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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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お茶の時間と解呪

 その日から私は、ウィル様の手が空いている時間に解呪をするようになりました。とにかく数が多いので簡単そうなものから一つ一つ解除するしかありません。それでもウィル様はずっとお仕事をしているので、解呪の時間が殆ど取れないまま日が過ぎました。


「でしたら、午前と午後に休憩を取りましょう。その時に解呪をなさっては?」

「おい、ライナー」

「あら、それはいいアイデアですわ。旦那様は放っておくとず~っと仕事をしていらっしゃいますから」

「デリカ?」


 ライナーの案にデリカが同意して決定事項になってしまいました。ウィル様は仕事を始めると食事の時間以外はずっと没頭されてしまうし、食事すらも後回しなのだとか。前々から周りの方は心配されていたようです。


「それに、奥方様との交流の時間も取れて、一石二鳥です」

「え?」

「左様ですな。せっかくお迎えしましたのに、食事も別々はいかがかと思いますから」

「おい、ライナー、それは……」

「わかっておりますよ。旦那様の今のお姿では難しいことは」

「そうですね。でも坊ちゃま! 縁あって夫婦になられたのです。せめてお茶くらいはご一緒なさいませ」


 デリカに念を押されてしまい、また坊ちゃま扱いされたことで虚を突かれたウィル様は強く反論出来ず、それでは早速、とお茶が用意されてしまいました。


「すまない、エルーシア」

「いえ。お忙しいのに申し訳ございません」

「いや、あなたが謝ることではない。だが……そうだな、こんな時間に頼まれてくれると助かる」

「勿論です」


 休憩のわずかな時間ですが、全くないよりは全然マシです。これで少しは恩返しが進みそうです。


「……本当に少しずつなのだな」


 ウィル様の左手を預かり解呪する私を眺めながら、ウィル様が呟きました。ウィル様は魔力が視えるので解呪した時に一瞬だけ上がる光が見えるのでしょう。


「そうですね。魔獣の呪いは解呪も簡単ですし、軽微なものは殆ど魔力も使いません。ただ……」

「ただ?」

「時間と根気が必要ですね」

「なるほど」


 こうして一日に二度、お茶の時間を使っての解呪が始まりました。軽い呪いばかりなので、慣れると一度の休憩で二~五個の解呪は出来るようになりました。数にすると少ないですが、失敗すればウィル様に悪影響を及ぼすので慎重にならざるを得ないのです。





 しかし、解呪の時間は僅かなもので、それ以外の時間を私は大いに持て余していました。実家にいた頃は自分のことは自分でしなければなりませんでしたし、勉強に大きく時間を費やしていました。何かしていなければ怠け癖が付いてしまいますわね……


「ねぇ、マーゴ。このお屋敷には書庫はないのかしら?」

「書庫、ですか?」

「ええ。この通りウィル様の解呪くらいしか今はやることがないでしょう? 時間を持て余しちゃって。だったらこの公爵領に関する勉強でもと思ったのだけど……」

「でしたら、旦那様の執務室と同じ階に書庫がございます」

「そこは……勝手に入ってもいいのかしら?」

「一度お伺いしてみますね」


 そう言ってマーゴが出ていきましたが、程なくして許可を頂いて戻ってきました。お許しが得られたのであれば是非利用させて頂きましょう。私は直ぐに書庫に向かいました。


「まぁ、かなりの蔵書をお持ちなのね」


 我が家にも書庫はありましたが量は比べ物になりません。さすがは公爵家です。本は貴重なので本の数はその家の経済力を表すとも言いますが……これは素晴らしいです。


(出来れば公爵領や呪いに関する本が読みたいのだけど……)


 名前だけとはいえ公爵夫人になったのですから、この地のことは知っておく必要があるでしょう。もしくは呪いに関する本ですわね。実家や学園にある本は読み尽くしてしまったので、新しい本に出会えるといいのですが……


 程なくして公爵領に関する本を見つけたので、それから読むことにしました。どうやら公爵領の歴史と歴代当主に関する記述のようです。書庫にある机を陣取ると、マーゴには下がってくれていいとお願いして、少しかび臭くなったページを捲りました。





「あなたがリルケ家から来たウィル様の婚約者?」


 すっかり本に没頭した中、名を呼ばれて顔を上げると気が付けば室内がオレンジ色に染まっていました。声の主を求めて視線を彷徨わせると、少し離れた場所に私よりも少し年上の女性が立ってこちらをじっと見ていました。高いところで一つに結ばれた髪は夕日を受けてより赤く映え、彫りの深い顔に影を落としています。知的美人さんと言う感じでしょうか。侍女服ではなく魔術科の先生方が着ていたようなローブをお召しなので、公爵家専属の魔術師なのかもしれません。オレンジ色の光を受けても青緑色の瞳はそのままで、真っ直ぐにこちらを見ています。いえ、どちらかというと睨まれている方が近いでしょうか。


「……どちら様でしょう?」


 名を知りたければ自分から名乗るのがマナーと言うものですし、私がウィル様の婚約者だとご存じなら立場的には私の下の可能性が高いです。それでもそのような物言いをされると言うことは、ウィル様の身内の方でしょうか。


「私はイデリーナ。ヘルゲン公爵家の分家ベックマン子爵家の者よ。魔術師としてウィル様にお仕えしているわ」

「そうでしたか。リルケ伯爵家のエルーシアですわ。どうぞよろしくお願いしますね」


 そう言って立ち上がって一礼しましたが、相手からの礼はありませんでした。う~ん、これは……


「これだけははっきり言っておくわ。私はあなたなんか認めない! ウィル様に相応しいのはもっと高貴で優秀な方よ!」


 そう言うとイデリーナさんはさっさと行ってしまいました。


(えっと、今のは宣戦布告……ではないですよね?)


 彼女自身が相応しいとかではなく、もっと爵位が上のご令嬢でないと認めない。そう言うことで合っているでしょうか……






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