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呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私  作者: 灰銀猫


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解呪のお許しを頂きました

 それからは話があっという間に進みました。私は公爵様の妻という仕事を頂き、月々の手当てという名のお給金も頂けるようになったのです。衣食住は十分に保証して下さっているだけに心苦しくすらあります。実家では自由になるお金など殆どなかったので戸惑いしかありません。

 妻としてのお役目は本当に名前だけで、公爵夫人としての仕事も社交も子作りも免除。部屋は私が嫌でなければ今使っている客間でも、何なら公爵夫人の部屋でもいいと言われましたが、お飾りの妻ですし、今の部屋でも十分すぎるほどに快適なのでこのまま使わせて頂くことにしました。


 しかし……いくらお飾りで公爵夫人の仕事を免除されたと言っても、何もせずにお給金を頂くのには抵抗があります。


「あの、公爵様……」

「何だ? 他にも希望があるなら遠慮なく言ってほしい」

「あ、ありがとうございます。希望と言いますか、さすがに何もしないで過ごすのは……」

「そうか? 私としては名を借りているだけでも十分だが?」

「そ、そうは仰いますが、さすがに無為に過ごすのは心苦しいと申しますか……」


 そうです。いくらお飾りとはいえ、何もせずに過ごすのはかえって落ち着きません。


「なるほど。確かに何もすることがないのはかえって苦痛かもしれんな。私も同じことを言われたら困る」


 有難いことに、公爵様は理解のある方のようです。


「はい、それで……もしお許しを頂けるのなら、このお屋敷内の解呪をさせていただけないかと……」

「屋敷の解呪?」

「はい。お屋敷のあちこちに呪いを感じます。一つ一つは微々たるものでも、数が多ければ公爵様に干渉する可能性もあります。基本的に呪いは放っておけば風化しますが、数が集まるとより大きく強くなる可能性も否めませんから」

「なるほど。だったら私の呪いを解いてくれないか? その方が話は早いだろう?」

「そう思っておりましたが……エンゲルス先生が出来ないことを私が成し遂げられるとは思えません」


 そうなのです。先生が出来なかったことを私が出来るなんてとんでもないことです。知識はあっても実践はなく、その資格も持っていないのですから。


「確かに先生は国一番の解呪師だが……」

「確かに私でも公爵様の微弱な呪いは解けるかもしれません。でも、いきなり実践は無理です」

「ふむ、まずは屋敷の呪いで経験を積んで、といったところか?」

「はい。人と物に対する呪いは解除の労力と危険性が全く違います。さすがに公爵様を危険にさらすのは……」


 それこそ失敗したら目も当てられません。そりゃあしっぺ返しとして私に返って来る分には自業自得と諦めもつきましょうが、公爵様に何かあったらそれこそ大問題です。


「……わかった。解呪のことは私にはわからんからリルケ嬢に任せよう。領内であれば好きにしてくれていい」

「あ、ありがとうございます」


 これで少しはお役に立てそうです。物に残っている呪いなら難しくはありません。これは先生から何度も教えて頂きましたし、少しは実践経験もありますから。


「ああ、それから……」

「はい?」

「その……私たちは形だけとはいえ夫婦になる」

「あ、そうですね」

「だから、せめて呼び方だけでも変えないか? さすがにリルケ嬢と呼ぶのは他人行儀過ぎるだろう。私も家の中でまで公爵と呼ばれるのはさすがに気が滅入る」

「そうですね。でしたら……旦那様? それともご主人様がいいでしょうか?」


 私がどちらかを選んでいただこうと思ってそう提案しましたが、直ぐには返事はありませんでした。


「?」

「いや、そう、だな。私のことはウィルバート、いや、ウィルと呼んでくれ」

「ウィル様、ですか?」

「様は要らないのだが……」

「いえ、さすがに愛称呼びはハードルが……」

「わかった。ではそれでいい。私もエルーシアと呼ばせて貰っても?」

「はい。お好きなように呼んで頂いて構いません」

「ああ。ではエルーシア、これからよろしく頼む」

「はい、ウィル様。こちらこそどうぞよろしくお願い致します」


 こうして私たちはお飾りとはいえ夫婦となり、私は衣食住を確保しました。しかも解呪もお許し頂いたのです。




 翌日にはライナーが結婚に関する契約書を持ってきました。私がお願いした条件は全て通り、しかもお給金の額を見てビックリしてしまいました。私の想定している何倍もの額がそこに記されていたからです。


「ラ、ライナー……この額は……」

「奥方様へのお手当にございます。不正防止のため、管理は私とデリカ、公爵家の管財人で行いますのでご安心ください。ああでも、奥様ご自身でも定期的に確認はお願い致します」

「い、いえ、そう言うことではなく……」


 公爵家の方々が不正をするとは思えないので、そこは気にしていません。気になるのは金額で、さすがに額が多すぎです。この半分、いいえ、十分の一でも十分です。


「それに、このお金の原資は領民からの税金ですよね?」

「ああ、そこはご心配なく。このお金は王家からの支度金が原資です」

「支度金?」


 聞けば公爵家にも王家から結婚のための支度金が払われていたそうです。てっきり我が家にだけかと思っていましたが、そうではなかったのですね。ライナーが言うには、いずれ行うだろう結婚式のための資金として賜ったそうですが、結婚式の予定は今のところないため、公爵様はそれを投資に回し、その利益から私の毎月のお給金を払って下さるそうです。公爵様は学園に通っている頃から投資の勉強をなさっていて、卒業までにそれなりの資産をお持ちになったのだとか。


(凄いわ、学生のうちから投資で成功なさっていたなんて……)


 私には投資のとの字も理解出来ません。もしかして公爵領が想像以上に活気があったのも、公爵様の投資のお陰でしょうか。


(なんだか、呪いがなければ物凄く素晴らしい方なんじゃ……)


 世間の評判など全く当てにならないと、私は我が身も振り返ってそう思いました。




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