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ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第2章 僕が過ごした彼女との時間
8/20

第8話 僕が迎えた不思議なトキ

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 吹雪の中で見つけた山小屋に避難したアキラと雪姫は、収納ボックスに残された備蓄品を使って寒さを凌ぐことができた。


 山小屋の中が暗くなり、彼はオイルランプに灯りを点ける。二人はランプの灯りに囲まれて座り、彼は自分の上着を雪姫の背にかける。彼女は寒さには大丈夫だと言うが、彼は彼女を心配していた。


 彼は雪姫と話しているうちに眠気がやってきて、目を閉じた。彼が目を覚ますと木造の建物の天井が見え、雪姫が大事にしていたぬいぐるみのそらもそこにある。


 そらが喋り出し、自分が2年前にアキラに助けられたウサギのぬいぐるみであることを明かす。そらは彼に感謝し、雪の国に生まれ変わることができたと伝えた。


挿絵(By みてみん)

 吹雪の中で見つけた山小屋は、登山シーズン中に使われている建物のようだった。冬に避難者が利用できるように、鍵はかかっていなかった。扉を開けてみると、家具も電気もなかったが、隅に置かれた収納ボックスに非常用の備蓄が残されていた。

 服装さえ雪山に対応したものであれば、風を凌げれば凍死に至るリスクは低い。


「これで何とか吹雪を凌げるね。雪姫、僕のウェアは問題ないけど、キミはその服装で大丈夫だった?」


「心配してくれてありがとう。私は大丈夫だよ。この服装で寒くないから」


(――普通の着物に見えるけど、特殊繊維なのかな? それともインナーが高性能なのかな?)


 その山小屋には一カ所だけ小さなガラス窓があり、僕はそこから外の様子を眺めた。吹雪は収まりそうもなく、日も暮れはじめていた。


「みんな心配するだろうね……あっ、スマホ、使えるかな?」


 スマホを確認すると、辛うじてアンテナが一本立っていてバッテリーも残っている。


「雪姫、これを使って先に家族に連絡していいよ。お母さんも心配していると思う――。この吹雪だと明日のイベントはどうなるか分からないけど……」


「ううん。私は連絡しなくても平気だから……アキラが使って……」


 スマホを雪姫に渡そうとすると、彼女は首を振って断った。


 僕は旅館に電話をして事の次第を伝えた。旅館の若女将はとても心配して、僕たちの救助要請を出すと言ってくれた。僕は雪姫にどうするか確認し、まだ必要ないと断った。若女将とは異変が起きたら直ぐに連絡をすると約束し、一旦電話を切った。


挿絵(By みてみん)


 山小屋で寒さを凌げても、日が暮れると建物内は真っ暗になってしまう。バッテリーの消耗を考えると、スマホを照明代わりに使えない。このため、収納ボックスにあったオイルランプを取り出して床に置き、マッチを擦って灯りを点けた。

 僕たちはランプに向かって並んで座り、僕は自分の上着を脱いで彼女の背に掛けた。


「大丈夫だって断っても、きっとダメなんでしょうね……」


「うん。僕はスキーウェアの下にも、厚手のフリースのジャケットを着ているから」


「じゃあ、こうしましょう……」


 彼女は僕に寄り添うように座りなおし、スキーウェアの上着は二人の背中をそっと覆った。ふれあう彼女の身体はとても冷えているようだったが、降りたての雪のように柔らかい。彼女から体温とは違う温かさを感じた。


 雪姫と二人で山小屋に避難してから、それほど時間は経っていない。だけど12月後半の日暮れは早く、もう小さな窓から微かに入り込んでいた光はない。

 ゆらゆらとしたランプの灯りが、僕たちを下から優しく包むように照らしている。寄り添ってくれている雪姫と話していると、外は吹雪の筈なのに暖かくさえ感じた。


「ねえ、アキラ……、もし忘れていることを思い出せたら、どんなことがいい?」


「思い出したいこと? そうだな……、忘れている約束かな。約束相手に迷惑をかけているかもしれないし……」


「ふふ、アキラらしいね……」

 

 雪姫は笑った。


「そうかな?」


「じゃあ、思い出してもらおうかな……」


 彼女はそう言って顔を近づけ、僕の顔に息を吹きかけた。


(甘い香りの爽やかな息だ……雪姫といると安らげる……)


 僕は気持ちが良くなって、ゆっくりと瞼を閉じた。


挿絵(By みてみん)


――


 とても良い木の匂いがする。この匂いには覚えがある。


 静かに目を開けると、木造の建物の天井が見える。山小屋とは違うようだ。視線を横に移すと、雪姫が大事にしていたそらと名付けられたぬいぐるみがあった。


(山小屋で気を失って、救助されたのだろうか? よく見ると、ぬいぐるみが動いているようだけど……)


「アキラ様、お目覚めになりましたか」


「えっ! ぬいぐるみが喋った!?」


 驚いた僕は、仰向けに横たわっていた上半身を勢いよく起こした。


「驚かせてすみません。ワタシは雪姫様の神使のそらです。アキラ様に2年前に助けられたウサギなのです」


 ウサギのぬいぐるみは涙を零している。しかし、そう言われても僕には理解できなかった。


「キミが……あのときのウサギだって?」


「はい。ワタシは命こそ失いましたが、あなたがワタシを助けようとしたおかげで、こうして雪の国で新たな生を得ることができたのです」


 そらは感極まって僕に抱きついてきた。


(これは夢だ。まさか、本当にぬいぐるみが喋っているのか……)



「失礼しました。再会が嬉しくて、感激のあまり役目を忘れてしまいました。アキラ様に雪の国に招待した事情を説明するよう、申し付けられているのです」


「雪の国って、ここはどこなの? 日本じゃないの?」


「はい。ここは『常世』という世界にある、国のひとつです。アキラ様の住んでいる日本国は、もうひとつの世界『現世』の側にあり、こちらとも相互に影響しあっているのです……」


「常世には雪の国の他にも国があるの?」


「はい、幾つもの国が存在します。それぞれの国は、現世と文化や思想的な面で深く繋がっています」


「そうなんだ。それなら現世や他の国と、自由に行き来しているんだ?」


「いいえ、現世には不干渉が原則です。他の国とも殆ど交流がありません。それぞれの国には、他国の者が侵入できない結界が張られているのです」


(『現世に不干渉』なら、どうして僕を呼んだのだろう? そもそもこれが夢とも現実とも分からない)

 

 夢を見ていると思いつつ、流れに任せることにした。


 そらの話では、常世の大気が、地球環境の汚染や社会文明の進化により変質したという。そして常世でも温暖化の傾向が出始めてきたらしい。


「じゃあ、現世の環境問題やエネルギー問題が、間接的に常世に影響しているっていうことなの?」


「そうなのです。雪の国では万年雪が解けはじめたり、精霊や妖精の数が減少したりしているのです。隣にあった草原の国は、急激に砂漠化したこともあり、国が滅びてしまいました……」


「じゃあ、国同士で資源の争いもあるの?」


「残念ながら……」


 東の大国では水不足となり、雪の国の豊富な水資源を狙いはじめた。滅んだ草原の国を吸収し、その民を尖兵とし、雪の国を攻めさせたのだ。

 草原の民が操る巨大な虫に、雪の国は幾度となく襲われるようになる。しかし、外周にある大雪原の一部が占領されただけで、雪の国を守護する結界は一度も破られなかった。


 こうして緊張関係が続いていたが、東の大国から、雪の国に先触れの使者が派遣されてきた。そして、最近になって漸く和平が見えはじめたらしい。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第9話 僕の心が解かれたコト

 アキラは心を解かれて過去を思い出す。2年前、彼は何を経験したのか? 

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

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