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島がおどるよ  作者: わたなべみゆき
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第一章 宝探しの旅

『島がおどるよ』は、歴史にさほど詳しくない方や、あまり興味がないという方にも読んでいただき、物語の世界に入り込んでもらう。

そうして、読み終わった頃には、長崎県の離島である対馬の事がだいたいわかり、対馬が好きになっている!

そんな魔法のような物語を創りたい。と思い書き始めた作品です。

どれくらいミッションをコンプリート出来るわかりませんが、ぜひ子ども達と共に、秘宝探しの旅へ出かけてみてください。

「おお、来た! 来た!」

 おじいさんの指さす方向を見ると、きらきらと輝く水面をさっそうと走ってくる白い船が見えた。

 船の名前は、高速船〝ヴィーナス〟

福岡県の博多港から壱岐の島を通って、この対馬にやってくる。

 ここは厳原港という対馬では一番大きな港。

 おじいさんは崎村さんといい、もうずいぶん前に福岡から対馬にやってきた人で、まわりの人からは崎村老人と呼ばれている。

 そのそばには、男女合わせて六人の小学生が船の到着を待っていた。


「ねぇ、崎村んじいちゃん。今日は誰が来ると?」

「今日、来るのは青森県からのお客じゃ。名前は柳みつる君と言う。小学五年生だ」

「へー、あおもり! そりゃあまた遠くから」

六人のうちただひとり、対馬に住む少年、阿比留雄太が目を丸くした。

 ほかの五人の子どもたちは珍しそうに周りの様子や、船がだんだん近づいてくる様を少し不安げな表情で見ていた。

 船着き場は、乗客を迎えに来た人たちでいっぱいだ。夏休みということもあり、ホテルや旅行会社などの名前を書いた大きなプラカードをかかえた人たちが何人もいる。

 

 ターミナルにつづく入り口の近くには、到着した船が、折り返し博多港へ向かう便に乗るお客もたくさん並んでいた。

 いよいよ船は岸に近づき、円を描くようにくるりと船体を横に向けると、上手に岸につけた。青いつなぎを着た男の人たちがあわただしく動き出した。

 乗組員が、船から投げた大きなロープをひろうと岸にある大きな杭に手際よくつないだ。

 車輪がついた階段を、何人かで船にとりつけていく。手慣れた様子で、あっという間に船からお客が下りてくる用意が整った。

 今か今かと待っていると、次々にお客が下りてきはじめた。

「さあ、これでやっとそろったな」

 崎村老人は、小さくそうつぶやくと一枚の紙を広げて上に高くかかげた。白い紙には『ようこそ やなぎみつる君』と書かれている。

「柳くん、てげぇ不安でいっぱいやろうなぁ。ぼくも一人で来たけん、船ん中でん、ずっとどきどきしちょった」

 二日前に、宮崎県日向市から一人で対馬に来た佐原たけるが、ぼそっといった。

 ここにそろった七人の小学生。

夏休みの旅行、というわけではなさそうだ。この時はまだ、なぜこの島にきたのか、かれら自身にもよくわからなかった。


 めがねをかけた小学生と思われる男の子が船の階段から降りてくる。背中にリュックを背負い、帽子をかぶっている。あたりをきょろきょろと見回している。

「たぶんあの子じゃ」

 崎村老人は、白い紙を前後にふりながら、

「おーい。柳君。柳みつる君。ここじゃよー」

 崎村老人の声に気づいた少年は、にこりと笑うと、階段をおりて小走りでみんなの所に駆け寄ってきた。

「こんにちは! 柳みつるです」

 みつるは、帽子をとるとぺこっとおじぎをした。

「おー、ようきたのー。行儀がいい子だ」

「はい! ぼくはずっと剣道をしてるので、あいさつだけはほめられるんです」

 みつるは、そう言うと、まゆをあげてにこりと笑った。

「そうか。よし、これで全員そろった。さぁ、今から出発しよう」 おじいさんのそばにいた六人の小学生たちは、顔を見合わせながら、それぞれが様々な表情をうかべていた。

「あ、そのまえに、みんなにも自己紹介してもらおう。じゃあ、雄太、お前からだ」

「こんにちは。対馬っ子の阿比留雄太です。小学五年生。よろしく」

「宮崎県日向市からきた佐原たけるです。ぼくも五年生。よろしくね」

「わたしは、長崎市からきた大谷真理子よ。宜しくお願いします。

あ、四年生」

「わたしは、プサンからきましたイ・ミンジュンです。よろしくおねがいします」

「わたし、ちゅうごくからきたよ。なまえはワン・ルイファ。よろしくね」

「ぼくは東京から。六年生の相庭宗太。よろしくね」

「こちらこそ。みなさん、宜しくおねがいします」

 みつるは大きな声であいさつすると、さっきと同じように帽子をとって頭をさげた。

 

 港の近くの駐車場にいくと、八人乗りの白い車が用意されており、全員車に乗り込んだ。

「オジイサン、オナカ、スイタ」

 片言の日本語でそう言ったのは、韓国のプサンからやってきたイ・ミンジュン。

「わたしもー」

「ぼくも」

 みんな誰かが言うのを待っていたかのように口々に言った。

「はははは。そうか、昼ご飯がまだじゃったな。明日から忙しくなるから、今日はゆっくりと食べるとするか」

 崎村老人は港から車を少し走らせた。

 真ん中に川が流れていて、川を挟むように両側に道がある。その道際には両方にお店が並んでいる。コンビニもあった。川淵には柳が気持ちよさそうに風に揺れている。

 崎村老人は近くの駐車場に車をとめ、みんなに車から降りるよう促すと、川沿いの道を歩き出した。すぐに立ち止まり、お店の看板を指さして、

「ここで食べよう。わしの知り合いが始めた店じゃ。若い人向けのメニューが多いから、ちょうどいいじゃろ」

 看板を見ると『つしま愛ランド 愛でたいカフェ』と、変わった名前が書かれている。

「これなんて読むの?」

「めでたいカフェって読むんだそうだ」

「ふーん」

 店名よりも、みんな早くご飯にありつきたいのか、そそくさと店に入った。お店は店内が広く、手前はショップになっていた。

「食事は奥になっています。どうぞ~」

 ニコニコとした店員さんが明るく出迎えてくれた。みんな、ここで一番人気と聞いたハンバーグランチを頼み、食後にはかき氷をごちそうしてもらった。

「どちらからですか?」

 店員さんはにこやかに問いかけた。

「ぼくは青森からです」

 みつるは少年剣士らしく、はきはきと答えた。

「ぼくは宮崎県から」

「まぁ、いろんなところからきてくださったんですね」

「わたしは長崎からよ」

「ぼくは東京から」

「ぼくプサンからね」

「わたし、ちゅうごくからきたよ」

「えー、中国から? 驚いたー。みんな、すごーい遠くからこられたんやね」

 

 二人の店員さんが、少年たちの近くにきて親切にいろいろとお世話してくれた。

食事を終えると、崎村老人はまた七人を車に乗せた。

「おいしかったか?」

 うしろの座席を振り返ると初めて笑顔をみせた。

「うん。お姉さんたちも親切で、すっごく楽しかった」

「かき氷、おいしかった。めでたいカフェ、また行きたいな~」

「そうかそうか。それは良かった。今から、対馬で一番見晴らしのいいところに連れていくぞ」

 それから、車で四十分くらい走ったころだろうか。赤い大きな鳥居が緑の中にちらちらと見え隠れした。

「あそこに赤い大きな鳥居が見えるね」

 長崎からきた小学四年生の女の子、大谷真理子があどけない顔で言うと、

「どこどこ」と青森県からきたみつるが、窓ガラスにおでこをくっつけるようにしてながめた。

 森の中を走ると、大きな赤い鳥居が現れた。そこをくぐると海が開けた。

「うわー、すげー。海の中に鳥居が建ってる!」

「こっちには神社があるぜ!」

 子どもたちは興奮気味に窓の外の景色を見た。

「ここは、対馬でもっとも観光客が多い和多都美神社というところ だ。ここには、またあらためて来るから今日はお参りだけして上に登ろう。」

 八人は和多都美神社でお参りを済ませると、さらに上に登る道を走った。少し行くと駐車場があった。

「さぁ、おりよう」

崎村老人は車から降りると、右のほうを指さした。

「あそこに階段があるから、登るぞ。烏帽子岳だけの頂上にいくと、凄いものが見れるぞ」

「たのしみー」

一番小さい四年生の真理子が笑顔でいうと、

「ふふふ」

もう何度も登ったことのある雄太は含み笑いをした。

 階段のところには『烏帽子岳頂上』と書かれた標識があった。みんな一列に並んで、狭い階段を上り始めた。けっこう長い階段だ。

「きつーい。もう足があがらない」

 右側についた手すりにつかまりながら、みんなひぃひぃと声をだしながら登った。崎村老人は慣れているのか、軽い足どりでひょうひょうと登る。

「おじいちゃんなのに、すごいね」

 真理子が真剣な顔で言った。

やっと全員が頂上に登りついた。

「わわわー! なんじゃこれ!!」

 目の前に広がるパノラマの景色。

三百六十度、対馬の海と山がまるで立体の絵画のように広がっている。

 雄太たち七人の少年たちは驚きと感動で大きな声をあげた。

「すっげーな」

「うわっ。なにこれ! 周り全部が見える!」

「島がいっぱーい」

「ここにある望遠鏡をのぞいてごらん」

 崎村老人がみつるに言った。

 望遠鏡をのぞいたみつるが叫んだ。

「わーーー。すげーな。海がおどっとるわ」

波間が太陽の光にてらされて、ゆらゆらとまるで踊っているように見える。

「ぼくにも見せて!」

 今度は、東京からきた相庭宗太がのぞいた。

「ほんとだ。きれいな景色だ。こんなの初めてみた!」

「えー、私もみたいー!」

 真理子が見ようとしたが、小さいので望遠鏡にとどかず、崎村老人がわきをかかえて、のぞかせてくれた。

「わー、すっごい。遠くの山がすぐそこにみえるー。わぁ、大きなおうち。お城みたい! きゃあ、海がきらきらー」

 真理子はなかなか離れそうにない。崎村老人はさすがに重くなったのか、

「真理子ちゃん。ほかの人にもかわらんとな」そう言って真理子をおろした。

 それから、みんながかわるがわる望遠鏡をのぞいた。のぞいた後は必ず、みんなの顔が、ぱっと明るい笑顔になった。


 子どもたちの様子が落ち着いてきたころ、崎村老人がゆっくりと話し始めた。

「実はな、今回、みんなに集まってもろうたんは...、

 いや、その前に、えーと、実は、この対馬は昔、朝鮮との貿易でかなり栄えた島なんじゃ。日本一豊かだった時もあるそうだ。

 そして、この島は日本の始まりだという人もおるくらい神さまの伝説が多い島でな。神さまの最初の国造りに関わる神社もたくさんある。

 わしは、対馬は宝の島だと思うとる。実際、対馬には、ずっと古くから伝わる秘宝があるんじゃ。

 それは七つの玉だ。世界でも珍しい石でできた七つの玉。今までいろんな人が挑戦したが、まだ誰もみつけてはおらん。それで、みんなに今回、対馬の宝さがしを手伝ってもらおうと、来てもろうたんじゃ」

「宝さがしー? それで集められたの? なんでぼくたちみたいな小学生を! 宝探しなら大人に頼んだほうがいいんじゃないの」

 東京からきた小学六年生の相庭宗太が冷静に言った。

「はははは。なかなか鋭いな。しかし、大人じゃダメなんじゃ。大人は欲がある。目に見えないものを信じられなかったり、見えてるものも歪んで見たりする場合があるからな」

「そっかなぁ。ぼくの知ってる大人の中には、めちゃくちゃいい人もいるよ」

 真剣な顔でそう言ったのは佐原たけしだ。

「ははは。それも一理あるな。しかし、今回の宝さがしにはみんなの力が必要なんだ。

 対馬のためにも、日本のためにも、そして世界のためにもなるかもしれん。とにかくお前さんたちの力が必要なんだ」

「世界のため? 対馬の宝さがしが? 意味わからん」

 対馬っ子の雄太が首をかしげた。

「ま、しかし崎村のじいちゃんがそういうなら俺は手伝ってもいいよ。その代わり、宝がみつかったら、少しおこづかいちょうだいね」

「はははは。雄太にはかなわんな。

 ああ、すごい宝だから、ごほうびはたっぷりあるさ」

烏帽子岳の雄大な景色に囲まれて、八人の笑い声が響いた。


  ~第二章 「神々の伝説」に続く~

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