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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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両親たちと私とローレ

 それから十日後に私たちはヘルゲン領に向かって出発しました。勿論両親とお姉様も一緒ですが、彼らは罪人用の粗末な馬車に乗せられました。私たちの馬車との間には使用人や荷物を積んだ馬車が何台も入って様子がわかりませんが、聞くところによると鉄格子付きで荷物扱いだそうです。きっと不平不満を叫んで騒がしかったでしょう。周囲を固めていた皆さんに申し訳ないです。

 雨で一日足止めを食らいましたが、幸いにもほぼ予定通り屋敷に着きました。玄関ホールに足を踏み入れた時にほっと気が楽になったのは、ここがもう私の帰る場所になっているからでしょう。この厳ついお屋敷にこんなにも心が温かくなるなんて、来た当初は思いもしませんでしたが。


 領地に戻ってから暫くは、両親に頭を悩ませる日々が続きました。


『我々は貴族なんだぞ! 何だこの対応は!!!』

『エルーシア! エルーシアを呼びなさいっ!! 親をこのような目に遭わせて! 何て子なの!!』

『酷いわ! 私たちが何をしたっていうの……』


 予想通り自分たちの立場を全く理解して下さらず、罵詈雑言が酷いです。当然仕事なんて一切やりません。そこは予想していたのですが……こうなると地下牢行きしか手がありません。地下牢での暮らしは不健康で寿命を縮めますし、あまりやりたくないですが……


「仕方ないな。奥の手を使うか」


 そう言ってウィル様が取り出したのは、細い腕輪でした。装飾など一切ないものですが、魔力を感じます。


「ウィル様、これは?」

「ああ、隷属の術式が込められた腕輪だ」

「隷属の?」


 聞けばこの腕輪は戦争時に使われたもので、捕虜から情報を聞き出す時に使ったものだそうです。これを嵌めてしまえば、どんな相手も従わせることが出来るのだとか。


「陛下があの三人限定で貸して下さったんだ。これで言うことを聞かせられるなら、地下牢行きは免れるだろう?」


 こうして三人は魔力を搾り取る腕輪と共に隷属の腕輪を嵌められ、騎士団の下働きをすることになりました。隷属の腕輪の効果は強力で、自我すらも抑え込まれた三人は、今は人形のように命じられた仕事を淡々とこなすようになりました。彼らの様子を聞く度に寂しいような悲しいような、複雑な気持ちが湧き上がってきますが、彼らのためにもこれが最善なのでしょう。この先問題を起こせば、平民となった彼らに先はないのですから。


「ところでエル、体調はどうだ?」

「今のところ、特に不調という感じはありませんわ」


 心配そうに私の顔を覗き込むウィル様を安心させるように、私は笑みを返しました。三人から魔力を得られるようになってからはどうしようもなかった眠気も収まり、特に不調は感じません。お祖母様の話では、あれはローレに負けている状態だったそうで、あのままではいずれ私の意識というか魂は消えて、完全に乗っ取られてしまったそうです。


「危ない状況だったんじゃよ。いや、この先もあの三人次第なのじゃが……」


 お祖母様が教えてくれるまで、自分がそんな危険な状態だとは思いもしませんでした。精霊が視える親和性の高さもこの場合はマイナスなのだそうです。あのままでは二年かからずにローレに取り込まれてしまっていただろうと言われました。


「二年……」


 具体的な数字を聞いた時は背中がひやりとしましたが、幸い三人分の魔力量はウィル様のものよりも多いそうで、三人が元気なうちは大丈夫だそうです。

 だからこそ、三人の地下牢行きは避けたかったのですよね。地下牢に入れられた場合、何もしないせいで身体が弱ってしまって三年から五年で亡くなる場合が多いのだとか。

 こうなると三人を如何に健康な状態で長生きさせるかが課題です。問題は両親が高齢になった時でしょう。さすがに老化には勝てませんし、二人がいなくなればお姉様一人になってしまいます。レオから貰う考えは端からありませんし。


「両親が生きている間に、ローレが回復してくれればいいんだが……」


 ウィル様はエガードにどれくらいの時間が必要かを尋ねましたが、エガードもそこまではわからないそうです。ただ、エガードと違ってローレは直接呪いを受けていたこと、私の魔力量の少なさから、かなり時間がかかるだろうとのことでした。もしかすると私の寿命の方が先に尽きるかもとも。何百年も生きている彼らにとって人の寿命などあっという間で、エガードには十年単位では違いがわからないのだそうです。


「両親も四十を過ぎていますものね……」

「ああ、少なくとも十年は大丈夫だろうが……」


 貴族でも平均寿命は六十歳くらいだと言われているので、平民となればもっと短いでしょう。


「こうなると三人の健康管理にかかってくるな」

「ええ。でも、あまり優遇しては罰になりませんし……」

「そんなことよりもエルの方が大事だ。くそっ! どうするのが一番なんだ!?」


 ウィル様が悔しそうに両手をきつく握りしめてソファに苛立ちをぶつけました。そんな風に想って下さるのが嬉しいと思うのは不謹慎でしょうか。でも、そこまで強く案じて貰えることに身体の奥が熱くなるような幸福感が湧き上がってくるのです。そりゃあ……この先どうなってしまうのか不安はありますが、貴族ですら流行り病で若くして亡くなる方は少なくありません。女性なら出産で亡くなる場合もありますし。


「ウィル様、私なら大丈夫ですわ」

「エル?」

「少なくとも十年は大丈夫でしょう?」

「あ、ああ。だが、それは……」


 両親が生きている間は魔力量も十分な筈です。取り込まれる心配はないでしょう。それに……


「エガードも言っていましたわ。ローレが私の中にいるから、魂が取り込まれる可能性はあるけれど、簡単に死ぬことはないと。今私が死ねばローレも消えてしまうから、ローレは私を守ってくれると」

「あ、ああ……今暫くはそうかもしれないが……」


 そう、不思議なことにローレが消滅しないためには私の身体という器が必要なのだそうで、その器が壊れて、つまり怪我や病気で失われるとローレも消えてしまうのだとか。だからローレが私の中にいる間はローレの防衛本能が私を守ってくれるそうです。


「だが、防衛本能が働けばその分魔力を消費する。そうなれば……」

「それでも、まだ十年は大丈夫そうです。それにお祖母様も血族以外から魔力を受け渡しが出来ないか調べてくれています」

「あ、ああ。だが、血族だけでも最近わかったことだ」

「ええ。出来るとわかっただけでもすごい進歩ですわ。お祖母様ならきっといい方法を見つけて下さる筈です」


 ウィル様の気持ちを少しでも軽く出来るよう、そのお優しい心を傷つけないよう、私は大丈夫だとの思いを込めてウィル様を見上げるとにっこり笑みを浮かべました。確かに血族、それもかなり近い間柄でないと今は魔力の受け渡しは出来ませんが、それだって以前は不可能だと言われていたのです。探し求めればきっと道は見つかるはずです。


「エル……! 貴女は強い人だな」

「ウィル様?」


 突然ウィル様の匂いが濃くなったと思ったら、視界が急に暗くなりました。その腕の中に抱きしめられたと気付いた私の頭は、真っ白になってしまいました。






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