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祭りの初日。
それぞれの神殿に花を飾って周る。
その光景を一目見ようと初日が1番、人が来ることは事前に双子姫から聞いている。
次に人が多いのは翌日の火曜日になるだろう。
予報では水曜日と木曜日は確実に雨が降る。
学園内を一周まわるイベントの関係上、わざわざ理由もなければ雨の日は避けるはずだ。
「だから、何かするなら来場者の少なくなる雨の日。少なくとも私ならそうします。」
あくまで誰にもバレずに危害を加えるならという前提条件だ。
人目を気にしないなら明日大勢の前で行動に移せばいい。
群衆に紛れられたら正直うつ手はない。
「そこまで言うなら、おおよそ誰がやったか予想はできてるんでしょ?」
「はっきり個人を特定できてるわけじゃありませんが、おおよその人物像は…。」
あくまで予測でしかないが、わかっていることから推測できることを伝える。
「と言うことはミリアの中ではおおよそ8人に絞られてるわけね。」
「少し条件はこじつけになりますけど、私の中では5人。その誰も直接話したことがないので、正直なんでここまでされるのかわからないんですよね。」
こじつけは言ってしまえば候補を0にしてしまうような条件だが、今は置いておこう。
(さぁ、せいぜいイライラしてくれ…。)
そう思いながら姉さんと手を繋ぎ歩く。
家に帰れば、彼女が庭先を掃除している。
植木鉢の破片を一つずつ拾い、バケツの中へ入れていく後ろ姿がどこか寂しそうに見えた。
「ただいま。」
そう声をかけると、作業の手を止めて振り返り駆け寄ってきた。
「守ってくれてありがとう。」
彼女は掃除していたものを1箇所にまとめると、エプロンで手を拭ってからこちらの手を掴んで引っ張ってきた。
「ミリア、何かあったらすぐに助けを呼ぶのよ。」
姉さんはそれだけを伝えると帰ってしまった。
どうやら一階の玄関は使わずに2階から出入りするようだ。
外の階段を登り室内に入る。
そして屋内の階段を降りると朝別れた警備隊の人がダイニングのソファーに座っていてこちらに気がつくと立ち上がる。
「お待たせしてしまいました。」
「無理を言って待たせてもらったのはこっちです。」
そう言いながら彼は頭を下げる。
「帰宅後に大変申し訳ないですが、少し話をさせてもらってもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。」
その言葉を聞いた彼女はさっさとキッチンの方へ向かった。
それを見送ってから2人とも座る。
「あなたの先輩には昼に1度お会いして現状わかっていることを伝えさせてもらいました。」
「私もおおよそのことは聞いています。」
そこから情報の共有のためすり合わせを行う。
「これからどうされますか?」
「どうと言うのは?」
「これまでは警戒しつつある程度自由な行動も大丈夫でしたが、一応実害も出てしまったため我々としては悠長なことを言っていられなくなりました。」
もう少し規制を厳しくしたいようだ。
「そうなら、この家とユリ殿以外は祭りの期間中は移動しません。祭り期間が終わるよりも先に解決すると思うので、この2か所だけ警戒をお願いします。」
「バラ姫様と同じことを言われるんですね。」
どうやらバラ姫様にもここより先に話をしに行ったようだ。
「祭りは中止しない、人員も今更変更しない。この件はまもなく解決する。そう言われました。」
バラ姫様がそう言うなら、そうするしかないのだろう。
「一応あなたがそれでいいのかの確認をしたかったのですが、異論は無いようですね。」
そう言って立ち上がる。
「中央警備隊アズマ。トランプの方々に比べればいささか頼りないかとは思いますが、任されたこの使命を全力で遂行させていただきます。」
「よろしくお願いします。」
「そうは言っても私の能力では目の前の相手を拘束することしかできないので、何かあればすぐに逃げるもしくは助けを呼んでください。」
「わかりました。」
その日は外で警備をするからと2階の出入り口から出て行った。
見送ったあと再び1階に戻り暖炉に1番近いソファーに座った。
すかさず彼女が温かい飲み物を持ってくる。
「ありがとう。」
温かい飲み物がお腹の中の深いところに染みる。
(そういえば、何も飲んでも食べてもなかったっけ…。)
時間はもう夕方。
しばらくもしないうちに日が暮れてしまうだろう。
影の中にいた影響か自覚がなかったが、思い至ってしまえば空腹を感じお腹が鳴る。
その様子にクスッと笑った彼女が手を伸ばしあっという間に浴室へと引っ張られていく。
風呂をすませて戻ってみれば、今日はリビングテーブルの方ではなく暖炉の前のダイニングスペースの方に夕飯が用意されていた。
あっという間に過ぎた1日だったが精神的にも肉体的にも疲弊した1日。
それを労ってかいつもより気持ち品数も量も多い。
いつもより時間をかけてしまったが、食事をすませる。
「私が寝るまででいいから、部屋の中にいてくれる?」
彼女があれやこれやと手間をかけて演出してくれたのんびりした時間も就寝前になり終わりを迎える。
そこで改めて1人になることに不安を覚え彼女にお願いをしてみれば笑顔でうなずく。
いつも暖炉の横に座るときに使っている椅子を寝室まで持ってきて、ベッドの枕元に置く。
枕に頭を預けながらも目線を向ければ微笑みを返してくれる。
安心は何よりも効果的な子守唄になった。




