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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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解呪完了

 翌日、お屋敷の中は大きな歓喜に包まれていました。ウィル様の呪いが解けたのです。


「旦那様、ようやくこの日が……」

「お、おめでとうございます! ああ、亡き旦那様もきっとお喜びでしょう……」


 いつも毅然とした態度がトレードマークのライナーもデリカも、先ほどから涙が止まりません。その後ろでも何人もの使用人がハンカチを手にしています。先代公爵様もウィル様のことを大層案じながら亡くなられたとか。あれから五年、一度も今のお姿を取り戻すことは出来なかったそうですが……


(これが、ウィル様の、本来のお姿……)


 呪いが全て解けたウィル様は、想像以上に麗しいお方でした。月の光をまぶした様な銀の髪に、瞳は王家の方と同じ薄紫色です。すっと通った鼻筋に薄めの唇、肌はきめ細やかで肌艶もよく、目元は涼やかで怜悧さが際立っています。一方でがっしりした体格は騎士らしく、それでいて気品があって王族の血を感じます。今までに見た誰よりも美しいという形容詞が似合います。


(……こんなに麗しい方だったなんて……)


 女性の私から見ても羨ましいほどの美形で、その隣にいるのが私というのが申し訳ないほどです。お姉様と並ぶと見劣りがすると散々言われましたが……これはその比ではないでしょう。


(この先、何を言われるのか、先が思いやられるわ……)


 私も呪いが解けて前向きになったと思いますが、それでもウィル様の隣に立つのを想像すると気が重いです。王都になど行ったら、何を言われるかわかったものではありません。    

何よりも問題はお姉様でしょう。きっとこのお姿を見たら交代しろと言い出し兼ねません。いえ、絶対に言うでしょう。


「ありがとう、トーマス、エルーシアも」


 ウィル様も呪いが消えて晴れやかな表情を浮かべました。麗しさが更に割増されて恐れ多いほどです。

エガードのお陰で呪いは苦ではないと仰っていましたが、絶対に呪いによる影響はあったでしょう。その解呪のお手伝いが出来て私の方こそとても晴れやかな気分になりました。


「ああ、お礼は夫人に言ってね。殆どの解呪をしたのは彼女なんだから」

「いえ、そんなことは……」

「いいや、あれはエルーシアのお陰じゃ。小童がいなくともエルーシアだけで解呪出来た筈じゃからな」


 すかさず突っ込んだのはエガードでした。どうにもエガードはトーマス様に辛口です。トーマス様も苦々しくエガードを見ていますが、相手が神獣だからでしょうか何も言い返しませんでした。

 でも、解呪出来たのはトーマス様のお陰です。最後に解いた呪いは初めて見るものでしたから、きっと私一人では解けなかったでしょう。


「今回の解呪も記録にしておくといいだろうね」

「はい、そのつもりです。今までの分も全部記録してありますから」


 トーマス様が解呪された分は私が記録に残していました。こうすればきっと後で役に立つでしょう。私が先生の記録を見て解呪出来たように。


 その日屋敷内はお祭り騒ぎでした。トーマス様が明日王都に戻られるのもあって、屋敷をあげての無礼講の祝宴となったのです。お陰でお屋敷の中は慌ただしい空気に包まれましたが、みんなの表情が明るいのが今までとは全く違います。街でもお酒とパンが配られて、ウィル様の解呪を祝ったそうです。




 翌朝早く、トーマス様は王都に向かって発たれました。せっかく親しくなりましたのにもうお別れだなんて寂しいです。時間があれば解呪についてもっとお聞きしたかったのですが……


「夫人、お願いがあるのですが……」

「何でしょうか?」

「夫人がエンゲルス先生から頂いた記録ですが、もしよかったらあれの写しを頂けませんか?」

「先生の記録を? でしたら……」

「ああ、写しで結構です。原本は先生があなたに託されたものですからね。急ぎませんので、時間がある時にでも書き写して私宛に送ってください。そのかわり私のものをお贈りしましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ。もちろん」

「ありがとうございます」


 先生の記録は解呪師であるトーマス様も望まれるほどのものだったのですね。しかもトーマス様の記録も頂けるなんて有難いです。こうして記録しておけばきっといつか役に立つでしょう。


「あとウィル。解呪出来たから近々陛下から呼び出しがあるだろう?」


 そう言えば今までは呪われていたから王都に行かなかったと聞いています。あんな姿を見せると怯えさせてしまうからと。でも、解呪されたとなればそうなりますよね。


「ああ、多分な。伯父上は心配性だから」

「だろうな。だが気を付けろよ。特に夫人を連れて行くなら」


 いきなり私の名が出て驚きました。そ、そう言えばウィル様が王都に行くなら私も行かなきゃいけませんよね、一応公爵夫人ですし……


「こう言っちゃなんだか、娘が呪われても放置していた親と姉だ。何を言い出すかわからんぞ」

「やはりそうなるか……」

「ああ。特に姉は危険だ。確証はないが実の妹に呪いをかけたのは姉だろう。お前のその姿を見てすり寄ってくる可能性は高い」

「馬鹿馬鹿しい。既に婚姻は成立しているんだ。今更……」

「それが可能だと向こうが思っているのが問題なんだ。従属していると思い込んでいるなら、夫人が頷けばどうにでもなると考えてもおかしくはない」

「確かに、そうかもしれないな」


 ああ、確かにお姉様ならそんなことを言い出しそうですわね。私のことは間違って送り出した、とかなんとか言って。そもそも私を送り出したのもお姉様が嫌だと言ったからですから。陛下の書面ではお姉様とも私とも指定はなかったので、適当な言い訳を並べて入れ替わるよう提案しそうです。というかするでしょう。


「王都に来る時は十分に気を付けろよ」


 トーマスは重ねてそう言うと、王都での再会を約束して旅立ちました。





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