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アニミ物語  作者: カボバ
冬祭り編
108/276

36






「ミリア、準備できたわよ。」


ユリの花を白い紙で包んでそれを抱えた姉さんが来た。




「それじゃあ、行きましょうか。」


そう言ってユリ殿を出る。




専用車両に乗ってすぐ両手で耳を塞ぎうずくまる。



「ちょっとミリア、大丈夫!?」


「大丈夫です、ちょっと中の人の声が騒がしくて…。」


その言葉に姉さんが首を傾げた。





「ミリアにはずっと中の声が聞こえてるってこと?」


「はい。私も驚いたんですけど、私が入れて繋がってる状態なら影の中で話してることは聞こえるみたいです。」


そう言って左手親指に巻いた紐を見せる。




「もちろん暴れないようにおさえてはいますよ。その状態で姉さんのティーが出した煙を被った人の形っぽいものが目の前に出てきたら。」


「この子の煙は見たいものを投影する。」


それがどんな感情から出てくる見たいものかは関係ない。



(自分を閉じ込めた怒りからかちゃんと私を見てくれてるみたいだ。)


「なのでしばらく適当に移動して程よいところでバラ殿に行きましょうか。」


時計を確認すれば今は12時を少し過ぎたところだ。



今の時間はスズラン様が返しに行く時間だ。


今すぐ向かえば余計な人たちをも巻き込んでしまうかもしれない。



立ち上がりドカッと音を立てながら椅子に座る。




「20分くらい空の旅を楽しみましょうか。」







1度目的地を自宅に設定し自宅が近づいてきたら設定を変更してユリ殿に向かわせる。


街に降りる前に今度はバラ殿を目指す。




最後の操作をして操作盤から手を離した後、下を向いて息を吐く。


心当たりのない罵声や身に覚えのない嫌悪の感情をぶつけられるのはこれほど疲れるものだったのかと。





「車両が到着したら、姉さんは先に行ってバラ姫様に伝えてください。」


「…わかったわ。」


影からいくつかのものを出し姉さんにわたす。





できるだけ部外者には知られたくない。


その思いはバラ姫様も同じだろう。






バラ殿近くに着くと姉さんはすぐに降りて行ってしまった。


ユリの花を抱えて立ち上がる。




(よくまぁ、これだけずっと騒ぎ続けて疲れないもんだ…。)


外に出れば曇り空の隙間から日差しがのぞいている。




左手でしっかりユリを抱き、右手で傘を作る。


できるだけ周りを見ないように、人と目が合わないように。



決して早いとは言えない歩調でバラ殿の入り口に向かう。





もうずいぶんと少ないとはいえこの辺りにもまだ来場者は居たが、その異様とも言える状態に皆何も言わず道を開ける。



「いらっしゃい、リリー様。」


入り口で出迎えてくれたのはクチナシだった。




「姫様は建物裏の庭にあるガセボにいます。」


建物の右手からまわって行ってくださいと小さな声で伝えると背中を押すように中に入れ、その様子を見ていた外の来場者たちに向かって大きな声で呼びかけた。





「これよりしばらく姫様は休憩に入られます。その間バラ殿を閉鎖いたしますので、また後ほどご来場ください。」


その言葉に落胆の声がいくつか聞こえてきたが構わず教えられた通り建物の右に続く道を通り建物の裏を目指す。






建物沿いに歩いていけばあっという間に庭園に出た。




正面は薔薇しか植えていなかったが、ここは違うようだ。



(神殿の全ての花、いやそれ以上に色々な花が植えてある…。)


歩きながら見回せばさまざまな花が今が花盛りと言わんばかりに咲いている。



しかしその光景は妙なもので、季節の違う花や知っている限りでは今の季節に花をつけない品種までがイキイキとした様子で咲いている。


何か知らない力が働いているのだろう不思議な庭を抜けガセボを探す。





花に埋もれるようなその場所は下に数段下るように作られていて、備え付けのベンチに座れば8角形の屋根との間から目線の高さに花を楽しむことができるようにできていた。





「早めの来場をお許しいただき、ありがとうございます。」


ベンチに座るバラ姫様と入り口でユリを受け取り空いた手を取ってエスコートしてくれた姉さん。



「やっと捕まえたそうじゃない。」


「はい、私では手に負えないのでバラ姫様に裁いてもらいたくて少し早い時間ですがまいりました。」


「それで、あなたを幾度も襲おうとした害虫はそこに居るのね。」


足元から歪な形に広がる影を指差しながらそう言った。




「はい。」


「まずは話を聞こうじゃない。」


出してみろと促され、影を広げる。




そして左手親指の紐を外し一度影の中に完全に入れてしまい、膝をついて影に触れる。



(拘束はそのまま、外に出して。)


広がった影の中央が波立つ。


その波はどんどんと大きくなっていきやがて1人の女子生徒を吐き出した。




「あなたが私の花園を荒らす害虫だったのね…。」


何があったかわからないという表情をしていた女子生徒が声に反応し、バラ姫様の方を見る。




「こんなものまでどうやって手に入れたのか知らないけど持ち出して何がしたかったのかしら?」


バラ姫様は横に置いていたナイフというには刃渡りの大きい短刀を手に取る。



鈍く光る短刀はどう考えても手軽に購入したりできるものではない。




 

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