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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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庭での拾い物

 呪いの解呪は例えるなら、しとしとと続く冷たく重い冬の雨の中から抜け出して、晴れた空の下にいるような感じでしょうか。胸に痞えていた重苦しい塊が消えて、息が凄く楽になった気がします。こんな風に清々しく晴れやかな気分になったのは生まれて初めてかもしれません。今なら何でも出来そうな気すらします。


 トーマス様は今日から三日間、お屋敷に滞在してウィル様の解呪を進めるそうです。私も今後の参考までに同席させて頂くことになりました。さすがは王宮解呪師、滑らかに呪いを次々と消していきます。しかも今後のためにと、モノによっては解呪の仕方やコツを教えて下さるのですよね。


「この先あなたが解呪してくれたらウィルも私も楽ですからね」


 トーマス様はそう言って笑いましたが、確かに私が出来るようになれば王都からわざわざ来て頂く手間が減ります。王都からだと一月仕事だそうです。その殆どが移動のため費やされてしまうので、確かに無駄が多いですね。




 トーマス様もずっと解呪をしているわけでもありません。さすがに休憩は必要ですし、ウィル様も執務があります。私もずっと張り付いているわけにもいかないので庭に出てみることにしました。天気がよくて気持ちよさそうに見えたからです。


「奥方様が庭に出ると仰るなんて、初めてですね」

「え? そうだったかしら?」

「そうですよ。今までは私たちがお勧めしてからでしたから」


 そうだったでしょうか。でも、以前は庭に出て人に会うのが不安で出たいとは思わなかったのですよね。出た時もマーゴやデリカが勧めてくれるから、あまり断ってばかりも……と思ってのことでしたし。そういうところが呪いの影響だったのでしょうか。


(それにしても、素敵なお庭ね)


 マーゴに案内されて庭に作られた小道を進みます。王都では整然とした庭園が普通ですが、ここは森の中にいるような自然な感じが心地いいです。そのせいでしょうか、精霊の姿もちらほら見えます。精霊は姿も大きさも様々ですが、今日はいつもよりも多く、一層鮮明に見える気がします。


(あら、あれは……)


 庭の奥の方に精霊が集まっているのを見つけました。ふわふわと飛んでいますが、とある場所から動こうとしません。なんだか呼ばれているような気がします。


「奥方様?」

「ちょっと待ってくれる? 気になることがあるの」


 私がそう言うと、マーゴもそれ以上は何も言いませんでした。今までも私がそう言う時は呪いを見つけた時なので、今回もそうだと思ったのでしょう。でも今は……


(えええっ!? こ、これって……)


 向かった先にいたのは……倒れている白銀の毛並みを持つ、子犬、でした。横になって目を閉じているので眠っているか意識を失っているのでしょう。その上を精霊が守る様に飛んでいるのです。そっと近づくと精霊が私に気付きましたが、攻撃してくる様子はありません。


「まぁ、犬が! どこから入り込んだのかしら?」


 後ろを付いてきたマーゴが声を上げました。どうやらこの子犬はマーゴにも見えているようです。だとしたら精霊などではなく普通の犬でしょうか。


「奥方様、触らないで下さいね。今使用人を呼びますから」

「大丈夫よ、マーゴ。この子、ただの子犬じゃない気がするわ」

「は? それは……」

「後で詳しく説明するわ」


 そう言うと私はそっと子犬に触れました。温かいし息もしているので生きていますわ。毛並みが凄く柔らかくてふわふわです。思わず毛並みの滑らかさを堪能していたら、子犬が目を覚ましてしまいました。お昼寝をしていたのなら申し訳ないですわね。でも……


「きゃ!」

「奥方様!?」


 子犬は伏せの体勢になったと思ったら、あっという間に私に飛びついてしまいました。咄嗟に抱きしめてしまいましたが……


(か、可愛い……)


 ふわふわで温かくて小っちゃくて、瞳は珍しい金色です。しかも……


「奥方様、それ、神獣かも……」

「神獣?」

「え、ええ。だって、額に角が……」


 戸惑いながらも子犬を指さすマーゴに促されてまじまじと見つめると、確かに額の部分にぷつんとちっちゃな突起のようなものが見えます。これが角?


(それに神獣って……)


 神獣とは伝説上の生き物で、精霊が長い年月でそうなったとか、魔獣が長い時を生きた結果だと言われていますが、実のところはわかりません。それに神獣がいるのは清廉とした森や山の中で、こんな街の中にいるなどあり得ません。正直信じがたいのですが、精霊があんなにも側にいただけにそうかもしれないとも思ってしまうのですよね。


「奥方様、直ぐに旦那様に知らせましょう!」




 マーゴに言われるまま、私は子犬を抱いてウィル様の元に向かいました。子犬は私の腕の中から逃げることもせず、ご機嫌のようでしきりに身体をこすり付けて来て、ちっちゃな尻尾がゆらゆらと揺れている様も可愛らしいです。


「神獣だって!?」


 ウィル様はトーマス様と執務室にいらっしゃいました。お話の途中だったようですが、マーゴから話を聞いたトーマス様が慌てて立ち上がりましたが、慌て過ぎたせいかカップをひっくり返してしまいました。慌ててライナーが駆け寄りますが、トーマス様はそれどころじゃないようで目を見開いて子犬を凝視しました。


「な! エガード!? どうしてそこに!?」


 それ以上に驚きの声を上げたのは、ウィル様でした。トーマス様に負けないくらいに目を瞠っています。ウィル様、今、エガードって呼びましたよね? もしかしてお知り合いでしょうか?






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