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ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第2章 僕が過ごした彼女との時間
7/20

第7話 僕の晴れたコトと吹雪くトキ

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 雪姫と別れた後、アキラは旅館の部屋で時間を過ごし、夕食会場で男女のグループの会話を耳にする。彼らは前日と同じくコスプレの女性スキーヤーについて話している。彼はジャージに着替えたため、自分がその女性と一緒にいた人物だとは気づかれないだろうと思うが、恥ずかしくなってしまう。


 翌朝、晴れた朝を迎えたアキラは雪姫とリフト券売り場前で待ち合わせする。雪姫は明日母親が主催する大きなイベントでジャンプをする人を探していたことを明かす。おそらくサプライズのイベントであり、雪姫の衣装や振る舞いがサプライズに組み込まれているのだと思われる。彼は彼女のリクエストを受け入れ、ジャンプをすることを決める。


 二人はパークエリアでスキーとスノーボードを楽しむが、時間が過ぎてしまい、昼食の後には午後3時を過ぎていた。アキラたちはバックカントリーエリアへ向かい、楽しんでいる最中に吹雪となる。


挿絵(By みてみん)

 雪姫と別れて旅館に戻り、夕食の時間まで部屋で過ごした。夕食会場に行くと、前日と同じように男女のグループが隣にいた。彼らの会話が耳に入ってくる。


「今日もコスプレの女の人が滑っていたよね?」


「うん。でも、今日は連れがいなかった?」


(ドキッ! まぁ、ジャージに着替えているから、その連れが僕だと分からないだろうけど……)


「相手はスキーヤーだったけど、パークでのジャンプは凄かったよね」


「あれは半端ないよ。あのキッカーの大きさで、ダブルコーク1080まで回すなんて、相当なレベルでしょ」


「お似合いだったね。コスプレのモデルとプロのスキーヤーかな? 映えていたよね!」


(……恥ずかしい。ジャージに着替えたから分からないだろうけれど、そんな風に見られていたんだ……。こっちは全然余裕がなかった……)


――


 夕食後、僕は正体が分からない雪姫のことを考えていた。一番高い可能性は、何かの撮影のため、スキー場でジャンプする人材が急遽必要になっているケースだろう。映画やテレビ番組の撮影であれば秘密も多い。しかし、役者の一人に過ぎない彼女の独断では決められず、他のスタッフに相談する必要がある。

 彼女に対して既視感があるのは、髪の毛の色が京都で会った女性と同じだったからに違いない。


(きっとそうだ――、どうもオカシイと思った。それなら理解できる!)


 そんなことを考えながらクリスマスの夜は更け、いつしか自分が失恋してここに来たことなど忘れていた。


挿絵(By みてみん)


――


 色々と考え込んだクリスマスの夜は明け、快晴の朝を迎えた。彼女が僕のような人物を探していた目的は、色々想像できても正確には分からない。だけど、せっかく出会えた相手であるから、可能なことなら協力しようと決めていた。

 自分が彼女から好かれた訳ではなかったけれど、自分にとって彼女は、推したい相手になっていた。


 スキー場のリフト券売り場前が、雪姫との待ち合わせ場所だった。約束の時間が遅めだったので、僕は少し滑ってからその場所に向かった。まだ約束の時間前だったが、ゲレンデの上部から滑り下りてくる彼女の姿が見えた。どうやら彼女も待ち合わせ前に一人で滑っていたらしい。


「雪姫、おはよう」


「おはよう、アキラ」


「あれ? 今日はそらを連れていないの?」


 僕はぬいぐるみがスノーボードに乗っていないことに気づいた。


「うん。今日は都合が悪くて連れてこなかった」


(ん、ぬいぐるみの都合?) 


 少し疑問に思ったが、軽い会話をしながらリフト乗り場に向かった。


挿絵(By みてみん)


――


「アキラは……私が、人を探していた理由を知りたいんだよね?」


 二人でリフトに乗っていると彼女が訊ねてきた。


「うん、教えてほしい」


 僕がそう答えると、明るい彼女は真剣な顔つきになった。


「じゃあ、話すね。実は……明日、私のお母様が主催する大きなイベントがあるの。そのイベントでジャンプをしてくれる人を探していたの」


「えっ……それで何のイベント?」


「……サプライズのイベントだから詳しくは言えないの……ごめんなさい」


「お母さんが主催って、もしかしたら雪姫の家族って、スキー場の経営者?」


「ちょっと違う……けど、それに近いよ」


「僕は選手じゃないし、プロでもないから、もし大きいイベントなら、選手かプロを頼んだ方がいいんじゃないの? 僕なんかでいいの?」


「アキラに飛んでほしい! 昨日、アキラが見つかって、本当に良かったと思った」


「ジャンプは、必ず成功するって訳ではないけど……」


「もし、ジャンプに失敗しても危険がないように、ちゃんと手配するから、お願い、アキラ……力になってくれない?」


 縋るような瞳で見つめられたら、もう断りようがない。


「うん、じゃあ分かった。――飛べばいいなら、飛んでもいいよ」


「ありがとう! アキラって本当に優しいね」


 想像していた何かの撮影とは違ったが、ジャンプをしてほしい理由はわかった。このスキー場で何かのサプライズイベントがあり、彼女の衣装や振舞いがサプライズに組み込まれているのであれば、今までの彼女の行動が納得できる。彼女の衣装やウサギのぬいぐるみは、この辺りの雪女の伝説に沿っている。


 イベントの詳しいことは午後から教えてもらうことになり、僕たちはパークエリアでスキーとスノーボードを楽しんだ。午前中は快晴で風もなく、絶好のジャンプ日和だった。


(きっと、イベントでもここで飛ぶことになるのだろうな――)


 僕は彼女のリクエストを受け、調子に乗って持っている技の全てを披露した。


挿絵(By みてみん)


――


 僕たちは滑るのに夢中で、気がつくとお昼をとうに過ぎていた。昨日と同じレストランに向かい、同じカレーライスとサイダーを注文した。


「こうしてアキラに会えて、本当に良かった……」


 ふと雪姫が呟いた。


「えっ……、僕なんか少しスキーでジャンプをするのが上手いだけだよ」


「――そんなことないよ。アキラに会えなかったら、まだ人探しをしていて、きっとカレーを食べる時間もなかったよ」


 彼女は僕の顔をじっと見てから、笑顔でそう言った。


挿絵(By みてみん)


――


 レストランからゲレンデに出たときには、午後3時を過ぎていた。昼食の時間が遅く、話した時間も長かったからだ。


「ねえ、これからバックカントリーを滑れるコースに行かない?」


「えっ、あの自己責任エリア? そうだな……時間的にギリギリだけど、装備は揃っているし、天気も良いから行ってみる?」


 このスキー場には、上級者がバックカントリーを体験できる、非圧雪の自己責任エリアがある。山頂の指定場所からアプローチするが、そこは雪崩の発生地帯や崖周辺と違って、立入禁止になっていない。重装備が必要なオープンバーンのバックカントリーより危険はないが、規制ポールやロープ、ネットで囲われておらず、スキーパトロールによる巡回もない。要は、スキー場内ではあるが、冬山登山と同等の扱いになり、何があっても自己責任となる。


 僕たちが自己責任エリアの、上質なパウダースノーを楽しんでいると、それを邪魔するように、雪交じりの強い風が吹きはじめた。ついさっきまで快晴だった空が、見る見るうちに黒い雲に覆われる。そして吹雪になった。


 先頭を滑っていた僕が止まり、後ろを滑っていた彼女は、僕の横に並んで止まった。 


「雪姫、気温が下がってきたけど寒くない?」


「うん。大丈夫だよ」


「それならいいけど、視界が悪いから、このまま滑りつづけるのは止めよう――。迷ったら危険だから、早めにビバークできそうな場所を探そう」


(僕一人なら無理をして滑って下山をするけど、彼女を危険に晒すことはできない。それに僕のウェアは、アウターもインナーも高性能なスキー用だけれど、雪姫の服装はそう見えない。明るい内に雪洞を作らないと……)


「アキラ、この近くに山小屋があるの。そこに行きましょ――」


「えっ……、場所は分かるの?」


「うん、分かるよ……。あっちだよ」


 雪姫は腕を上げて木々の奥を指した。


 先頭を雪姫に譲り、僕たちはゆっくりと斜めに滑りながら、木々の間を通り抜けた。すると、その先には彼女が言うように小さな山小屋があった。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第8話 僕が迎えた不思議なトキ

 吹雪の山小屋で眠ってしまったアキラは、どこで目覚めたのか?

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

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