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アニミ物語  作者: カボバ
冬祭り編
110/276

38





その場にいる4人以外の声。それと共に広がる木を燻したような匂い。




「動かないで。」


その言葉に体が固まる。


目だけを動かして見れば、姉さんもバラ姫様も動けないようだった。




初老の男性が1人入ってくる。真っ黒なスーツ、襟のボタンホールには金属の花を刺している。



そして、ホズミの横に立ち止まった。




「せっかく一時的に交換してあげたのに何もできなかったのかい?」


バラ姫様の手にあった短刀を手に取ったかと思うと懐から手帳のようなものを取り出した。


手帳をパラパラと大袈裟にめくり短刀を挟むと、まるで手品のように短刀が消えた。




すると手帳から一筋の煙が出てきてホズミの首周りにたどり着く。



「ダメじゃないか、約束だろ?」


まるで何かに言い聞かせるようにそう言うと指をくるくるさせて煙を手繰り寄せる。


煙はまるで芯の通っているよにピンッと張って巻き取られるのを拒んでいる様子だ。




「君は失敗したんだよ。」


煙を引きながら膝を着き、ホズミを見下ろしながら言う。




「好きな人にも気づいてもらえず、憎い人に哀れみの目で見られる。力も手に入れられず、頂点に立つこともできない。」


ピンッと張った煙は首の後ろに付いているのかと思っていたが、より合わせた糸が解けたようにいくつもの細い線になりホズミの身体中に付いている。




その1つ1つが木の枝を折るような音を立てながら身体から切れていく。



「さらにトランプが去ってしまった君に何が残る?仮初の権力に胡座をかいて、十分にティーの力を引き出せなかった君に力の本当の使い方を教えても中途半端。薬まで使ったのに完成も洗練させられない。」





細い細い煙の糸はもう数えられる程しか付いていない。


それすらもかけられる言葉に呼応するように1つまた1つと切れていく。



「私1人楽しませられなかったあなたとはこれでさよならです。」


最後の1つ、額に付いていたそれを強く引き切る。


より一層大きな音がして切れた糸状の煙は閉じられた手帳のページに吸い込まれて行った。



ホズミが目を大きく見開いたかと思うと、一瞬にして光が失われゆっくりと瞼を閉じた。


口から溢れ出ていた火もいつの間にか消えてしまい、静寂が広がる。





「おや、これは…。」


ホズミの髪に触れる。



そこにはホズミの髪に結んでいた、青緑色の編まれた紐が垂れていた。


髪から外しまたそれも器用に手繰り寄せる。




「私のティーの感覚で言えば…、とても美味しそうな気配だ…。」


紐を観察しながらつぶやく。


そして、バラ姫様の方を見て次に姉さんの方を見る。



最後にこちらを見た時目がしっかりとあった。




「…君だね。」


まだ動かない体、そらすことのできない視線に背をつたう汗。




逃げなければとわかっているのに立ち上がり近づいてくる男性を見ていることしかできない。



「これはまた才能あふれる若い芽だ。」


新しいおもちゃを見つけたとでも言うようにかけられた言葉は恐怖でしかない。





男性が手を伸ばしてきた時、ガセボの外から何かが投げ込まれた。


男性が伸ばした手を引っ込める。


そのまま伸ばしていれば当たったであろう投げ込まれたものは床に大きな音を立ててぶつかり壊れ飛び散る。





「邪魔が入ったようだ…。」


そう言って2、3歩下がり手に持っていた手帳に紐を挟む。





「またいずれお話ししましょう、ごきげんよう。」


手帳を閉じ指で表紙を叩くと、チチッチチッと金属同士を雑に擦り付けたような音がして男性が消えた。





体を縛っていた何かが同時に消えてフッと全身に入っていた力が抜ける。


腰が抜けたなどと軽い言葉では表せられないような脱力感。



倒れそうになった体を誰かが腕を伸ばして止めてくれる。





「…なぜここにいる。」


バラ姫様の声は先ほどまでホズミに向けられていたものとは質の違う怒りが込められている。





「…後輩を迎えにきた。」


「答えになっていない!!」


支えられている腕に捕まり足に力を入れてしっかり立つ。



見上げたタモンは姉さんと同じ羽織を袖は通さず肩にかけるように羽織っている。





「俺も花園の1人でお前の火を宿している。俺がここにいる理由にはならないが、居ていけない理由にもまたならない。」



大きな舌打ちをしたバラ姫様は懐から1枚の紙を取り出して躊躇なく2つに破く。


それをすぐにガセボの外に投げれば大きな警報音が鳴り響く。





「ミリア、アズハを連れて中に入れ。」


たぶんこの警報音は危機を知らせ通報を促すものだろう。



そこに一応の当事者が居なくてもいいのかと反論しようとしたが、色々なことがありすぎたせいかうまく言葉が出てこない。




「あいつと俺で何とかする。もう休め…。」


そう言って手を伸ばし姉さんの腕を掴み引き寄せる。



2人の間に居たため挟まれるような形になり、目の前に出てきた姉さんの腕を掴みそのままの勢いで影の中に入る。


入ってしまいきる前に見上げてみれば、いつものけわしい顔とは違いいくらか優しい顔をしていた。



姉さんを引いていた腕を離し姉さんを右手で、私の頭を左手で撫でる。




「2人とも、よくやった。」


手をグッと自分の方に引き寄せるように力を入れるとあっという間に2人が影の中に入り、ガセボの中には2人と意識の無い1人が残される。




「さぁ、後片付けをしよう。」


「私に話しかけるな…。」


タモンが倒れたままのホズミにしゃがみ込み肩を揺すりながら行った言葉は、拒絶の言葉で返された。




「俺を嫌うのなら…。」


意識の戻らないホズミの息を確認しとりあえず生きていることを確信したタモンは立ち上がる。




「毎年送ってくるのはどうしてだ。」


肩から落ちそうになる羽織を戻しながら問われた言葉にまた大きく舌打ちが返ってきた。













ブランケットに上着、クッションやいつの間に入れたのだろうシーツ。


手当たり次第に自分の影の中からだして気が済んだらそこに倒れ込む。



片手を握った状態で無表情で行動する後輩を見守っていた姉さんも倒れるように横に寝転がる。




「今はとっても眠いです…。」


「そうね…。」



「それから…。」


「それから?」


「少し寒いです…。」



そう言ってモゾモゾと背を丸めたのを見て、姉さんはふふっと笑った。




姉さんが手を伸ばし最初に触れたものを引き寄せて、2人で被る。



「寝ましょう。」


「はい…。」



もう目を開けていられないほど睡魔にのまれているが、目の前で発せられる声はまだはっきり聞こえる。




「起きたらきっと先輩が全てを終わらせてくれてるわ…。」


姉さんの声も段々とスピードダウンしていく。



(寝て起きたら全部夢だったなんて、小さな子供でもあくびの出るような結末だったらよかったのに…。)




思い描く夢は案外そんなものでいいやと思いながら、意識とわずかな時間だけお別れをした。





 

この章はここでおしまい。

このまま次の章の冒頭を明日明後日に投稿後、しばらく更新お休みします。



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