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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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主役でした

「おお、ウィル、よう来たな。夫人も息災で何よりだ」


 王族席に向かうと、陛下からすぐにお声がかかりました。陛下は謁見の時よりも荘厳な衣装をお召しになり、この極彩色の中でも落ち着いた威厳を放っていらっしゃいます。やはり前回は極めて私的なものだったようです。


「国王陛下におかれましては……」

「ああ、堅い挨拶はよい。今宵は聖域と神獣、そしてウィルの呪いが解けたことを祝う会、主役はヘルゲン夫妻じゃ」


 今日は定例の夜会かと思っていたのですが……その認識は陛下の挨拶で一変しました。私たちが主賓って……そりゃあ、エガードやローレがここに来るわけにはいきませんから仕方ありませんが。ウィル様、一言くらい教え……


「そして今回の立役者は聖域とウィルの呪いを解いたエルーシア夫人じゃ! エルーシア夫人よ、危険を顧みず自ら聖域に赴き呪いを解いた勇気と忠誠心に感謝する!」


(……は?)


 ウィル様への文句を頭の中で唱えていた私に、とんでもない言葉が投げかけられました。陛下が高らかに宣言すると会場内は暫く困惑に包まれましたが、それは私もです。困惑が次第に歓喜へと塗り替えられていきましたが……こ、こんな状況になるとは聞いていません、ウィル様!


「も、勿体ないお言葉にございます……」


 言いたいことは山ほどありますが、それよりも陛下です。慌ててカーテシーをしましたが、足が震えて今にも倒れ込みそうです。いっそ意識をなくした方が楽かもしれませんが、実家でメンタルも鍛えられた私にはそんな可憐な展開は無理というものです。


「エルーシア夫人、そしてヘルゲン公爵よ。今後も我が国を守る神獣と聖域の守りを頼む」

「はっ、身命を賭してお守り致しましょう」

「び、微力ながらお勤めさせて頂きます」


 まだ頭の中がまとまっていないので月並みな言葉しか返せませんでしたが、これでよかったのでしょうか……


「うむ、そなたらの忠義、大義である」


 陛下は鷹揚に頷かれると、再び会場内を見渡しました。


「さぁ、今宵は我が国にとって記念すべき夜じゃ!  皆も存分に楽しんでくれ!」


 陛下の威厳に満ちたお声が会場内に朗々と響き渡り、それを受けて貴族たちの間からは『国王陛下万歳!』『ヘルゲン公爵万歳!』と歓声が上がり、入場時に感じた熱気が一層濃くなりました。


 陛下のご挨拶が終わると、音楽が流れてダンスが始まりました。王太子殿下ご夫妻を先頭に、ホールの真ん中にはダンスをする方々が進み出ていきます。


「エル、私たちも行こう」

「……え?」


 そう言うとウィル様は私の手を取って輪の中へと入っていきますが……


(ほ、本当に踊るのですか!? 私、人前で踊るのは初めてなのですが……!)


 そんな私の手を取ったまま、ウィル様は流れるように歩を進めます。


「あの、ウィル様。私は場違いでは……」

「大丈夫だよ、今は王族と公爵家の番だからね」


 ウィル様が目元を緩ませて私を見下ろしました。機嫌が直られたようでそこだけはホッとしましたが、場違いでもないようですが、それだけでは足の震えが止まりそうにありません。


「大丈夫。屋敷で練習した通りにやればいい。後は私に任せて?」


 ちょっとだけ首をかしげ、私を見下ろしながらウィル様がそう言うと、若い女性のものらしい高い声があちこちから聞こえてきました。何でしょうか……


「エル、今は私だけ見て」

「……っ、は、はい」


 何事かと周りの様子を伺おうとしたら耳元でそう囁かれて、背中がゾクゾクしてきました。


(そ、そんな声は反則です……!)


 一気に顔が赤くなったように思いますが、ワタワタしている間にダンスが始まってしまいました。


(こ、こうなったらやるしかないのね!)


 もしかすると聖域に行く時よりも気合が必要だったかもしれません。とにかく練習の時のようにウィル様の足を踏むという愚行だけは避けなければ……そのことが気になって周りのことなど気にしている余裕はなく、必死でステップを踏んでいる間に苦行の時間は終わりました。あ、足を踏まずに最後まで終えた時に感じた達成感に私はまた一つ、ウィル様に近づけた気がしました。


「ウィルバート様、お久しぶりですわ。私とも踊って下さらない?」


 輪の中から出た私たちに若い女性が声をかけてきました。年は私よりも少し上でしょうか。銀の髪から王族かそれに近しい方であることが伺えます。


「ああ、アリッサ殿下、お久しぶりです。しかしながら今日は妻と初めての夜会、妻以外とは踊る気はないのでご容赦下さい」

(ええっ? ウ、ウィル様、王女殿下のお誘いを断って大丈夫なのですか!?)


 何と王女殿下だったとは……アリッサ王女殿下といえば私より2歳年上ですが、結婚を断って魔術の研究にのめり込んでいる異色の王女殿下と有名です。


「まぁ、ウィルバート様ったら意外にお心が狭いのね。でも、新婚じゃ仕方ありませんわね」


 意外にも王女殿下は白い頬に笑みを乗せてご機嫌のようです。断られても気になさらないなんて……


「ふふっ、改めてエルーシア夫人、初めまして。第一王女のアリッサですわ。ご結婚おめでとうございます」

「……お、お初にお目にかかります。エルーシアでございます。ご尊顔を拝しまして恐悦至極に存じます」

「ああ、そんなに畏まらないで。それにご心配なく。私はお二人を応援しているの」

「え?」


 応援していると言われて思わず見上げてしまいましたが、確かにアリッサ殿下からは値踏みするような感じはありません。聞けばお二人は気が合うらしく、また魔術の造詣も深いためにウィル様の呪いを解くために尽力して下さったそうです。


「ふふっ、私、今日は虫除けなの。ね、お兄様?」

「そういうことだ、エル」


 ウィル様が当然だと言わんばかりに言い切り、それを見た王女殿下が観察するようにウィル様をまじまじと見つめました。


「……あのお兄様が……ふふっ、人は変わるものなのですね。じゃダンスは次の機会を楽しみにしますわ」

「ああ、だが当分先だぞ」

「まぁ、重症だったのですね。エルーシア様、こんな方ですがどうかお見捨てにならないで下さいね」


 そう言うと王女殿下は軽やかな足取りで去っていきました。


(応援って……それに虫除けって……どういう意味?)


 ウィル様に尋ねましたが大したことじゃないと言われてしまいましたが、その理由はその直後に判明しました。






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