第6.5話 北条奏の心境(後)
まさか自分の中で思っていることをつい口走ってしまう事がここまで恥ずかしいことだとはおもってもみなかった。
久しぶりに同級生とまともに会話したということもあり、人と話すことがそもそも上手では無い私がボロを出すのは考えてみれば当然かもしれないのだけれど、口走った内容が「赤羽は女装したら可愛いと思う」と言ったもので360°どこから見ても恥ずかしい発言だったと思う。
思い返すだけでも相当に恥ずかしく、顔が熱を帯びるのがわかる。
ただし、こういうのは言った側だけでなく言われた側も大なり小なり恥ずかしさを感じる様で、赤羽の顔もかなり赤くなっていた。
それを見て可愛いなと思うくらいには私も頭がどこから不具合をきたしているのかもしれない。
無意識に赤羽の事を可愛いと思ったことに気づきより一層顔を赤くしながら注意を受けたばかりということもあり、意識を逸らすという目的も兼ねて板書をノートに書き写す。
流石に私にしては珍しい行動をしていたからか周りからは色んな意味合いをもった視線が突き刺さる。
授業が終わった後、赤羽が大量のクラスメイトに囲まれる、さっきのことについて聞きに来たのだろう。
こういう時赤羽には申し訳ないけれど、人と関わってこなかった私に人が寄ってこないのはありがたかった。
それでも赤羽に聞いても埒が明かないの判断した子が数人私にも話しかけてくる。
「赤羽くんと何をはなしていたの?」
「2人が話してる、というか北条さんが人と話してるの珍しくて気になっちゃって!」
「授業中なのに話が盛り上がるって実は仲が良かったの?」
等と矢継ぎ早に言葉がまくし立てられる。
あいにくとこの質問に返答する気はなく無言でやり過ごしていようと思っていたら1人の女の子がなぜそう思ったのか分からない質問を先程より声を落としてしてきた。
「もしかして、赤羽くんのこと好きだったりするの?」
まさかこの類の話をここで振られるとは考えていなかったのでずっと作っていた無表情が困惑と羞恥の感情に崩される。
私のその様子をどう捉えたのか考えたくもなかったけれど、こちらが何かを言う前にサッと頭を振り
「やっぱりなし、何も聞かないから。あと、誰にも言わないから安心して」
と小声で耳打ちしてその場を去っていった。
私は余計に羞恥心を感じこの頃には赤羽の女装の話など完全に抜け落ちていた。
結局この後は予鈴に救われて変に追求されることはなかったし、業間事に話しかけられるということはなかったのでひとまず安心だった。
ただ、冷静になればなるほど私が赤羽に何を言ったのかを改めて理解し、授業の内容など殆ど右から左へと流れて行ったのだった。
昼になればいつも通り、いやいつもよりも少し急ぎ気味に屋上へ行く。
ここは人が滅多に来ることはなく、万が一人が来ても1目では分からないよう陰に隠れて朝に買ったパンを食べていく。
両親は共働き、私自身も料理は苦手なので必然的に買ったものを食べる以外の手段がないのだった。
私の学校でのイメージは品行方正、文武両道の何でもできる美人の女の子の様だけれど、実際はそれほど大したことはない得手不得手のある普通の女の子だった。
「赤羽くん、頼んだら女装としてくれるのかしら」
誰もいないからか自然と独り言零れ、同時に私自身の気持ちにも気がつく。
私はあの可愛い男の子の同級生が女装してさらに可愛くなった所が見てみたいのだ。
自分の気持ちに整理が付いてもそうしてもらう為に行動を起こす勇気があるのかと言われるとげんなりするのでこれ以上は考えないようにしておく。
考え事をしながら無意識にパンを頬張っていると普段より早く食べ終わってしまう。
人間は良い方向でも悪い方向で感情が高ぶっていると行動は勇み足になる事を実感しながら教室に戻ると、何故だが朝よりも多い人だかりがクラスの中に出来ていた。
なんだかデジャブを感じる光景に戸惑いながら、その輪の中心人物を確認するとそれは今朝一緒にクラスメイト囲まれた赤羽だった。
一体何の話をしているのか気になりつつも、自分との関係に関する話だったら気まずいと思い、しぶしぶ教室から離れようとすると突然一際大きな声が響く。
それは赤羽の声で、内容から察するに何かしらがきっかけとなりまた赤羽の女装の話をしているようだった。
赤羽の女装の話とわかり、この場から逃げたい気持ちよりもこの話の結末に対する興味の方が勝り目立たないようにしながら話に耳を済ませていた。
要約すればこうだった、赤羽の友人の立花が女装コンの話を持ってきていた、いわく優勝すれば温泉旅館に1泊2日の賞品があるらしい。
それの為にやっぱり女装して欲しいと赤羽に言ったのをきっかけに話はヒートアップ。
大きな声になっていったこともあり周りにも話を聞かれて今の状況のようだった。
正直驚きよりも呆れる気持ちの方が強かった。
朝一に似たような事をして事が大きくなったというのにまた同じ事をするのだから。
もはや立花が何か仕込んでいるのではないのかと疑いたくなるほど短絡的な行動による状況だった。
かと言ってこの話、私としては見逃せない、もしかしたら赤羽女装姿を見られる最初で最後のチャンスかもしれない、と思うと何もしない訳には行かないという気持ちが込み上げてくる。
決意が固まり、後はどうやって話題に入って行こうかと思うと、考え事集中しすぎたあまり隠れ方がおざなりになっていたようでクラスメイトに存在を気づかれる。
陰に隠れていたことで何かを言われるかもと少し焦ったけれど、私は赤羽の隣の席だったこともあり、人だかりが邪魔だったのでは?という都合のいい解釈をしてくれた様で皆が道を開けてくれる。
人だかりの輪に道が出来自分の席の方に進んでいく、席に到着し赤羽の方を見る。
ここ以外にもうチャンスは無いとさっき固めた決意をもう一度頭の中で復唱し赤羽に声をかける。
あくまで状況を理解していない風を装い、全神経を注いで無表情を貫く。
私が女装をしないのかという質問をし、その上から女装するなら私がコーデすると名乗り出ることで周りは驚きながらも便乗してくれる。
会話の中で立花も女装する流れになったけれどそこは私的にはどうでもよかった、彼は顔は整っている物のそれは可愛いではなくかっこいいタイプだったからである。
どうせなら可愛くしようとは思うけれどどうなるかはやってみないと分からない、別に私は女装メイクのプロという訳では無いのだから当然である。
なんだかんだ想定外が起こりつつも結果的には私にとって最高とも言える結末を迎えたので満足でだった。
けれど今後はもう少し後のことも考えて行動しようと心に決める出来事が沢山あったのだれけど、それはまだ先の話だった。
何とか休憩時間内に書ききれて満足してます!
奏主観の話でしたが如何せん奏が喋ってくれない!
殆ど自己完結しちゃってて話が余計に長くなっちゃいました!
読みづらかったらすみません!
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