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切実で頭の痛い話

 朝食も前日同様に素晴らしく美味しい物でした。朝から果物まで出るなんてなんて贅沢なのでしょう。実家では滅多に頂けなかったので、夢中で食べてしまいましたわ。はしたなかったでしょうか……


 でも、そんな感動にいつまでも浸っているわけにはいきません。そう、服の確認をしないといけないからです。まさかお姉様のお古を持たされるとは……完全に油断していましたわ。


(でも……あの方々が私にお金を掛ける筈がなかったですわね)


 結婚する時くらいは見栄を張るかと思っていましたが、その考えは甘かったようです。相手は格上の公爵家なので最低限のことはするかと思っていましたが……でも、お姉様、仰っていましたわね。『支度金は私が有効に使ってあげる』と。こうなると後で荷物を送ってくれるというのも信用出来ませんわね。もしかしたら不用品を送り付けてくるかもしれません。


(……否定出来ないところが心苦しいわ……)


 頭が痛くなってきましたが、仕方ありません。私は実家から付き添ってくれた侍女に持ってきた服と裁縫道具を持ってくるようにお願いしました。この侍女はリリアーヌといってお姉様付きの侍女で、お姉様にはやり過ぎなほどに持ち上げるのに私にはにこりともしませんし、何なら話しかけてもろくに返事もしません。きっと私の監視役としてついてきて、後でお姉様の笑いのネタにする気なのでしょう。


「こちらですわ」


 そう言うとリリアーヌは衣装が入った大きめのトランクと裁縫道具を投げつけてきました。トランクは金具が外れて中が露わになってしまいましたし、裁縫道具は蓋が飛んで中身が散乱してしまいました。さすがに他家でその態度はどうかと思いますが……彼女にとってはいつものことですわね。


「奥方様!」


 側で控えていたマーゴが驚いて駆け寄ってきます。主家の娘に取る態度じゃありませんから、マーゴが驚くのも仕方がないでしょう。


「あなた、主にその態度は何ですの?」


 私にぶつかっていないことを確認したマーゴがリリアーヌに問い詰めました。


「主と申しましても。その者は伯爵家の恥晒しなのです。当然ですわ」

「何ですって!」


 平然と、マーゴまで馬鹿にするように見下す態度にマーゴが一層声を荒げました。マーゴにとっては公爵の配偶者ですから当然でしょう。でも、長年この状態の中で過ごしてきたリリアーヌにとってはこの態度の方が当然なのですよね。


「何事です?」


 マーゴの声を聞きつけてやって来たのはデリカでした。後ろには護衛と侍女も続いています。確かに大きな声を出せば駆けつけますよね。


「この侍女が、奥方様にトランクを投げつけたのです!」


 いつの間にか十人ほどの侍女や護衛が集まっていて、マーゴの言葉に皆の表情が一斉に険しくなりました。彼らにとってはあり得ない光景だったのでしょう。


「これはどういうことでしょう? 伯爵家では主のご息女にそのような態度をとるものなのですか? しかもそのお方は公爵様のご婚約者。その様な態度は我が公爵家を愚弄するも同じです。公爵様に報告することになりますが?」


 デリカが静かに、でも僅かに怒りを含めてそう尋ねると、さすがにリリアーヌも分が悪いと思ったようです。さすがにこの件が公爵様の耳に入れば、我が伯爵家は謝罪しなければならないことにもなり兼ねません。


「エ、エルーシア様……」


 意外にもリリアーヌが私に縋るような視線を向けてきました。こうなってしまえば私が口添えしないと場が収まらないと思ったのでしょう。そんなに怯えるなら最初からやらなければいいのに……


「そうですわね。公爵様は王弟殿下のご子息で陛下の甥御様。血筋的には王家に準じるほど尊い方でいらっしゃいますわね」

「な……!」


 私の言葉にリリアーヌが顔色を青褪めさせました。でも何を驚いているのでしょう。これは本当のことですし、リリアーヌだって知らない筈がないでしょうに。どのような姿になられようとも、我が家と対等であるはずがないのです。


「私にはどんな態度をしても構いませんけれど……公爵家を侮るとも取られかねない行動は容認出来るものではありません。公爵家と我が伯爵家とでは、天と地ほどの差があるのですもの」


 いくら魔術師を多く輩出している我が家とはいえ、所詮は臣下です。それにこういう場面では、「公爵様とその周りの方」が「どう感じるか」が問題なのです。我が家にどんな事情があろうとも、身分制度が厳しい我が国では公爵様が不快に思われたらアウトなのです。


「そ、その様なつもりは……」


 現実を突きつけるとリリアーヌはぶるぶる震えて既に半泣きです。彼女は我が家の分家の子爵家の次女でお姉様のお気に入りですが……このことが知れたらもう我が家にはいられないでしょう。公爵家の不興を買った彼女を、あのお姉様が側に置き続けるとも思えませんから。


「も、申し訳……」

「ライナー、デリカ、申し訳ございません。我がリルケ伯爵家はヘルゲン公爵家に対して思うところはございません。我が家の教育不足を心より謝罪いたします」


 リリアーヌが謝罪の言葉を口にしようとしましたが、時すでに遅し。こうなっては私が頭を下げないとこの場は収束出来ないでしょう。こんなことでと思わなくもありませんが、デリカだけでなく家令のライナーまで来てしまった以上、リリアーヌの謝罪なんかでは済まなくなってしまいましたから。


「お、奥方様! おやめください。奥方様が謝罪されることではありませんわ」

「いいえ、使用人の不始末は主たる伯爵家の娘である私の責任です。我が伯爵家は二心などございません。そのことだけはどうか信じて下さいますようお願い申し上げます」


 私はデリカやライナーに向かって深々と頭を下げました。動揺する気配が使わってきましたが、これで終わって欲しいです。そう思った私でしたが……


「何をしている?」


 何とも言い表せない不穏な空気を感じたと思ったら、聞いたことのない声が響きました。





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