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ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第2章 僕が過ごした彼女との時間
6/20

第6話 僕の熱くて冷めたコト

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 クリスマスの午前中、アキラは雪姫というと出会い、一緒に滑っていた。彼女は喜んで彼のジャンプを見ていた。二人は一緒にお昼を食べることになり、レストランに入る。


 そのレストランで、雪姫は他のスキー場でもジャンプができる人を探していたと、アキラに打ち明ける。彼女はスキーやスノーボードができる人を求めており、アキラがピッタリだと言う。しかし、アキラは彼女の目的が自分自身ではなく、単にジャンプが上手い人であることに気づく。そしてアキラの雪姫への気持ちは一気に冷めてしまった。


 二人は、午後も一緒に滑ったが、彼女は人を探していた目的を明かさずにいる。アキラは彼女との関係が発展しないことを理解しながらも、一緒にいると楽しいと感じていた。しかし、隠し事や本当の自分を見せてくれないことに不安を感じ、警戒心が募る。


挿絵(By みてみん)

 曇天から晴天となったクリスマスの午前中、『雪姫』という白い着物の女性の前で、僕は最高のジャンプができて満足していた。

 彼女は僕のジャンプを見て喜び、明るくぬいぐるみに話しかけるような素振りを見せている。徹底して何かのキャラになりきっているようだ。


「アキラ……それで、話があるんだけど――」


 そんな明るかった彼女の顔が少し曇った。コスプレをした彼女が、素顔に戻る時間なのかもしれない、あるいは他の仲間との合流や別の場所に移動するのだろうか……。

 何にせよ、楽しいクリスマスのひとときだった。一緒に滑ってくれたことへの感謝を彼女に伝えようと思った。


「――私、お腹が空いちゃった。少し早いけど一緒にお昼を食べない?」


「……えっ?」


 彼女は照れたような顔になっていた。


挿絵(By みてみん)


――


 彼女からの予想外の提案を受け入れ、僕たちはゲレンデのレストランに入った。まだ11時になったばかりだったので、店内は空いていた。二人ともカレーライスとサイダーを注文し、ゲレンデが見渡せる窓側の席に座った。


「雪姫の髪の色、サイダーと一緒だね」


「ありがとう……。だから私はサイダーが好きなの。カレーも大好き!」


 そんな当り障りのない会話をしながら、二人で熱いカレーを食べた。そして僕が年末まで滞在することを話すと、彼女はなぜかとても喜んだ。


(彼女もこのスキー場に撮影で滞在するのだろうか?)


 ただ、彼女が演じているらしいキャラの設定が、少し変わっていた。住んでいる場所は山の上、スマホに携帯、テレビもない。最近の流行は全く知らなくて、今の服装は普段着らしい。更にウサギのぬいぐるみに時々話しかけて頷いている。


(どこまでが『雪姫』というキャラの設定なのだろうか? この山の雪女にでも、なりきっているのかな?)


 彼女の素性は全く分からない。でも、京都で会った女性と同じ髪色だからなのか既視感がある。それに一緒にいると安らげる。僕は彼女に不思議な魅力を感じ、次第に惹かれていくのが自分でも分かった。


(こうやって別のスキー場でも誰かに声をかけていたのかな?)


「ねえ、アキラって雪が好きなんでしょ?」


「うん、好きだよ。ただ、雪そのものより、雪のある場所の方が好きかな」


 彼女は僕の答えに満足げに繰り返し頷いた。


「分かる分かる。そうだよね。だったら、雪がなくなってしまうなんて絶対に嫌だよね?」


「それは嫌だよ! 地球温暖化なんて勘弁してほしい――。簡単じゃないけど、みんなが気づいて行動すれば温暖化は止められると思う!」


 僕は少し熱くなった。


「いいね! 私もそう思う。温暖化は止めたいよね!

 私はどんなに難しくても、強く信じて行動すれば奇跡が起こせると思う……。

 それで……実は雪が好きで、スキーやスノーボードでジャンプができる人を探していたんだ……」


「えっ? 人を探していた?」


「そう。幾つか他のスキー場も見て回ったけど、見つからなくって……。でもアキラに会えて良かった――。アキラならピッタリ!」


(そうか……やっぱり……)


 僕は彼女の笑顔をまともに見れなくなった。好感を持たれているという期待が外れ、惹かれ始めていた気持ちが冷める。


(先輩に振られたばかりなのに、また同じ勘違いをする前で良かった……)


 期待が外れ、急速冷凍されたように、惹かれはじめていた気持ちが冷める。僕は気持ちを切り替えた。


「そうなんだ。でも、ジャンプできる人を探してどうするの?」


「えっ……それは……まだ内緒――」


 平静を装いつつガッカリしている僕の問いかけに、彼女は笑顔で誤魔化した。


 冷めはじめた僕の心に、もう彼女の笑顔は響かない。彼女が探していたのは、僕ではなく、単にジャンプができるスキーが上手い人だった。


 それでも僕には、彼女と別行動を取る理由もなく、その決心もない。僕と彼女は午後も一緒に滑ることになった。


挿絵(By みてみん)


――


 午後からはスキー場の色々なコースを滑るだけでなく、パークエリア内のアイテムを使って遊んだりした。

 振られた先輩の指導で、僕も多少はスノーボードができる。だから彼女に、簡単なジャンプのやり方を教えてあげた。彼女は運動神経が抜群で、直ぐにジャンプが上達した。


 発展しない関係だと分かっていても、明るい彼女と一緒にいるととても楽しい。


 ただ、二人でリフトに乗っているときや休憩の際に幾ら会話をしても、人探しの目的だけは教えてもらえなかった。嘘をついているようではなかったが、明らかに隠し事をしている。


(一体、彼女は僕をどうしたいのだろう? 正直に教えてくれればいいのに……)


 クリスマスに彼女と出会えて嬉しかったし、今は一緒に滑れてとても楽しいと思っている。だけど彼女への警戒心が消えることはなく、リフトの乗車中も僕から話しかけることが段々と少なくなった。

 今の彼女の何が素で何が演技なのか、僕には全く分からない。


(これで終わっても仕方ない……帰り際にチラシでも渡されるのだろうか?)


挿絵(By みてみん)


 リフトの終了時間が近づいても、彼女は僕に接近した理由を明かさない。僕から彼女に次の約束を切り出すこともなかった。

 最後の一本となるリフトに乗っているときだった。彼女は静かに話しかけてきた。


「……ねえ、アキラ……今日はどうだった?」


「楽しかったよ」


「明日も滑りにくる?」


「うん……。スキー場にはくるよ」


「もう……私とは一緒に滑りたくない?」


「そんなことはないよ……。でも……僕に近づく理由があるなら、正直に教えてほしい。人探しの目的が分からないまま一緒に滑るのは……何か嫌だよ」


「そうだよね……。でも、私だけじゃ決められなくて……。明日教えるから、また会ってくれない?」


 とても真剣な顔をしている彼女を見て、僕は少し考えた。


「……いいよ、分かった」


「アキラ、ありがとう」


 僕たちはリフトを降りると、スキーとスノーボードで並走し、少しでも長く滑れるように、ゆっくり大きくターンをして山麓まで下りた。


(嬉しいけど、何か気が晴れないな……)


 空は晴れていたが、赤い夕日が山の向こうに沈もうとしている。リフト券の売り場前で、僕たちは明日の待ち合わせの約束をして別れた。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第7話 僕の晴れたコトと吹雪くトキ

 アキラの中で何が晴れたのか、そして吹雪とは?

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

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