第六章 対馬 宗氏の時代へ
義智公の隣にある義成公の墓を一人参る少年の姿を見て、崎村老人はうんうんとうなずくように首を振り、一人涙ぐんだ。
崎村老人は何も言わず先に進み、宗太を先頭にお参りを続けた。 西の墓地に七人がそろうと、崎村老人は感慨深く話し始めた。
「宗家の元となる北九州の士族惟宗は、十二世紀位に阿比留一族の討伐のために対馬にやってきたと言われておる。
当時、阿比留一族は、対馬地元の役人として、思いのままに対馬を支配しておったからな。
九州を治めておった大宰府の役所からしたらほっとけなかったんだな。何度か阿比留一族に注意をしたが、聞く耳を持たなかったということで、惟宗が討伐にきたということじゃ。」
「阿比留一族と宗家の戦いになったとね」
雄太が不機嫌そうに言った。
「一二四五年、大宰府から阿比留討伐の命が下った。大宰府から来た惟宗と、阿比留一族は国信を大将として戦ったが、弟の裏切りもあり、国信が敗れた」
「で、阿比留一族はどうなったと?」
「そのあとは宗氏の時代になるんだが、阿比留家は宗家の家臣として対馬のために働いた」
「えー、なあんか嫌やねー。宗家の家来になったとね」
雄太はぶすくれた顔であごを突き出し言った。
「しかしな、宗家の苦難はすぐに始まった。二代目の助国は壮絶な死を遂げることにる。
明日、行こうと思っとるが、ここから車で三十分くらいのところに小茂田浜という砂浜の海岸がある。
宗家の苦難は小茂田浜での元寇との戦いから始まる。まずは、対馬を守り、日本を守り続けた宗家代々の墓にもう一度、手を合わせよう」
宗太は神妙な顔でたくさんの墓を見た。
「僕は、やっぱり対馬にすごい縁があったんだね」
「ん? やっぱり?」
「ううん、何でもない。ただそう思っただけ」
崎村老人は宗太の顔をちらりと見たが、何も言わず続けた。
「さっきも言うたように、ここ万松院は、二代目対馬藩主の宗義成なが父、宗義智の苦労をしのんで建てたお寺じゃ。
宗家としては十九代当主であり、初代対馬藩主となった宗義智は、日本と朝鮮の間にたって苦労し、対馬や日本の平和を守ったお方。
せっかく築いた朝鮮との信頼関係が豊臣秀吉の朝鮮出兵で崩れ去り、大切な奥様もうばわれた。
ああ、さっき通って来た大きな八幡神社の中に奥様を祀った神社もあるから、帰りに参ろう。」
崎村老人は何気に、真理子の顔を見たが、真理子はいつもと変わらない顔でニコニコしている。
雄太がぽつりと言った。
「阿比留一族が弱かったけん、宗家に負けたと? それともなんか悪かことしよったと?」
「いーや、雄太。時代の流れたい。弱いとか悪いとかではなく、日本の国がだんだんと一つにまとまろうとする時代の流れ。
鎌倉時代から室町、安土桃山時代の戦国時代を生きて、徳川がトップにたった。その時代の流れの中で、阿比留一族に代わり、宗家が対馬を治
めるようになったんだ。
色々なことがあり、今がある。その一つ一つがなければ、わしも、皆んなも今ここにはおらんじゃった。いいか悪いかではない。先人が、そういう時代を生きてきたから今がある。問題はこれからじゃ」
「んー、また崎村老人の話が難しゅうなった」
雄太が頭を上に向け、口を開けた。
きゃはははは
「雄太君、なんね、その顔」
その姿を見て、みんなが笑い転げた。
宗太を先頭にして、みんなでもう一度、宗家の墓に手を合わせ拝んだ。
「宗太君のご先祖様がここにおるんじゃね。なんか不思議。宗太君はなんで東京におると?」
「江戸時代が終わると廃藩置県となり、対馬藩はなくなったんだ。だから、江戸に帰った」
宗太が冷静にぽつりと言った。
「そうじゃ。宗太はやはり、わかって対馬にきたんじゃな」
「かあさんが対馬に行く前に話してくれた。でも、半分は信じられなかった」
「どんな話? どういうこと?」
「話せば、ながーくなって晩御飯も食べられんが、それでよかか?」
たずねてきたたけるに崎村老人が笑いながら言うと、目の前で手をふりながら、
「いいです、いいです。また今度聞きます」
あははは
崎村老人は笑いながら、
「対馬におる間に、ちゃんとみんなにも話すから。今はとにかく秘宝の玉を見つけよう!」