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ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第1章 僕が出会ったコスプレの彼女
4/20

第4話 僕にスイッチを入れたモノ

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 滞在初日の夕食時、アキラは他のお客との会話で、ゲレンデで水色の髪のスノーボーダーの美しい女性が話題になっていることを知る。


 翌日、クリスマスの朝、アキラは雪が降り止んだゲレンデに向かう。パークエリアに移動し、整備中のキッカーでテストジャンプをする予定だった。その助走中に彼は、目の前にいる女性が昨日見かけたコスプレの女性だと気付く。


挿絵(By みてみん)

 滞在初日のスキーを終えて旅館に戻り、入浴してから夕食までの時間を部屋で過ごしていた。ただ、クリスマスイブに一人でいるのを他のお客から気の毒がられるのも嫌だった。


(そろそろ夕食の時間かな? さっさと食べてこよう)


 僕は部屋を出て食堂に向かった。廊下の窓から外を見ると、夕方からの雪が降り続いている。除雪されていた道を覆い、窓から見える限りを白い世界に変えていた。


 僕がフライング気味に食堂に入ると、まだ他のお客は来ていなかった。


「お疲れさま。ゲレンデはどうだった?」


 配膳していた若女将が訊ねてきた。


「全コースオープンしていて、雪質も良かったですよ」


「それは良かった。今年は雪不足でオープンが遅れて、コースもなかなか拡がらなかったのよね……。それで、今日はウサギを拾ってこなかった?」


「ははは、拾っていません。その節はご迷惑をおかけしました」


 僕が改めてお詫びを伝えると、若女将は笑って流してくれた。僕は案内された席に着き、夕食を食べはじめた。


挿絵(By みてみん)


――


 少しすると続々と食堂に人が入ってきた。僕は長テーブルの端に座っていたが、一つ席を空けたところに、僕より少し年上に思えるグループが着席した。特に聞き耳を立たてている訳ではなかったが、自然にグループの会話が耳に入ってくる。


「今日、ゲレンデに水色の髪のスノーボーダーがいたよね?」


「ああ、いたいた」


「凄い美人だったよね。ターンも綺麗だった」


「うん。あれはかなり上級の滑りだよ」


「でもウェアが変じゃなかった? あれってコスプレ?」


「よく知らないけどそうなんじゃない。スノーボードの上にぬいぐるみを乗せていたし。何のアニメか知らないけどね」


「この辺りのスキー場って、雪女の伝説があるらしいから、雪女のコスプレかもね。あれ? えっ、ちょっと待って……」


 そう言ってグループの一人が、スマホの画面を他の仲間に見せている。


「――あっ、隣のスキー場にも出没していたんだ! じゃあ、何かのモデル? どこかで撮影していたのかな? コスプレとスキー場って何か合うよね」


(えっ、ホント? その画面を見せてくれません?)


 彼女の姿を見せてほしいと思ったが、言葉をぐっと飲み込み、箸を止めずに食事を続けた。


 夕食のデザートはクリスマスに合わせてチョコのショートケーキだった。僕にはちょっと苦い。早々とデザートを平らげ、僕は食堂を出て部屋に戻った。

 一人で過ごしているとつい考え事をしてしまうが、その夜は何も考えずに眠りたかった。


挿絵(By みてみん)


――


 何事もなくクリスマスイブの夜は明けた。夜の内に雪も止んだようだった。こんな日はまだ誰も滑っていないふかふかのパウダースノーが最高の御馳走だ。

 僕は急いで朝食を食べ、まだ除雪されていない道を歩いてゲレンデに向かった。空は厚い曇に覆われている。


 リフトの営業開始と共に山頂まで上り、上級者向けの非圧雪コースの入口に向かう。圧雪車が早朝に整備するので、殆どのコースは細い溝が刻まれた締ったバーンになっている。それはそれで気持ち良く滑れるのだが、新雪が圧雪されていないパウダースノーは別格だ。


 僕は何の跡もついていない真っ白な急斜面に飛び込んだ。直ぐに身体が腰ぐらいまで雪に埋もれる。白いスプレーのように粉雪が舞い上がる。


(パウダー、サイコー!!)


 スキーの浮力が活きるように少し後傾気味の姿勢となる。それから慌てずゆっくりとターンを繰り返す。そのゆっくりとしたリズムに合わせて息も弾む。硬く締ったバーンの滑り方とはまるで違う、パウダースノーだけの滑り方だ。


 上達してからこのパウダーを味わうと多くの人が病みつきになる。そして、このパウダー狙いの人が多いため、暫くするとコースは荒れてしまう。今回も最高のクリスマスプレゼントだった。


(クリぼっち上等!)


――

 

 僕は非圧雪コースがコブコブになるまで繰り返し滑り、パークエリアに向かった。パークではディガーと呼ばれる方が手作業でキッカーを整備している。パークはまだ一部しかオープンしていなかった。


 このスキー場はパークエリアの充実がセールスポイントになっているが、パークの造成や維持と整備にはとても手間がかかる。特にキッカーは仕上がりが安全に直結するので丁寧な作業が必要になる。

 昨日もパークの中を何度か流したが、雪不足のシーズン初めのこの時期にしては大きなキッカーが造成されていた。


 僕が整備中のキッカーのスタート位置に立っていると、ディガーがOKの合図を送ってきた。それを見て僕も右手でストックを上げて、スタートの意思表示をする。


(軽くテストジャンプでもしよう)


 僕はそう思ってスタートした。その日の一本目のジャンプなので力を抜いてストレートに飛び、キッカーの様子を見るつもりだった。


(――あっ! ――彼女だ!)


 助走を始めて直ぐ、向かっているキッカーの横に昨日見掛けたコスプレの女性がいることに気づいた。

 白い着物を羽織った水色の髪の女性が、スノーボードを停止させて立ち止まり、ウサギのようなぬいぐるみを抱いて僕の方を見ている。


(目が合った!?)


 そして僕に、変なスイッチが入った。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第5話 僕が彼女に見せたかったモノ【第1章完】


 主人公のアキラは、知り合った女性に何を見せたかったのか?

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

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