表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲレンデで出会った彼女は雪女?  作者: つよ虫
第1章 僕が出会ったコスプレの彼女
1/20

第1話 僕が一人で訪れたトコ

★スキースノボで現世と常世を巡るファンタジー★


挿絵(By みてみん)


 大学生のアキラは、一人でスキーケースを肩に担ぎ、雪道を歩いていた。彼は一緒にスキーを滑る相手がいないため、寂しさを感じている。


 彼は高校生の頃、一人旅をした経験があり、高校2年の夏休みに京都に訪れたことがある。その旅行では、窃盗犯を捕まえようとして取っ組み合いとなった。その後、被害者の女性から介抱を受けたらしいが、記憶が飛んでいる。


 アキラは山麓の小さな旅館に到着し、若女将に出迎えられる。部屋に案内された彼は、荷物の整理しながらスキーの思い出を回想する。


挿絵(By みてみん)

 曇り空のクリスマスイヴの午後、僕はスキーケースを肩に担ぎ、大きなキャスターバッグを引いていた。除雪されたばかりの道を黙々と一人きりで歩いている。一緒にスキーを滑る相手はいなかった。


(一人旅なんて、高校2年以来だな)


◇――


 初めての一人旅は高校2年の夏休みに出掛けた京都だった。同じタイミングで両親と妹は家族旅行に出掛けていたが、僕は一緒に旅行するのが嫌だったのだ。それに、自分一人でも何かを成し遂げることができると、証明したかった。


 あのときは大変な目に遭った。宇治駅から歩いて平等院の近くを観光していたとき、女性の手提げバッグを奪おうとした窃盗犯と、取っ組み合いになってしまったのだ。目の前で行われた犯行を、僕は見逃すことができなかった。興奮していたからか、そのときの様子は断片的にしか覚えていない。


 ぼんやりとした記憶では、犯人がナイフを取り出し、最後の抵抗で僕を刺した――。


 その場に崩れるように倒れた僕は、窃盗の被害者の女性から介抱され、何か水のような物を飲まされた気がするが――、ここからの記憶が飛んでいる。僕は意識を失っている間、どこか別の場所の楽しい夢を見ていた。夢の内容は覚えていないが、介抱してくれた女性が登場したような気がする。そして、何か大事なことを忘れてしまった喪失感があった。


『あなたのおかげで、大切な手提げを奪われずに済みました。ありがとうございます。どこか痛むところはありませんか?』


『はい……、頭はぼんやりしていますが、身体は大丈夫みたいです』


『ご無事でよかったです。自らの危険を顧みず、とても勇敢な行動でしたね』


『僕の方こそ、ご面倒をおかけして、すみません』


 警察が騒ぎを聞いて駆けつけたとき、犯人は意識がなく、ぐったり横たわっていた。女性の介抱を受けていた僕は、ゆっくりと立ち上がった。僕の服には穴が開き、僅かに血の跡も残っていた。でも、幸い運が良かったらしく、ナイフは表皮を傷つけただけで臓器に届いていなかった。僕の身体には、直ぐに取れた小さな瘡蓋だけが刺された痕跡として残されていた。


『あなたとは、またいつか、お会いするような気がします。お元気で』


被害者でもあり、僕を介抱してくれた女性は、着物姿の水色の髪をした女神のように綺麗な人だった。その女性は凛として優しく、僕には女神に見えた。


 この窃盗犯を捕まえたことで、僕は警察から賞状をもらえた。その武勇伝は休み明けの学校でちょっとした話題になった。


 高校では、あまり活動が活発でない文化系の部に入っていたこともあり、それからときどき一人で旅行に出掛けるようになった。旅行の目的は、観光とスキーだった。ただ、流石に受験を控えた高校3年の1年間は、旅行をせずに予備校に通った。そして、晴れて受験が終わり、大学のサークル活動に参加するようになると、僕はその仲間と旅行をするようになった。


挿絵(By みてみん)


――◇


 そんなことを思い出しながら歩いているうちに、今回の目的地に着いた。ここに来るのは二度目になる。僕は山麓の小さな旅館の門をくぐった。

 前回は晴れ晴れした気分での一人旅だったが、2年ぶりとなる、今回の一人旅は少し気が重い。僕は旅館の開き戸を開けた。


「……いらっしゃい」 


 フロント付近の掃除をしていた、割烹着姿の女性が振り向いた。


「アキラ君だよね? 2年前より背が高くなったね。久し振り」


「はい。今日から年末までお世話になります」

 

 僕はスキー道具を乾燥室に運んでから、宿泊の受付を済ませた。


――


 女性はこの旅館の若女将で、僕は2階に案内された。


 若女将には、高校2年の冬休みに一人で来たときにもお世話になり、とても親切で温かく接してくれた。その良い印象があって同じ宿にしたのだが、直前の予約だったので満室になるギリギリで部屋を確保できた。


「まだチェックイン時間にはなっていないけど、部屋の用意ができているから、今から使ってもいいから――。ただ、以前と同じ部屋なんだけど、大丈夫?」


 若女将がドアを開けると、そこは2年前にも使った6畳の和室だった。この部屋では楽しいことも悲しいこともあった。


「ありがとうございます。大丈夫です」


 僕はお礼を言って部屋に入った。


「そうそう、今年は暖冬だから、カメムシが冬になっても活動していて、たまに部屋に入ってきちゃうことがあるから注意してね。見つけたら、テレビの横に冷凍殺虫スプレーがあるから使って」


「分かりました。刺激をすると、ゴキブリより厄介ですからね」


「本当よ。部屋に出ると消臭も大変で。これも、地球温暖化の影響なんでしょうね。以前は、冬に姿を見なかったんだけどね……。じゃあ、何かあったらフロントにいるから声をかけてね。ごゆっくり」


 若女将は笑顔でそう言うと静かにドアを閉めた。


 この旅館で一番安い、バスとトイレが共同の6畳の和室、ここがクリスマスから年末までの僕の山籠りの拠点になる。僕はキャスターバッグを開けて荷ほどきを始めた。同じ旅行でも僕はスキー旅行が好きだ。


 僕がスキーを始めたのは物心がつく前だった。スキーブーム世代の親に連れられ、僕は高校1年まで毎年家族と一緒に長い時間をゲレンデで過ごした。そんな経緯で始めたスキーだったが、決して嫌いではなかった。


挿絵(By みてみん)


◆――


 小学校高学年までは、妹と一緒に基礎スキーの検定を受けて級別のバッジをもらうのに夢中になった。その目標の達成後は、僕はフリースキーに足を踏み入れた。ゲレンデ内のパークにあるキッカーというジャンプ台を飛んだり、ジブという人工物の上を擦って滑ったり、ハーフパイプを滑るものだ。


 それまでの基礎スキーとは違い、型に嵌まらないスキーは面白く、僕は夢中になって練習した。反対に妹の方は段々と練習をしなくなった。


『スキーだと友達ができない……。もっと学校の友達と遊びたい』


 妹はそう言ってスキーから遠ざかっていった。僕の方はフリースキーが楽しくて練習を続けたが、それも高校1年の冬までだった。


挿絵(By みてみん)


――◆


 キャスターバッグから出した荷物を整理し終えた僕は、カーテンを開けて部屋の窓から真っ白な山を見た。ふと網戸を見るとそこにはカメムシがいる。


(デカッ!?)


 僕はテレビの横にあるスプレー缶を手に取って、窓ガラスを開け、網戸越しに殺虫剤をかけた。網戸から大きなカメムシがあっけなく落ちる。


(討伐完了! あー、びっくりした。そういえば、前回来たときには押し入れに一匹いたな……)


 僕は窓ガラスを閉め、ガラス越しに雪山を眺めながら、2年前にこの旅館に来るまでのことを振り返った。


挿絵(By みてみん)


  つづく

次回、第2話 僕が捨てたコトと拾ったモノ

 主人公が捨てたコトとは? そして拾ったモノとは?

――――――――――――――――――――

イラスト:きむら さん、他

校正協力:スナツキン さん


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ