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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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王城へ

 船旅は順調に進んで、私たちは七日目には王都に到着しました。途中からザウサー川と合流したヘルゲン川は川幅が一層広くなって流れも緩やかになり、その違いもまた楽しくて川から見る景色にすっかり夢中になっていました。


「これがタウンハウス……」


 王都のヘルゲン公爵家のタウンハウスは、実家の倍はありそうな優美で上品なお屋敷でした。領地の堅城鉄壁で実用性重視の建物とは大違いです。


「お待ちしておりました、旦那様、奥方様!」


 領地と変わらない躾の行き届いた使用人たちの姿にもビックリです。ここにいる方々は私の悪い噂もご存じでしょうに……


「エルの噂が虚偽だったことはみんなわかっているからね。しかもエルは私と聖域の呪いを解いてくれたんだ。我が家の恩人だよ」


 大袈裟ではないかと思いましたが、ウィル様の言う通り皆さん親切な上に、「旦那様を助けて下さってありがとうございます!」と皆さんからお礼を言われてしまいました。こうしてお役に立てたと実感出来るのは嬉しいですね。

 案内された公爵夫人の部屋はとっても明るくて素敵で、公爵家の財力とセンスの良さを改めて実感しました。


 到着した翌日には仕立て屋と宝石商がやってきて、採寸をされた上にドレスのデザインを幾つか選ばせられて、それに合う宝石をウィル様が次々と選んでいきました。


「奥方様は艶のあるハニーゴールドですから、華やぎのある色がお似合いですわ」

「あら、肌は白いし瞳は落ち着いたグレーですから、シックな色合いも捨て難いですわよ」


 デザイナーたちが次々と色とりどりの生地を当てていきますが、私は目を白黒させるばかりです。気分はすっかり着せ替え人形です。


「ウ、ウィル様、さすがにこんなには……」

「何を言っているんだい? これくらい公爵夫人なら当然だよ」

「で、ですが……」

「ああ、この貴紫晶もいいな。私の瞳の色を是非エルに身に着けて貰いたいからね」

「えええっ?」


 次から次へと商品を見てはお買い上げしていくウィル様に、私は気が遠くなりそうでした。これ、一つでも一体おいくらするのでしょうか……今まで宝石もドレスも買って貰ったことがないので見当が付きません。ウィル様の思い切りの良さに胃が痛くなってきたのですが……

 それでも、私が何を言っても「エルは謙虚だなぁ」とデザイナーたちと微笑ましい視線を向けられて、私の意見は華麗に流されてしまいました。





 王都に到着して三日後には、私は王城にいました。展開が早過ぎて心の準備が追いつきません。しかも行き先は国王陛下の私室だというのですから驚きです。今日は私的な面会、ということでいいのでしょうか。それでも……


(どうしましょう……マナーが間に合うかしら……)


 王都に行くと聞いてからはマナーの復習に励みましたが、実践は初めても同然です。しかも慣れないドレスと高いヒールの靴が私の不安を一層掻き立てます。今日は落ち着いた若草色のドレスにしました。ウィル様も侍女たちももっと華やかな色がいいと勧められましたが、初めての登城で目立ちたくないと主張して、何とかわかって頂きました。それでもしっかり着飾られて、先ほどから心臓がドキドキして今にも止まりそうです。


「ウィルよ、よく来たな」

「はっ。国王陛下には長らくご挨拶にも伺わず、不義理をお詫び申し上げ……」

「ああ、よい。今日は甥を呼んだのだ。その様な堅苦しい挨拶はいらぬ」

「ありがとうございます」


 どうやら今日は私的なもので、身内としてウィル様の呪いが解けたことをお確かめになりたかったようです。

 初めてご尊顔を拝する陛下は私の父と同じか少し上くらいのお年で、ウィル様と同じ銀の髪と薄紫の瞳をお持ちででした。ウィル様と面差しが似ていますが、陛下の方がずっと眼光が強く、顔立ちも威厳に満ちて直視するのは憚られる雰囲気を纏っていらっしゃいました。


「そなたがエルーシア嬢か」

「は、はい」


 至尊のお方から突然名を呼ばれて、心臓が飛び出しそうになりました。


「ああ、そう固くならなくてよい。ウィルの呪いを解いてくれたそうじゃな」

「い、いえ、呪いを解いたのはトーマス=ピットナー様です。私はそのお手伝いをしただけでございます」


 声がちゃんと出ているでしょうか。緊張し過ぎて掠れている様にも感じます。


「そう謙遜することもなかろう。ビットナーからはそなたが殆どの呪いを解いたと報告が上がっておる。自分がやったことだ。もっと自信を持つがいい」

「あ、有難き幸せにございます」


 い、言い方はこれで合っているのでしょうか? それにしてもトーマス様がそんな風に仰って下さっていたなんて……しかも陛下も認めて下さったとはなんて恐れ多いことでしょう。


「いい伴侶を得たな、ウィルよ」

「はい。陛下には感謝していますよ。陛下の鑑識眼には畏れ入ります」

「大いに感謝せよ、と言いたいところじゃがな。実はエルーシア嬢を推薦したのはエンゲルス翁じゃ」

「エンゲルス先生が?」


 まさかここで先生のお名前を聞くとは思いませんでした。先生が私を……でも、王命ではリルケ家の娘で、私との指定はありませんでしたが……


「エンゲルス翁から、解呪に優れた令嬢がいると聞いてな。だったらと思ったんじゃが、令嬢には中々面倒な事情があるというし」

「そうですね。エルーシアは家族に疎まれていましたから」

「うむ。それにリルケ伯爵のことじゃ。最初から妹を送れと言えば難癖をつける可能性もある。だから選ばせたのじゃ。あの伯爵が姉を手放すとは思えなかったからな」

「成程。確かにその通りになりましたね」


 そう言うとウィル様は一通の手紙を陛下に差し出されました。あの手紙の蝋印、もしかして……


「これは、リルケ伯爵の?」

「はい。呪いが解けたと聞いたのでしょう。早速花嫁の交換を提案してきました」

(ええええっ!?)


 驚き過ぎて声も出ませんでしたが……お父様、いつの間にそんな手紙を送って来ていたのですか……既に婚姻は成立しているのに、何てことを……


「……これはまた、随分と……あの者は王命を何と心得ておるのか……」


 陛下も深くため息をつかれてしまい、私は恥ずかしさと情けなさで居た堪れない気持ちになりました。それにしても……


(こうなると、お姉様が何を言ってくるか、わからないわね……)


 ヘルゲンでは無縁だった家族の蛮行を思い出して、私の胃は一層キリキリとその存在を主張してきたのでした。







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