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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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認めない宣言

 イデリーナさんという方にウィル様の妻とは認めないと宣言をされてしまった私は、その後迎えに来てくれたマーゴに彼女のことを尋ねました。


「イデリーナですか? ああ、彼女は当家の騎士団に所属する治癒師です」


 マーゴの話ではイデリーナさんは古くからヘルゲン公爵家に仕える一族の出で、私の二つ上の二十歳だそうです。


「旦那様が呪いを受けたのは十年前ですが、それを知った彼女は王都の学園の魔術科に進んで解呪師を目指したのです」

「まぁ、王都の学園に」


 この国では伯爵家以上の上位貴族は王都の学園に通いますが、下位貴族は領地内の学園に通うのが一般的です。騎士になりたいなどの目標があるとか、際立った才能がある者が王都に進学することはありますが、かなり少数派です。


「はい。でも解呪師になれるほど魔力が見えなかったらしくて……それで治癒師に転向したそうです」

「そうだったのね」


 治癒師は魔術師の中の一つですが、治癒に特化しているので魔力が見えなくてもあまり困らないと聞きます。一方の解呪師は魔力が少なくてもなれますが、見えないことには話にならないのです。解呪師を目指していたというのならウィル様を慕っていたのでしょうか……先ほどの態度も挑戦的でしたし。それに二歳上で魔術科にいたのならお姉様と実習などで一緒になったかもしれません。


(そうなると、お姉様が流した噂を信じているのかも……)


 お姉様の噂がここまで届いていたなんて……ウィル様は信じないと言って下さいましたが、事情を知らない方は噂の方を信じてしまうかもしれません……


(せっかく新天地で人生をやり直せるかと思ったのに……)


 深いため息が出てしまいました。ウィル様の足を引っ張ることにならなければいいのですが……リリアーヌたちが帰ったことで安心していましたが、世間は広いようで狭かったのだと実感せずにはいられませんでした。




 それからと言うもの、ウィル様の執務室や書庫に行くとイデリーナさんと鉢合わせることが増えました。


「今度ウィル様と視察に行くのよ」

「討伐に出る時は必ず同じ班なの」

「頼りになるって毎回褒めて下さるの」

「魔獣に襲われそうになってもいつも守って下さるのよ」


 口の端を上げてすれ違いざまにこんなことを言われるので、地味に傷つきます。ただ言いたいだけなのでしょうが、こんなことをして何になるのでしょう。私たちの結婚は王命なので、認めないと言うことは王命に異を唱えると同義語なのですが……

 それに、ウィル様を愛称で呼ぶのも気になります。愛称呼びは家族か婚約者だけに許される特権ですが、それを許されていると言うことはかなり親しいのでしょうか。分家なら家族ぐるみのお付き合いがあるのかもしれません。であれば、私が口出すことではないのですが……




 そんな日が何日か続いた後、私はお屋敷内の解呪のためにマーゴと一緒に庭に出ました。お屋敷の壁に呪いが残っていたからです。


「奥方様、ここに呪いが?」

「ええ。かなり薄くなっているけれどね」


 ここは私たちが暮らす本館ではなく、使用人たちが暮らす別館の壁です。小さく弱いものなので影響はないと思いますが、見つけてしまった以上放っておくわけにもいきません。


「少し離れていてね。何もないとは思うけれど」

「畏まりましたわ」


 マーゴに離れるように言って、私は壁に向き合いました。魔力を流して解呪の魔術を練り上げます。呪いの大きさや強さに合わせて、過不足なく消し去るためです。その時でした。


「きゃぁ!?」


 突然上の方から何かが降って来て、私はずぶ濡れになってしまいました。突然すぎて何が起きたのかわかりません。


「奥方様っ!?」


 離れていた場で見ていたマーゴが飛び出してきました。上の方でぱたぱたと走り去る足音が聞こえました。誰かが窓から水を捨てて、それを被ってしまったようです。


「全く誰がこんなことを! ああ、その前に早くお部屋に戻りましょう。着替えませんと」


 呪いなんか後でいいですと言うマーゴに引っ張られて、私は本館に戻りました。


「まぁあ! どうなさったのです!?」


 本館に戻ると今度はデリカたちが私を見てぎょっとし、次の瞬間には手にしていた仕事を放り出して駆けつけてくれました。雨が降っていないのにずぶ濡れで現れたら何事かと思うでしょうね。私は侍女が持ってきた毛布にくるまれて部屋に向かいました。ああ、廊下を濡らしてしまいましたわね。余計な仕事を増やしてしまって申し訳ないです。

 部屋に着くと「しっかり浸かって下さいね!」と言われてお風呂に放り込まれました。ああ、冷えた体に熱いお湯が痛いくらいです。思った以上に身体が冷えてしまったようです。


 お風呂から上がると、直ぐにマーゴが髪を拭いてくれました。ここで暮らすようになって一月近く経って、ぱさぱさだった私の髪も人並みに綺麗になってきました。さすがは公爵家です。


「奥方様、申し訳ございませんでした」


 そういってデリカが頭を下げましたが、彼女のせいではありません。


「デリカのせいじゃないわ。誰がやったのかもわからないし」

「いいえ、あそこは使用人の棟です。やったのは使用人の誰かでしょう」


 デリカは使用人を取りまとめる立場なので、彼女の監督不足と言えばそうかもしれません。でも……


「わざとじゃなかったのかもしれないし。怪我もしなかったから大丈夫よ」


 そうです、もしかしたらたまたまタイミングが悪かったからかもしれません。確かに上の階から水を捨てるのは行儀のいいことではありませんが。


「二度とこんなことが起きないよう、厳重に注意しておきます」

「ありがとうございます。私も気を付けるわね」


 証拠がない以上、どうしようもありません。まさかあのイデリーナさんがやったわけではないでしょうし。ただ、お姉様の噂を信じた人がいるかもしれないのが気がかりですが。






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