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ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第1章 僕が出会ったコスプレの彼女
2/20

第2話 僕が捨てたコトと拾ったモノ

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 小さな旅館に到着したアキラは、過去を振り返った。以前の彼は、フリースキーが大好きで、季節に関係なくキャンプやレッスンに参加していた。しかし、次第にフリースキーの練習に参加しなくなった。


 2年前、一人でスキーに来ていたアキラは、スキー場で怪我をしたウサギを見つける。周囲の人たちは無関心だったが、彼だけがそのウサギを助けようとし、動物病院に連れて行った。


挿絵(By みてみん)

 僕がしているフリースキーは、競技人口が少ないスキーの中で更にマイナーだ。

 でも、広いスペースを必要としないので、練習環境が基礎スキーやアルペンスキーより恵まれている。

 室内スキー場やプールやマットに飛び込むジャンプ場、トランポリン施設など、雪がなくても練習できる環境がある。


 だから小学校高学年から高校1年までは、季節に関係なく、フリースキーのキャンプやレッスンに参加していた。


◇――


 最初は親に連れられて参加したが、大人に混じって練習をしていた頃が一番楽しかった。ただ、仲の良い同世代も多くいて、練習の合間には好きなアニメやゲームのことを話した。


 フリースキーがオリンピック競技に加わり、ジュニアの育成に力が入るようになると、親は送迎と見学をするだけになった。同世代でも大会で活躍する『ガチ勢』と段々と練習に来なくなる者に分かれた。僕の妹は後者だったが、僕もまた『ガチ勢』にはならず、自由なスキーを楽しんでいたのだった。


 練習が嫌でも苦でもなかったので、周囲は僕が選手を目指すと思っていただろう。でも、そんな期待は重荷だったし興味もなかった。コーチからジュニア代表の推薦が打診されたが断った。


『お前、何のために練習しているの?』


 僕は技を覚えること自体が楽しかった。


 本気でワールドカップやオリンピックを目指す他の同世代とは、同じ練習に参加していても、気軽に会話することもなくなった。


『もういいかな……』


 中途半端な存在になっていた僕は、高校1年でキャンプやレッスンへの参加を止めた。だけどフリースキー自体は、止めたくなかった。


 雪なし県の高校なので、いつでも一緒にスキーができる部活や、友達がいるわけじゃない。それに家族とも行きたくない。だから僕は親に甘えて旅費を出してもらい、高校2年の冬休みに初めて一人でスキーに出掛けた。今思えば随分と自己中で、かなり拗らせていたと思う。


 そして2年前の冬、この部屋に滞在した。


挿絵(By みてみん)


――◇


 僕は窓の外に見える雪山から視線を移し、部屋の隅の方を見つめた。2年前のこの部屋の隅には段ボール箱が置いてあった。


(そうだ――あそこにあった箱に――可愛かったな……)


 僕は2年前の滞在中にスキー場で起きた出来事を思い出した。


◆――


 2年前のその日、僕は久々に練習ではないスキーを愉しんだ。一人で滑る寂しさなど全く感じない。それまでのうっぷんを晴らすように、山頂から麓まで何本もノンストップで一気に滑り下りた。パークエリアのキッカーからジャンプをしたり、ジブアイテムのレールやボックスに飛び乗って金属音を響かせた。


 そんな僕が気分を変えて、初級者用の林間コースをゆっくり下りているときだった。前方で滑っている人たちが、何かを気にして避けているのに気づいた。ちょうど林間コースの途中にある小さな神社の近くだった。

 スピードを落として前方を注視すると、そこには怪我をしているウサギが横たわっていた。僕はウサギの横でスキーを止めた。ウサギの背中からは血が流れている。


 そんなウサギに、林間コースを滑る人たちは、みんな視線を向けるが、僕の他に立ち止まる人はいなかった。


『かわいそう……』


 通り過ぎながら女性が言った。


 そう思うのなら、どうして行動しないのだろう?


 僕はウサギに手を伸ばした。見て見ぬ振りができなかったし、ウサギを助けられる筈だと何の根拠もなく思った。


 後から知ったのだが、鳥獣保護管理法に定められた傷病鳥獣救護活動では、人為的な原因以外で傷ついた動物の救護は、自然の摂理に反するため、禁止されているらしい。が、そのときの僕には原因など分からないし、ただウサギを助けたいとだけ思った。


 血を流している野生のウサギを胸に抱えて、慌てて旅館に連れ帰った。若女将には驚かれたけれど、応急手当をしてもらってから、車で近くの動物病院に連れていってもらった。


『治療費は僕が払いますから、このウサギを診察してください』


『怪我をしたウサギを、山から拾ってきちゃったんだ!?』


 動物病院の院長には、半分褒められ半分呆れられた。


 そのウサギには噛まれた跡と、同時にスキーかスノーボードと接触したと思われる打撲傷もあった。他の動物に襲われて、慌てて逃げている最中にコースに飛び出て人間と接触した可能性が高く、禁止されている救護行為とは、言えないとのことだった。

 ただ、山に戻れるだけの回復は、難しいだろうと言われた。


 ウサギの診療費は不要だと言って、受け取ってもらえなかった。院長はペットの診療以外に、野生動物の保護活動もしているらしい。僕は旅館のオーナーと若女将から許可を取り、ウサギを段ボール箱に入れて一緒の部屋で過ごした。


『神社の近くで拾ったのなら、何か縁あるウサギなのでしょうね。あの神社は、女神を祀っているのだけれど、ウサギが神使なのよ。それに、あの山には色々な言い伝えがあって、ウサギを連れた雪女が、道に迷った人を助けたとか、人を連れ去ったとか……。そのウサギも、神様か雪女のお使いかもね』

 

 そう言って若女将は笑っていた。


 ウサギは弱っていて、自力で箱の外には出られなかったし、エサも殆ど食べなかった。でも身体を撫でてあげると気持ちが良いのか、安心して目を閉じた。僕はスキーをしている間もウサギが気になった。だからお昼は部屋に戻っておにぎりを食べ、午後も早々に切り上げて部屋に戻った。ウサギの世話はとても楽しかった。


 だけど2日目の朝、僕が段ボール箱の中を見ると、ウサギは既に冷たくなっていた。僕は野生に戻せなくても、命だけは助けられると思いこんでいた。山に帰せないのなら、親に相談して、自分が引き取ろうとも思っていた。とても悲しく、自分の無力さが虚しかった。


 僕が、ウサギの亡骸が入った段ボール箱を持っていくと、亡骸は動物病院で引き取ってくれた。そして院長からは、ウサギの死を看取ったことは無駄ではない、と諭された。それからスキー場にある神社を訪れ、ウサギの冥福を祈った。


挿絵(By みてみん)


――◆


(カッコつけただけで、結局は救えなかった……)


 2年前の感傷に浸った後、僕は座卓にあったお茶とお茶請けを頂いてから、スキーウェアに着替えた。そして部屋を出て、スキー道具を預けた乾燥室に向かった。


 スキーの板とストックを手に持って旅館の外に出る。


(2年ぶりに行こう!)


 雪山を見上げ、僕は高校2年の冬休み以来となるスキー場に向かった。空には今にも雪が降り出しそうなほどの、灰色の曇が広がっている。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第3話 僕のキャンセルしたかったコト

 主人公がキャンセルをしたかったコトとは? そして見掛けるコスプレの女性

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

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