第十二章 防人の島 国境の島 そのニ
次の日の朝。
一番早起きのみつるが起きてきた。続いて韓国のイ・ミンジュン。
「おはよう!」
「おはようございます」
次々と全員が起きてきた。
「どうした? みんな今朝は早起きだな」
「なんかさぁ、昨日の石のことが気になって、朝から目がさめてしまった」
「雄太君も? ぼくも興奮して、ずっと目がさえてる」
「そうか。じゃあ、用意して早めにでかけるか」
崎村老人が目を見開くように子ども達の顔を見た。
朝食後、いつもより早めに出発した。
「まずは、美津島町にある西漕手にいくぞ。そして、そのあと元寇があった小茂田浜だ」
崎村老人の運転する車に乗って、子ども達は、昨日とは違う気持ちで窓の外を眺めた。
東海岸が美しく見える「根緒」を過ぎると、「鶏知」という町がある。そこから十五分ほど行ったところに大きな赤い橋が目に入る。
対馬の上島と下島をつなぐ「万関橋」だ。万関橋を渡り、しばらく行くと細い下り坂が続く。その急カーブの左側に狭い空き地があり、道路際に「西漕手」と標識が立っていた。
崎村老人は空き地に車を停めた。
「ここから奥に入ったところが西漕手だ。古くから、日本本土からきた官僚や学者がここから朝鮮やその先の唐や隋に出発した場所だ。
その前に、なぜここからなのかということがわかる、東側の海へ行こう」
「東側?」
「そうだ。対馬は縦長い島で、西海岸は朝鮮半島や中国の方向に面し、東海岸は、福岡、佐賀の方向に面している。そして、真ん中には険しい山々が連なっている。
九州本土から、対馬へと渡っても、東海岸から西海岸に出ないと、朝鮮や大陸へ出発することはできない。山を越していたら、時間がかかるし大変だ。
この西漕手がその場所に選ばれたのは、東海岸と最短の距離でつながってるからなんじゃ」
「へー、そうなんだね」
八人は、いろいろと話しながら、道路を横断し、少しく下り坂になった道をおりた。
道を下りるとすぐに右側に小さな港が見えた。
「ほんとだ! 海がある。これが東側の海で福岡や佐賀に繋がってるんだね」
「そうだ。ここは小船越という地域で、この湾は三浦湾という。遣唐使、遣隋使など日本から朝鮮や大陸の国に行く人々が対馬の地を踏んだんだ。
ここから西海岸の西漕手まで、昔はおよそ百七十八メートルしか 離れておらんやったらしいが、今は港が埋め立てられて、
三百六十五メートルあるそうだ。
さぁ、行ってみよう」
もと来た道を戻り、車を停めた空き地につくと、そこから続く細い道へと入っていった。山へと続く道は狭いがコンクリートで整えられている。
「ここからすぐに、海に出ると?」
「山の中に入ってるように思うよなー。さぁ、ここを下っていくと……」
崎村老人がそう言ってるうちに左へ下る道を下りていくと、川のように狭い入り江が続いているのが見えた。
「あっ、船だ!」
「ほんとだー。川みたいに見えるけど、これが海なの?」
子どもたちは、待ちきれないように早足となり先へ先へ進んだ。
「船がいっぱいある! この先が海に繋がってるっちゃない?」
山の断層が両側に見える。山と山の間に、すこしずつ広がる水の景色。
「わー。だんだん広くなっていくね。海の色がきれーい」
山際の狭い道の終わりには、小さな船着場のようなところがあり、ここから乗り降りしたであろうことが想像できた。
「きっとここから、朝鮮に向けて出発したんやね」
「そうだ。ここには大きな船は入らんから、小さい船に乗って、沖合いに待つ大きな船に乗りかえたんだろう。
ここは浅茅湾の入り江だから穏やかだが、沖へでると波が荒いからな。命がけだ」
子ども達と崎村老人は、海に続く入り江の先を眺めながら、ずっとずっと昔に、ここから旅立った古の人々に思いを馳せた。
「対馬は昔っから、国と国をつなげる島やったんじゃね」
たけるがぽそりとつぶやいた。
「さぁ、次は小茂田浜だ。車にもどろう!」
八人は車に戻ると、その昔、元寇がおしよせたという小茂田浜をめがけて出発した。
車で、まっすぐ三十分くらい走ったところで、厳原の町に戻った。
「じいちゃん、厳原に戻ってきたよ」
「よう道を覚えとったな! この桟原の交差点を右折したら小茂田浜方面にいくんじゃ!」
そう言うと、信号のついた交差点を右折した。十五分ほど山道を走ったところで、前方に海が見えてきた。
「さぁ、もうすぐ着くぞ」
いつもはにこにこと穏やかなワン・ルイファの顔が曇った。
「ルイファ、だいじょうぶだ!」
崎村老人はそういうと、ニコリと笑った。
ワン・ルイファも応えるようににこりと笑った。
水平線が遠くに見える海岸の側には神社があった。そこを通り抜け、海側に広い駐車場がある。
「わー。広い海だー。でもゴミもいっぱい」
「ほんとだー」
(ここで繰り広げられた残忍な歴史。
どう伝えていくか......)
みつるのことを思い出しながら、崎村老人は陽光に美しく反射する波間を見つめた。




