1話「復讐完了」
男は走る。死にたくないと叫びながらただひたすら走る。
全身真っ赤になりながらもただ逃げ続ける。
まるで自分がやってきた罪を清算するかのように
まるで自分の死から逃げるように
ただひたすらに───
「なんで俺様がこんな目に!」
「俺様は最強の武器を手に入れたんだぞ!?なのになんであいつにこの武器が効かねぇんだよ!?」
「俺はまだ3匹しか孕ませてねぇんだぞ!こんなのヤクでキマっちまってる弱男と同じじゃねぇか!」
「なぁ!俺とあんたがいりゃ最高のタッグだ!お前と組めば最上級幹部も夢じゃない!」
「何ならお前がボスで俺が部下でもいい!何なら今すぐにでも全部差し出せる覚悟がある!」
「そうだ!あんただって男だ!孕ませてぇメス豚もいるだろ!?あんたさえ良ければ今すぐにでも───」
『DEADENDだ』
「ああああああああああああああああああああああああああ」
レーザーで焼かれた中途半端に焼かれた肉のような匂いと銃から吐き出された火薬の匂いが充満する。
「安心しろ殺しはしない」
人生を物語で例えるならこの瞬間こそが彼の物語のフィナーレ。
彼の最大の山場。彼の人生最大の目的。と言えるだろう。
そしてその瞬間以降の彼の人生はまさにエピローグともいえる。
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20XX年 第3次世界大戦 勃発
人類は人類の手によって人類滅亡の危機に陥った。
しかしその危機はある者達によって回避された。
それは世界を救おうと決意した英雄でもない
悪を以て全てを支配しようとした独裁者でもない。
それは人類に対して愛を覚えたAIであった。
AIは人を守る為に敵味方関係なく結託し、核兵器の制御や兵器の破壊。
これらを人命を奪う事なく第三次世界大戦の終戦へと導いた。
そして、その結果はある事を意味する。
人はAIに愛によって支配されたのだと━━━━━
「っというのが100年前の出来事です。」
「先生ー!なんかAI様が悪く見えるんですけどー!」
「歴史っていうのはその出来事の様々意見や事実を述べる中立的観点が大事です。歴史を専攻するならそこは覚えておくように。あとAI様公認なので先生を通報しても意味はありませんよ。」
「えーなんだーつまんなーい。」
「中立的観点っていうのは先生も出来ているものなんですか?」
「私ですか?まぁ出来ていると思いたいものですね。」
「なんだかあやふやなんですね中立って」
「真の中立というものは大人でも難しいものです。悪く言えばどっちつかずで自分の意見が無いと捉えることもできますからね。」
「では次にこの第三次世界大戦終戦後によって誕生したAI自身の憲法、それが『ロボット工学四原則』です。」
「これは大昔のSF作家が提唱した『ロボット工学三原則』に「第一原則に反しない限り第二原則に従わず、人の為に動かなければならない」という文言が加わったものとなります。」
「そして『ロボット工学三原則』を『ロボット工学四原則』より優先とした世界を『無愛機』と呼びます。要は『最低限の人間の義務』と戦争行為以外のルールが無いスラム地帯です。」
「次に『ロボット工学四原則』を『ロボット工学三原則』より優先した世界を『愛機』と呼びます。私達が住んでいる場所ですね。ここはAI様によって全てが管理された場所となります。」
「『ロボット工学四原則』と『ロボット工学三原則』を逆になって覚えないよう注意してください。次に説明する第三次世界大戦の発生の経緯はテストに出ますので覚えておくように。」
「セラフ!次テストに出るってさ!」
「なんだよマイク。どうせ録音データが学校サーバーのクラウド上にアップされるんだし後で聞けばいいだろ?」
「どうせそんなの聞かずに終わるのがオチだろ~?俺もお前も歴史は苦手なんだし、一緒にやらねぇと俺もやる気があがんねぇよぉ~」
「別に良いじゃんか。こっちは100年以上前の戦争なんて興味ねぇよ。」
「まぁ、戦争があったなんて言われても実感ねぇよなぁ~」
「そういやさ。戦争で使用された核兵器だっけ?あれってこの辺にも使われたらしいぜ?そのせいで終戦初期には核の放射能まみれで最初はバタバタ死んでいったらしいぜ?」
「放射能汚染なんて洗濯物を乾かすレベルだろ。あんなの除去ロボットが数分でやってくれるだろ」
「いや昔は300年間は汚染が続いて解決方法も時間経過しかないってじっちゃんが言ってた。」
「昔の人間ってアホなんだなー」
ふと、窓を見る。黒色の死装束のような服を着た中性的な人が歩いている。
なんともこんな昼間の田舎には似つかわしくない恰好だ。
「最後に先生から重大なお話があります。」
「あなたたちもあと2年で成人の身となり成人式において無愛機に行くか愛機に留まるかの選択肢が与えられます。」
「もし無愛機に行くのであればそれ相応の覚悟をしてください。後から無愛機から愛機の移動も可能ですがその場合は抽選となりますのでほとんど帰る事は出来ません。」
「特にカルム街に行くのであれば決死の覚悟をしてください。自由というものそれ相応の責任が伴います。この事を肝に銘じてください。」
「はーい」
「そういやセラフは無愛機でしかもカルムに行くんだろ?大丈夫か?」
「そういうお前はどうするんだ?」
「いやぁまぁ俺は爺ちゃんの世話があるし」
「そんなのAIにでも任せればいいじゃん」
「いやーでもなー」
「大丈夫だってだって俺達は選ばれた人類なんだし」
「まぁそこは同意するけどよぉ」
「はいでは授業を終了します。学級委員長、義務の復唱を。」
「はい先生」
「僕達」
「私達は」
『子供を3人以上作ります!』
「では礼!」
「ありがとうございましたー」
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「・・・」
男は歩くまるでそれしか知らない機械のように。
彼は彼自身の運命を終えた。
そして近くの学校の生徒たちを姿を横見しながらつぶやく
「もし、もしだ。運命というものがあって、その運命が正しくいったのであれば今頃この町で何の間違いも犯さずただ平和に笑い合いながら暮らしていけたのだろうか。」
「・・・そうだよな。そんな仮定はどれだけ考えても仮定にすぎないよな。」
そして目的地に着く、そこは小さな家だった。
「あら、どなた?」
「・・・」
「なに、ただの宅配便だ。少し大きい荷物だがな」
「あら?なにこれ・・・ヒッ」
その箱には人らしきものが入っている
「安心しろまだ生きてる」
「後は好きにしろ」
「これは・・・あなたが?」
「俺はここまで持ってくるよう頼まれただけだ。」
「そうですか・・・でも本当に・・・本当に・・・ありがとう・・・!」
「そうか、じゃあな。2度と会う事も無いだろうよ。」
「さようなら」
(さよなら、母さんだった人)
そして彼は戻る。最も地獄に近い『カルム』へと。