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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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結婚式にむけて・・・

 それからは急ピッチで結婚式の準備が始まりました。ライナーやデリカ、マーゴが中心となって、連日商人やデザイナーが立ち代わり入れ替わりやってきました。私は採寸だ何だと引っ張り回されて、嬉しいやら申し訳ないやらで気が気じゃありませんでした。


「奥方様、ドレスのデザインはどれにしましょう? ああ、これも素敵ですけれど、こっちも捨てがたいですわ!」

「あら、奥方様にはこちらの方がお勧めですわ。王都でも今はこちらが流行りだそうよ」

「まぁ! 流行になんか乗ったら後で後悔するわよ。やっぱり王道が一番よ!」


 デザイナーのデザイン画を手に、マーゴたち若い侍女たちが張り切り過ぎて私の入る余地がありません。それほど楽しみにしてくれて、一緒に考えてくれるのはとても嬉しいのですが……


(ウィル様、さすがに予算をかけ過ぎです……!)


 どうやらウィル様は「金額は気にせず私が望むものを!」とデザイナーに言ったらしく、どれもこれも立派過ぎて後ずさりしたくなります。我が領はウィル様の商才のお陰で赤字ではありませんが、それでも十年来の魔獣被害の影響で資産は相当目減りしていると聞きます。なのに、こんなに結婚式にお金をかけるのはいかがかと思うのですが……


「エルは心配し過ぎだ。これくらいでどうにかなる家じゃないよ」


 そう言ってウィル様が爽やかな笑顔を向けてくれますが……


(いえいえ、さすがにやり過ぎです!)


 ドレスも宝飾品も、王都からデザイナーや商会を呼びつけるのはさすがにやり過ぎです。しかも納期を急かすので割増料金が加算されていくのです。式なんて今までやる予定もなかったのですし、無理に急ぐ必要はないと思うのですが……


「でも、婚姻が成立してからすでに四月は経っているんだ。普通は一月も間を空けることはないのだから、急ぐ理由としては十分だよ」


 笑顔に「反論は受け付けない」と書かれている様に見えるのは、気のせいでしょうか。毎回妙な圧を感じてしまい、これ以上何も言えなくなってしまうのですが……私たちの場合、呪いという普通にはない事情があったのですから、そんなに拘らなくてもいいでしょうに……


「旦那様も余裕がないんですよ」


 マーゴがそう言いましたが、どういうことでしょうか。


「余裕? 余裕がないなら余計に慌てなくても……」

「そういうことじゃないと思いますよ」


 だったらどういうことなのかと尋ねても、誰も答えてくれません。終いにはマーゴに「そういうところが奥方様のいいところなのでしょうかねぇ。でも……」と何やら意味深なことを言われかけましたが、やっぱりその先は教えてくれませんでした。




 それから一月半後、ウィル様と私の結婚式が執り行われました。ウィル様は一月もあれば十分と仰ったのですが、さすがに招待客の皆様の都合を考えると一月では無理! とライナーやデリカたちに説得されての一月半後です。二人に言わせると、三月前でも早いとのこと。大抵の貴族は半年から一年の婚約期間後の婚姻が普通で、更には婚約した時点で式の日程も決めてしまうことも多いのですよね。急かすウィル様にデリカが「周りの都合も考えて下さいまし!」と一喝されていました。


「まぁ、奥方様、美しいですわ……」

「このドレスにしてよかったですわね。奥方様のためにあるようなデザインで……」

「ええ、ええ。張り切って準備した甲斐がありますわ!」


 今私は、憧れのウェディングドレスを纏い、ヘルゲン公爵家の所有する宝飾品を身に着け、皆に素晴らしく飾り立てられて鏡の前の自分を見つめていました。


(私じゃ……ないみたい……)


 肌も髪もマーゴたち渾身のマッサージでピカピカのツルツルですし、メイクで目鼻立ちもいつも以上にはっきりして、完全に別人にしか見えません……


「やっぱりメイクは控えめで正解でしたわね」

「ええ、奥方様にはきついメイクは似合いませんもの」


 マーゴたちはそう言っていますが、これはメイクとこれまでのマッサージのお陰でしょう。でも、ガリガリだった身体はふっくらと肉付きもよくなりましたし、頬も丸みを帯びて貧相さは見当たりません。こんなに変わるものなのだと感心するばかりです。


「エル……!」


 鏡に見入っていた私が見たのは、私を見て驚くウィル様の姿でした。鏡に映るウィル様は……白を基調とした正装が凛々しくお似合いで、ため息が出そうです。


「ああ、なんて綺麗なんだ……」

「ウィル様もですわ……」


 改めて本物のウィル様を見上げると、髪をきっちりと整えていつもの二十割り増しくらいの男らしくも麗しいお姿です。僅かに頬が上気しているのが何とも色っぽくてドキドキしてしまいます。


「ああ、もっとよく見せてくれ」


 そう言って一歩下がったウィル様の方に身体を向け、ドレスがよく見えるように立ちました。そんな私をウィル様が熱っぽい目で見下ろしてきて、何だか面映ゆいです。

 私が選んだのはオーソドックスなプリンセスラインのドレスで、上半身はすっきりと、下半身はふんだんにレースを使ったものになりました。お陰でちょっと重いです。それにしてもこれだけのレースをこの短期間に……と思わずにはいられません。このドレス一着にどれほどお金と手間がかかっているのでしょう……想像するだけでも冷汗が出そうです。

 幸いだったのは宝飾品で、今日使っているのはヘルゲン家に伝わる立派な品です。それでもサイズ直しと磨きで結構な金額が……いえ、もうそのことには触れないでおきましょう。


 式は我が家のホールで行われました。神殿の祭司様が執り行い、厳粛な雰囲気の中で誓いの言葉を述べる時には緊張感が最高潮に達して、一瞬言葉が頭の中から消えたほどでした。ウィル様が小声で助けて下さったからよかったです。

 その後はお披露目のパーティーになりました。聞けば国内の主要な貴族が参加して下さったとかで申し訳ないやら恐れ多いやらで、王都の夜会よりも緊張したのは言うまでもありません。しかも今回は私が女主人なのですから尚更です。幸いにも王都からお祖母様とアリッサ様が来て下さって助けて下さいましたが……これから女主人としての修行が必要ですわね。

 それでも……皆様のご助力のお陰でパーティーは盛況に終わり、私の肩の荷は大いに下りたのでした。





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