、特殊な能力のあるティーを持つ子供だけが入学できる学園の話。


約5日で着く事。着けばすぐにテストがあること。


聞きたい事は何ひとつ満足な答えが返ってこなかったが、そのおかげでこれからのことだけを考えることに集中できた。




テストは問題なかったが、午後の実技はティーだけを持たされて大きな部屋の中で大きな人形と追いかけっこをするように言われた。


相手から触れられると終わりというルールのもと逃げることを推奨されたが、突然の大きな脅威に体が震えて足が動かない。


体の震えは思ったよりも大きかったのかティーがカタカタと鳴る。


もしやと思い蓋を1度手で開けすぐに閉める。




あまりにも勢いよく閉めたため部屋中に響く金属音。


そしてそれを相手に突き出せばどこからそんな勢いを得たのか大量の煙が飛び出した。


人形を包み込むと人形は倒れてしまい、試験終了を告げられる。





その後学園内を案内してもらって翌日。


不思議な封筒を2つ受け取ると、開封する前に昨日学園を案内してくれた上級生は何か言い訳をしながら部屋を出ていった。



先生はよくあることだと言った。


それから改めて授業の説明をするために教室を移動した。





クラスメイトは9人。


その日会うことができたのは男子生徒ばかり5人。



当たり前のことだがこちらから話しかける勇気もなければ、誰かが話しかけてくれるなんていうこともなかった。




そんなに下ばっかり見てて楽しい?


その言葉にハッと顔を上げる。




ごめんなさいと言うとそうじゃないと言われてとまどう。


見たこともない動物のティーを連れた彼が、まずはみんなで自己紹介しましょうと言ってくれたのは私にとっても彼らにとっても良いきっかけになった。



その後振り回されるように日々が過ぎていく。


私が受け取った封筒2つは悪魔からの招待状だったのではないかとすら感じる。



入学したのは5月だったが、今だに私はティーを使いこなせていない。



あの実技試験の日以来、私が出したいと思って煙を出せた事はない。


周りの大人たちは良い才能があるはずだ、理解をしてあげてほしいなどと言うがそう簡単には行かない。



そもそもみんなは受け取った時から理解を深め動物なら主従関係を、物なら手に馴染むほどの時間を過ごしてきたのだ。


私はこれが何かも今のところわからず、つい先日まで父母の顔色を伺いながら家から出ることもできず1日に1度触れるかどうかという日々を過ごしていた。





行事や勉強だって待ってはくれない。


そうやって頭を抱えるような日々を過ごしているうちにティーを受け取った日から1年が経っていた。







頭がおかしくなりそうな日々から救ってくれたのは彼だった。



無理しなくていいんじゃない?


全部手に入れられる権利があるだけで、全部拾わなきゃ行けないわけじゃない。




そう言ってくれた彼の言葉に救われた反面、権利のない人が何を言っているのかと怒りが溢れ出てきた。


その瞬間、膝の上に置いていたティーが熱くなり煙が出てくる。



どうしたらいいかわからずうろたえていると、彼のティーが掴めるはずのない煙を掴みあっという間に食べてしまった。


怒りが焦りに変わり、いつの間にかいつものとまどい感情になっていた。



彼は煙を出したのはどんな時かなどいろいろな事を聞いてきて、自分で思った時に出せた事はほとんどないと言うと少し考えるようなそぶりをした。



それじゃあ、練習しましょう。


先ほどまでこちらから一方的にとは言え、喧嘩寸前だった相手に言う言葉としてはとても明るい物だった。





ティーを理解するってそう簡単じゃないけど、きっかけがあれば、あっという間だと思うの。


そう言った彼は私よりも親身になって考えてくれている。



しかし話をしていく中で親の話までくると、またあんなことになったらどうしようと言う考えにいたった。



声をかけても触れても揺り動かしても目覚めない両親を思い出す。




大丈夫よ、また大量の煙が出ても何か起こる前に全部この子に食べさせるから。


その言葉に私以上に驚いた顔をした彼のティーの抗議の声が響く。



どうして、ここまでしてくれるの?


ある日、彼にそう聞いてしまった。




ほおって置けないからかな。


私を見ていると生まれ育った街で一緒に過ごしてきた友達のことを思い出すとそう言った。


彼は私を確かに見てくれているが、私の後ろに違う幻影も見ている。



そうだとわかってしまったから、彼への気持ちは抑えるしかなかった。





伝えても実るわけがないと諦めてしまえば、スッと体は軽くなり今だに理解はできないが折り合いは付くようになったティーを少しずつ思い通りに使いこなせるようになった。



初めて学園に来てから2度教室が変わり、クラスが11人になって迎えた秋。


彼は授業に来る頻度が急に減った。




どう言う事かとクラスメイトに聞けば、同郷の子が入学してきてあれやこれやと世話をやいているとのこと。



また胸が痛む。


それはもはや忘れかけていた記憶の奥底から蘇ってきた痛みだった。


いつも優しい彼だが、決して誰かの1番にはならなかった。



誰にでも平等に、当たり前の学生生活を送っていた彼がたった1人の後輩のためにいろいろとやっている。


痛みはだんだんと鈍くなっていったけど、それに伴って私の中はくもっていった。







だから普段は聞かないような話にも耳を傾けてしまい、普段なら行かないような街の路地裏にも行ってしまった。


後から考えればわざわざ人目につかないところまで出向いてする相談なんて、よほど後ろめたいかくだらないかのどちらかだと相場が決まっている。


でもその時かけられた言葉を信用してしまい、明らかに怪しいお守りも肌身離さず持ち歩いた。





その頃からティーの調子がいい。


最初は週に1度、それが2度3度となり気がつけば毎日通うようになった。



お守りだというのに訪れるたびに新しいものと交換されていた。


なぜそのような事をするのかわからないが、それも必要な事なのだろう。





調子のいいティーが出す匂いが日常になる頃には、1日がとても早く過ぎていくことに気付いた。



しかしおかしい。


朝起きてご飯を食べて、その後何をしていたかが曖昧になる。



目が覚めた時だけは毎日しっかりと覚えているのに、ここまでどうやって来たか今目の前の人と何を話していたかいつの間に着替えたのか。


思い出せないことが多くなってきた。




しかし誰かに相談しようにも、突き詰められるのが煩わしい。



結局人目を避けて相談に行くのはいつもの場所。






誰かが私のためにかわりに踊ってくれるなら、それはとても愉快。


それ以上のことは考えなくてもいい。



でも、少し時間が経つとすぐに糸が切れたように動かなくなってしまう。



また新しいのを見つけてこないと。


この部屋の外でも私のためだけに動いてくれないかしら。


そう溢すように言った。





あまりおすすめしない方法だけどどうしても叶えたいかい?


その言葉に間を置かず頷く。






そしてふと眠くなり次に目を開けたのは翌朝、自室のベッドの上だった。


なんだ、夢か。



首の後ろに違和感。




触っても鏡を使って見ても特に変わりはなかった。


しかし明らかにこれまでとは違う。





私がやりたい事をティーが拒否しなくなった。


その気になれば誰かとすれ違うだけで、振り返らせることができた。



あらかじめ準備した部屋の中でなくても気の弱そうな人ならそれで十分だった。





でも、そうやって踊ってもらうことはできてもあまり難しいことはできないみたいだ。


せいぜいどこかに向かう、持っていって置いてくる。その程度だった。



だんだんと覚えていない時間が多くなってくる。


だから朝起きて踊ってもらう子を見つけるまでは時間との勝負。





そういえば、いつから彼の顔見てないんだっけ…。





 


この2話を思ったより淡々と書けたことにホッとしてる


しばらく更新お休みします

次回更新予定は12月20日

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